冷静な先輩が下ネタに弱かったら。
「……おそい」
いつもなら、200円のガチャガチャを回した時みたいなくぐもった音と共にもう出てきても良いのに、やけに音も無いし、出てくる様子もない。
まぁ、流石にTSなんて初めてだろうし、少し受け入れがたいのかもな、先に行ってるか。
(ガチャ)
なーんて、もうそろそろ来るってわかってたんだけどな、
てかなんだ悠、今までとは打って変わって『ガチャ』ではあるけど至って常識の扉の通行をしてくるじゃないか。なんだか海賊が逆に正規の方法で入国するようで不気味なのだが……
「……よし、じゃあ行くか」
少しの恐怖感からどうにも前を向いたまま後ろのポンコツをつれだそうと試みる。
「先輩、待って、見て、おっぱいが」
やっぱいたずらかよ、何を見てって?
………ん? おっぱ…? こいつは今なんて?
「やばいっすよね? 自分のおっぱい」
は? 何言ってんだこいつ、俺は後ろを向いたらどうなる? 早朝8時半から警察に誘導されてお世話になってしまうのか?
しかし、こいつがガチでポンコツなら……
「……悠、裸の付き合いってのは、比喩の一種なんだ、別に真に、裸になるってのがその意味じゃねーんだぞ」
「はい? なんですか、急に、忘れてたかのように先輩面ムーブ別にいらんすけど」
あ? こいつ人の気遣いをハラスメントにしようとしてない? いやー、怖いなぁ現代人。
「いや、気遣ってんのわからんか? ここは外で、お前が裸で出てくんのは極めてTPOに欠けてんだよ、大体なぁ? 現代日本だと犯罪だぞ? 高校学生寮という青春施設を地方のガバガバモラルな村にするな」
「いや、服は着てるけど、胸元が緩くて見えちゃってるってのを言いたかっただけなんすけど、なんすか、勘違いしてました? 自分がおっぱいその他諸々あけっぴろげてるとでも思っちゃったんすか? ………あ、これってもしかしてカオマッカーな展開っすか?」
ちっ、こいつ絶対笑ってんな、極悪な笑みを浮かべてんな。
しかしまぁ、着てるなら別にわざわざこんなやつ相手にモラルを遵守することもなかったわけだ。
「ったく、元はと言えばお前のその短絡的な説明のせいでだ……な……」
悠の方を向いたところで、対抗するように作り出していたニヒルな笑みがその大きな双丘によって壊される。
………あー、ね? 確かにダメだわこれは。
悠の着ている体操着は、想定通り大きかったのだが、その加減は想定以上だった。
男悠の肩幅がデカかったのか、女悠の肩幅が小さいのかわからないが、体操着の首元は肩が出るくらいには落ちていて、胸も4割ほど露出してしまっている。
「………悠、俺が家行って妹から服借りてきてやるよ、んで、今日の放課後服を買おう」
「んー、せっかくなら俺もいくぞ、当事者だし」
「馬鹿言え! お前その格好でこられたら俺が誤解されるだろ」
「いや、でも急に変な理由つけて兄が服を借りたいって言ってくる方がよっぽど不審ではなかろうか……」
なんかごちゃごちゃ言ってるが、絶対に連れて行かん。
………悠のそんな格好誰かに見せてたまるかよ。