愛情に疎い少年
大人になれば身長は伸びる。幸い僕は顔立ちに恵まれているらしく、仲間もいる。
なのに、空は遠くなる。
子供の頃は手が届きそうなくらい近くて青い空は、今では黒い。遠い。
いや、実際は青い。あれ、えっと、比喩だ。今のは比喩表現。言葉のあやっていうやつ。
そんのこんなで、僕は今学校の屋上に居る。
「……何してんのー?」
聞き慣れた声がする。声の主は分かるが一応反応しておく。
「いきなり話しかけないでもらえるかな。今人生について考えてたんだ。」
まともなことを言ったつもりだが彼女は、
「いきなりじゃない話しかけ方なんてあるの?それに人生についてなんて言って、どーせまた頭の中で空が黒いとかやっぱ青いとか言ってたんでしょー?」
とか笑いながら言ってくる。
「君には超能力でもあるの?」
全く女の勘とは恐ろしいものだ。
ちなみにこの厄介な女は渓口優光。クラスでもなかなかに人気のある少女らしい。
まあ人に興味のない僕にとってはどうでもいいが。
「あんた早く彼女作りなさいよー。」
昨日別れたやつが何を言っているのだか。
「僕は、そんなのに興味ないよ。」
と言っておくと。
「だからともだちができないんだよぉー」
全くうるさいものだ。
………なんて呑気なことを授業をサボって屋上で何の変哲もない高校生2人が話しているのだが、実を言うと僕には時間がない。
この病気に気付いたのは去年の夏、今から一年前。余命は一年らしい。
そう一年。つまり今年の夏が最期ってことだ。それを知るものは自分しかいない。
親は小二のときとっくに死別した。
故、僕は愛情をあまり知らない。
昔からよく本を読んでいたせいか、本を基準に考える癖が付いている。
でもこれだけは言えると言うことが二つある。
一つ、現実は小説のように美しくはない。
幸せをくれる可愛い女性も、僕を病から守ってくれる勇者もいやしない。
人は皆、僕に興味はない。そして、僕も人に興味がない。
一つ、現実には決まりきった結末はない。
人はいつ死ぬかなんて分からない。
余命が決まった高校生だって、余命まで生きられるとは限らない。
明日、車に轢かれるかもしれない。もしかしたら今、目の前にいる少女と喧嘩して殺されるかもしれない。
だから、一日の価値っていうのはみんな同じだと思う。同じでなければいけない気もする。
なのに最近、朝顔を洗う時に鏡を見ると必ず居るそいつは、1日を価値あるものにしようとする。
平然を取り繕う。
本当は死ぬのなんて嫌だって、心は言っている。ああ…。
目を開く。変わらない屈託のない笑顔を浮かべる彼女がいる。
「ねぇ、ご飯食べ行こ?」
言っていることはいつもと変わらないのに、その顔には何か深いものを感じた。気遣いっていうか…、なんていうか…。
そんなことはさておき、断る理由もなく第一に自分は大きな波には逆らわない主義なのでついて行くことにした。
大きな波っていうのは、彼女を尊敬しているとかそういうのではなく、ただただ気が大きいような、騒がしさの比率が人よりも大きいような気がするっていう意味だ。
それに興味のない僕だが、僕にどうしても興味を持ってもらいたそうな彼女には例外として少し興味はある。
それに一緒にいてつまらなくはない。……と思った一時間前の僕を殴りたい。