チェーンスモーク
短編映画の脚本のプロットです。
自分で持ち続けるのも悲しいので初めて投稿しました。
小説とは少し違うので読みづらいです。
ライブハウス裏の二つのビルの間の空間。
幅一メートルも無い空間に煙が充満している。
人の入れ替わりで開いたり閉じたりする扉からは、バンドの演奏と観客の熱が漏れ出している
。中島紫乃25歳が吸い終わったタバコの火を潰す。足元には大量の吸い殻。
「フゥー」と大きく肺から空気を吐き出し、ぼーっとした顔をする。
タバコの火を消して気だるそうな動きで革ジャンのポケットからタバコを取り出し、火をつける。
気持ちの悪そうな表情でタバコの火を足で潰して、ライブハウスの扉の方へと歩いていく。
観客たちが盛り上がっているライブハウス。
ステージ上でボーカルが観客を煽っている。
ライブハウスの脇から真剣な表情でカメラを覗いている紫乃。
ボーカルが更に観客を煽る。それに応えて観客もより一層盛り上がりを強めていく。
何かを察知したような表情でカメラから目線を外す紫乃。
ボーカルの煽り方を見て早い動きでカメラを手持ちの物に切り替える。
更に観客を煽るボーカル。
さっきまでの撮影のポジションを離れて、人をかき分け舞台袖へと走る紫乃。
観客を誘導し始めるボーカル。
舞台袖に上がった紫乃。
会場のテンションが最高潮に達しボーカルが背中から身を投げ出すように観客たちの方に倒れ込む。
その瞬間を舞台袖から一緒に倒れ込みながら撮影する紫乃。
更に盛り上がる会場。
ライブが終了し店仕舞いの準備をしているライブハウス。
紫乃も使用した機材の片付けに追われている。
「よっす、紫乃ちゃん〜前の話考えてくれた〜。先方の事務所さんから名指しの指名なんてなかな無いんだから〜。イエローサブマリンとの仕事だよ〜。今を輝くトップバンドじゃん」
ライブハウスのオーナーの村本瑛氏48歳が紫乃に話かける。
「おじさん。その話、前も断ったじゃ無いですか。うちはもうベースはしないって決めたんです」と紫乃が返す。「またまた〜紫乃ちゃんほんとにメジャーバンド嫌いだよね〜おじさんとしては中学生の時から娘みたいに思ってきた子を世界に羽ばたかせたいのよ、なんなら、うちでまたバンドする?粒ぞろいのメンバー揃えるよ。伝説のインディーズバンドの復活みたいな?なんならおじさんも参加しちゃう!!」と村本。
「うちは今で十分幸せです。ましてバンドなんてもうできないですよ。何年ベース触ってないと思ってるんですか」と紫乃
「悲しいなー、今でも紫乃ちゃんのベース覚えてるよ。あれは痺れたね、うん」
村本が昔を懐かしむように頷く。
ライブハウス裏の喫煙所。
ビルの間の隙間に空間がある。室外機の上に腰かけタバコを吸う紫乃。
「紫乃さん、隣いいですか?」比奈が紫乃に話かける。
紫乃が室外機の端に座る位置を動かして比奈の場所を作る
「紫乃さん、今日の私のライブどうでした?紫乃さんのおかげで私、今、絶好調です。大手の事務所さんからも声がかかってきて、3ヶ月後にメジャーデビューですよ。それもこれも紫乃さんが最高のライブ映像を撮影してくれたおかげです。一緒に観客に飛び込むカメラマンなんて聞いた事ないですよ!!見てください。インスタでこんなにバズってる!!本当にありがとうございます」と比奈。
「うちのお陰じゃなくて比奈の実力だよ。昔っから見てきたけど比奈には光るものがある。」と紫乃。
「ライブの方もそうですけど、音楽自体、紫乃さんに教わったようなもんですから。2月の24日にメジャーデビュー前、最後のライブをここでするんです。本当は私の晴れ舞台を紫乃さんに撮影してもらいたいんですけど事務所の方がもう専属のカメラマンを決めちゃってるみたいなんですよ。せめて直接見てもらいたいんで絶対来てください」と日菜。
「ありがとう。必ず見にいくわ」と紫乃。
自宅で寛ぐ紫乃。
使用した機材の手入れをしている。部屋の隅に置いてあるギターケースが目に留まる。手を伸ばしてケースを開ける紫乃。中には年季の入ったフェンダーのベースが入っている。ベースを手に取り、弦を貼り直す紫乃。ゆっくりと演奏を始める紫乃。演奏に少し身が入ってきたところで紫乃の手が止まる。力が抜けたようにベースを元の場所に戻す紫乃。タバコに火をつける。二本、三本とタバコを吸っている紫乃。三本目を吸い終わってダルそうに布団に潜り込む紫乃。布団の中でまるまる紫乃。
過去 夏の大手音楽事務所の一室。
「なんでだよ。うちらは四人でここまで来たんだよ。何だよ春樹とうちとしか契約しないって」ベースを担いだ紫乃20歳がマネージャーを怒鳴りつける。
「紫乃、落ち着けって大智と遥もそれで納得してるんだ。もう決まった話なんだよ」春樹(Gt.Vo)が紫乃を宥める。「うちら、ギター一本、ベース一本で生きていくんだって約束したじゃん。何でそう簡単に曲げられんだよ」紫乃が怒りながら言う。
「才能で食っていくって、こう言うことだろう。いつかは壁にぶつかる日が来るって分かっていたはずだ。目を背けるなよ紫乃。俺は大智と遥の分まで登っていくからな」と春樹。
「何でそんなに割り切れんだよ」と紫乃が吐き捨てて事務所を出ていく。
現在 ライブ中のライブハウス。
ライブの撮影をしている紫乃。少し微笑みながらステージのバンドを見守りようにカメラを覗いている。その姿を更に見守っている春樹がいる。
ライブハウス。
撮影の片付けを行っている紫乃。
「紫乃ちゃん紫乃ちゃん。あなたにどうしてもバンドに入ってもらいたいって事務所の方々来てくれたよ」村本が紫乃に話しかける。
「紫乃ちゃんも挨拶して。イエローサブマリンのVoの尾崎春樹くんだよ」
「紫乃、久しぶりだな」
春樹が紫乃に話しかけるが紫乃は無視する。
「じゃあここは若い二人に任せておじさんは退散、退散」村本が消えても準備する手を止めない紫乃。
「紫乃、俺のバンドに参加してくれ。お前の力がまた必要なんだよ」
手を止めない紫乃。
「昔みたいにまた一つのチームでやっていこう。お前はここで燻っている器じゃない。俺と組めばお前は業界で最高のベーシストになることができる」
「昔みたいにって。大智と遥を踏み台にしたみたいに。うちも使い潰すの?そんなのごめんだ。私はお前の名前なんか借りなくても生きていける」紫乃が春樹を突き飛ばす。
「紫乃!!お前は分かってない、お前にはっ」
春樹が怒鳴り始めたところを村本が遮る。
「話は読めないけど、自分の娘に怒鳴られてむざむざ見てるだけでいられる父親はいないわけよ。とりあえず今日のところは帰ってもらっていいかな春樹くん」村本にメンチを切られるが引かない春樹。
1分経つか経たないかぐらいで春樹が引く。
「すいません、自分が冷静じゃなかったです。また後日伺います」
ライブハウスから出ていく春樹。
「紫乃ちゃんごめんいらないお節介をかけて。まさか二人が喧嘩別れしてたなんて。感動の再会って感じで一人で舞い上がっちゃってた。でもこんなことがあった後だけど、さっきの話はやっぱり真剣に考えてみてほしいの。あの人すごく短気だけどあなたのこと良く考えてくれてる。あなたの今後のためにもね」村本が紫乃に言う。
「あいつはうちのことなんか見てないですよ。自分のために利用したいだけなんです。昔も今も。」
ライブハウスから出てきた紫乃。
駐車場に止めてある自分のバイクのところまで歩く。表情や歩き方が浮ついている。
「紫乃さん!!」後ろから比奈に話しかけられる紫乃。
「比奈こんなところで、どしたの?」
「さっきライブしてたの、私の後輩なんですよ。それで見にきてたんです。それより紫乃さん、久しぶりにバイク、乗せてくださいよ」
少し笑顔がもれる紫乃
「いいよ、もうこんな機会もないかもしれないしね」
二人がバイクに跨って駐車場をでる。
紫乃の運転するバイクに比奈を乗せて首都高を走っている。
「良いライブでしたね。仲間とのライブが楽しいのが伝わってきて、こっちまで照れちゃいます」
「そうね。仲間とライブをしている瞬間ほど、興奮する時間ってないものね。」紫乃が答える。
会話が途切れてバイクのエンジン音だけが響く。
「ずっと気になってたんです。どうして紫乃さんってライブカメラマンをしてるんですか?バンドをしないにしても色んな仕事があるでしょう。それを一からカメラマンを始めるなんて」比奈が紫乃に聞く。
「どしてだったかな。少しでもバンドに関わりたかったのかも」はぐらかすように比奈に話す紫乃。
ライブの撮影を終えた紫乃。
ステージ横で今日のライブについて依頼者のバンドと話している。
「評判通りのとてもいい映像です。本当にありがとうございました」バンドのリーダーが紫乃に言う。
「こちらこそ良い仕事ができてよかったです」笑顔で紫乃が返す。
「そういえば紫乃さんってもうベースはもう弾いてないんですか?自分たちも紫乃さんと春樹さんに憧れて音楽始めたんですよ。よかった一曲だけ一緒にやりましょうよ」
「いや、今はもうやってなくて」
「一曲だけお願いしますよ、夢だったんですよ伝説のインディーズバンドのメンバーとセッションするの」
話に流される紫乃。
セッションが始まってしまう。
片付けをしていたスタッフたちが集まってくる。
最初は渋々だった紫乃。
だんだんと体が乗ってきてしまう。
スタッフも盛り上がってくる。
笑みが溢れてしまう紫乃。
曲が最高潮に登るその時我に帰る紫乃。
突然演奏を止める。
「ごめん。うち…」
「いや、自分たちこそすいません、勝手に巻き込んじゃって」
足早に立ち去る紫乃。
喫煙所に逃げてきた紫乃。
タバコに火をつける。
煙を深く吸い込んで落ち着こうとする紫乃。
「紫乃ちゃんやっぱりここにいた。」村本が話しかける。
「あなたに何があったのかは事務所の人から聞いたわ。」
村本が話かけるのを、タバコを吸いながら聞いている紫乃。
「昔のことなんか忘れちゃいなさい。いい、あなたの未来は開かれてるの。さっきの演奏聴いてた。全然衰えてない。今からだってバンドでトップを目指せる腕してる。春樹の話に乗れば絶対成功する」
「未来なんてどうでもいいよ。」
紫乃が怒鳴る。
「うちはあの時、メジャーデビューの誘いを蹴ったときにもう死んだの。春樹の言っていたこともわかる。薄々感じていた、春樹と私、大智と遥では音楽への熱量が違うって。いつかは現実と向き合う日が来るって。でもできないじゃん。今までずっとやってきた仲間を置いていくなんて。あの時うちは曲がっちゃったの」
村本が答える「曲がっちゃったか…」
村本もタバコに火をつける。
「若いわねぇー。」
タバコをふかす村本。
「紫乃ちゃん。人生曲がっても良いの。曲がらない道なんてないでしょ?曲がった先でまた真っ直ぐに走れば良いのよ。でもあなたは今止まってる。曲がったことに囚われて道に戻ることも、先に進むこともできてない。おじさん、紫乃ちゃんには立ち止まることだけはしてほしくないの。立ち止まり続けると動けなくなっちゃうのよ」
村本が2本目のタバコに火をつける。
紫乃もタバコに火をつける。
村本がいなくなった喫煙所。
タバコを口に咥えて無表情で考え込んでいる紫乃。
ライブハウスの入り口から声が聞こえてくる。
自分が撮影していたバンドのメンバーがライブハウスから出てくる。
メンバーは口々自分達のライブの感想を口にして盛り上がっている。
「ほんとサイコーだったな」
「俺たちのスタートって感じ最高だ」
「このまま上り詰めてやる」
バンドを眺めている紫乃。
自分達の昔姿と重なる。
紫乃がタバコの火を潰して立ち上がる。
2月24日のライブハウス。
比奈のデビュー前最後のライブを見にきている紫乃。
ライブハウスには今までで見たことがないぐらい観客が集まっている。
「紫乃」
比奈のライブを聴いていると春樹に話しかけられる。
「春樹」
ばつが悪そうな紫乃。
「紫乃、今度は最後まで話させてくれ。お前の才能は本物だ。音楽に対しての情熱に溢れている。俺以上だ。そんなお前が埋もれていくのを俺は見ていられないんだ。俺と一緒に来てくれ紫乃」
「うちは」
答えを言いかける紫乃。
しかし会場のざわつきで掻き消える。
「すいません、機材のトラブルです。少し待ってくださーい」
マイクで比奈が会場にアナウンスする。
しかしいくら経ってもライブが再開せず観客が苛立ち始める。
「まだかよー」「何の時間これー」
焦りが見えてくる比奈。
「もう少しですから、もう少しですから」
紫乃が比奈を心配して舞台袖に上がる。
後ろから春樹とMA室から村本もやってくる。
「どう言う状況なの?」紫乃が比奈に聞く。
「シンセサイザーのデータが飛んでるみたいで。バックアップから呼び出すのに時間が…」比奈が答える。
比奈の答えを聞いた紫乃が更に聞く
「どれぐらいの時間が必要?」「10分ぐらいあれば…」「俺が場を繋ごう」
春樹が横から入ってくる。
「待って」春樹を遮る紫乃。
「私もやる」
「紫乃、お前無理するなよ」
「春樹、うちね、もう一度真っ直ぐ走り出すことにした。だから今日がそのケジメなの。大丈夫」
「じゃあ、おじさんも混ざっちゃおうかな」
村本が入ってくる。
「比奈、Voをお願いして良い?おじさんはDrをお願い。春樹はGtね。今日の主役はひなだから。Baは勿論私。それでいい?」
「構わない」
「勿論良いわよ」
「伝説の復活ですね。私感激です」
舞台が暗転から上がる。紫乃の5年ぶりのライブが始まる。
ライブハウス裏の二つのビルの間の空間。
幅一メートルも無い空間に煙が充満している。
人の入れ替わりで開いたり閉じたりする扉からは、バンドの演奏と観客の熱が漏れ出している。
紫乃が吸い終わったタバコの火を潰す。足元には大量の吸い殻。
「フゥー」と大きく肺から空気を吐き出し、ぼーっとした顔をする。
気だるそうな動きで革ジャンのポケットからタバコを取り出し、火をつける。
「あー、だるい」
ガクッと頭を下げて笑いながら紫乃が言う。
「紫乃ここにいたのか」
春樹が言う。春樹が紫乃の横に座る。
「音楽、また始めてくれて嬉しいよ」
「春樹」
紫乃食い気味に春樹に話しかけ、タバコの火を消して向き直る。
いきなりの返答にびっくりする春樹
「あなたとの仕事はやっぱりできない。過去がどうとかそういうのじゃなくて。もうバンドはいいの。」
「お前、あんな、すげー演奏してどの事務所もほっとかないぜ、もう俺とである必要もない」
「やっぱりうちの中のバンドっていう道はあの時に終わっちゃったんだよ。だから今日が本当のケジメ。この5年間ライブカメラマンていう仕事に誇りを持って向き合ってきた。色んなバンドを見送ってきた。仲間たちが仲間たちのまま真っ直ぐに進めるように。そんな道をおいそれと曲げることはうちにはできない。」
真剣な目で見つめ合う二人
「本当にそれで良いんだな」
タバコの火をかき消す紫乃。
「うん、チェーンスモークはもうお終い。」
「禁煙すんの?」
「それは……おいおい減らしていく方向でお願いします」
主人公『中島紫乃』
25歳のライブカメラマン。知り合いのツテで小さなライブハウスを点々としながらライブカメラマンの仕事をしている。学生時代は自分もバンドをしていた。メジャーデビュー手前て忽然と消えてしまったインディーズバンド。伝説として語り継がれている。楽器はベース。タバコの銘柄はラッキーストライク。過去を清算したい。
『村本瑛氏』48歳
ライブハウスを経営している。オネエのおじさん。昔から紫乃の面倒を見ている。
『朝日比奈』20歳
紫乃のライブハウスの後輩。
『尾崎春樹』27歳
紫乃とインディーズバンドを組んでいた。バンド「イエローサブマリン」のVo。インディーズ時代はGtVoだったが事務所の意思で変更。