船の沈む予言書の紛失
僕はよく、船のような生き方をしていると言われる。
船と言っても渓口優光のような駆逐艦のような船ではなく、もっと小さい、例えば草舟。
大きな波には逆らわない。
そのせいか稀に、時に最近は「コウカイ」をすることがある。
そして今、現在進行形で「コウカイ」をしている。どうやら嵐が来たらしい。
昼食を食べないかと誘われて、悪い気もせずついて行ったが……。
「あのさぁ…」
「どしたの?」
「なんで昼間っから高校生がイタリアンのフルコースたべてんの?。」
目の前に出されたメニュー表に書いてあるさぞ美味しいであろう食べ物の写真の左下に、とんでもない金額が書いてる。
「いいじゃんいいじゃん、やりたいことやってるだけだからさ!」
なんて訳の分からないことをほざいているので、
「別にもうすぐ死ぬわけじゃないんだから、今日じゃなくてもいいと思うよ」
と真っ赤な嘘をついておく。
またいつものように「そだねー」とか感情もないようなことを言うのかと思ったが、
今日は違うらしい。
彼女の顔が曇っている。まるで、僕が余命を言い渡された日のような、曇天。
その顔の理由は、今の僕に知る由も無い。
……、というのも束の間で彼女の顔にはいつもの笑顔が張り付いていた。
彼女がどこかに目配せすると、まるでRPGゲームで変なタイミングで湧いてきた敵キャラクターのように店員がやってきた。
「お待たせしました渓口様、アンティパストでございます。」
アンティパスト、というのは前菜、つまりはサラダだということを今知った。
その後もセコンドピアットだのフォルマッジョだの聞いたことのない名前のものを運んできたが、食べてみれば当然のことではあるがなかなかに美味だ。
さすがは完璧な五つ星、完璧だった。
会計の時に言い渡された金額以外は……。
その後は彼女と本屋に行ったり特に意味のない会話をして今日は別れた。
重大なことに気がついたのはその日の二十三時過ぎだった。
「見栄えの良く無い診断書」を紛失してしまったらしい。