やけにポンコツな後輩女と冷静すぎる男
「おーい、高梨! 起きろ!」
ガン、ガンと扉がへこみそうな勢いで同じ学園寮の隣に住む、高校の後輩、高梨 悠を無理やりに起こす。
扉はすでにすこし1箇所において塗装が剥げており、大家さんには申し訳が立たないのだが、これも後輩のためと言い聞かせて正当化する。
「今日一限地学基礎だろ! あんまり休むと単位落とすんじゃなかったかー?」
バン! とpcゲームであれば壊れるくらいには強く扉を叩いてみるが、返事はない。
「あぁ、もう! 入るぞ!」
こういうのも初めてではないので、あらかじめ託されている合鍵で鍵を開ける。
「まったく、いつまで寝てんだよ………お?」
いつものように、玄関から廊下にまで達したゴミ袋の山を開拓しつつ寝室の障子をあけると、そこにいたのはちょうど悠くらいの年であろう女の子だった。
「やばいっす、日比谷先輩、自分、女になった? んですか?」
彼女、開口一番、大混乱しているのか文法が破綻しているが、俺も当てられて、おかしくなっているのだろう。
「もしかして悠の彼女? 」
俺も初めて会ったこいつを目の前に、未曾有の大混乱に陥っていた。
「先輩! 自分っすよ! 高梨です!」
「……ああ、妹さん? 」
「ちゃうて! 悠! 」
さっきまで間違って親のスマホでえっちな広告押しちゃった小学生みたいにあたふたしてたのに、今はもうエセ関西弁を吐けるくらいに調子が良いこいつは、本当に、悠なのか………?
「………座右の銘は?」
「1に友達、2に友達、3に恋人4にヒモ、っす」
あぁ、本物じゃないか……
「よう、おはよう悠! さぁ、早く学校へ行こう!!」
「ういっす! いきましょう!! ……ってちょまてーい!!!!! 自分の! 身体! オンナァ!!!!」
なんなんだこいつは。………ここまでいくと悠ではないのか?
お笑いにしても半世紀くらい前のだろ、そのノリツッコミは。
「お前、とりあえず悠なら高校に行かなきゃだろ? ほら、服着替えろ、制服は学校に行って貸して貰えば良いから」
ゴミ袋の山からすれば空き缶専用ゴミ箱くらいには整頓された箪笥から押し込まれている体操着を取り出し、半ばそれを投げつける。
「っておい! 確かに! 体操着ってブカブカでも案外ヒモできつくできるけど!! 確かに一番兄弟からおさがりにされてるけど!! でももうちょっと驚こう? ね?」
「でもお前、もし本当に悠なら、地学基礎の単位やばいんだろう? 早く行かなければ」
「うーん、社会派!! 後輩の将来を案じる姿は素晴らしく格好いいです! けど!! 後輩が女になってんですよ!!それもまあまあ可愛く!!!」
なんだ、準備しないでいけしゃあしゃあと自己評価できるくらいの時間はあったんじゃないか、早起き…こいつは本当に悠なのか?(2回目)
「無人島に一つ持って行くなら?」
「そりゃもちろん! あのどんな液体でも飲み水にできるスーパーマシンですよ! 小便すらも安全にできる温かみを持ってるアレ!! まぁ小便はもとよりあったかいんすけど!! 」
なんだ、悠か。長々と回答に4行使った割に中身が無い。
ここまで空っぽな回答にドヤ顔でポーズ決められるのは悠くらい、というものだろう。
「やっぱり悠なのか、じゃあ、さっさとその服脱いで、これ着て、遅刻したら不味いから、走るぞ」
「だから! 自分まぁまぁ美少女になってるんですよ!
ほら! 定番の! 『おっ、おう、(かわいいなテレテレ)』とか! 『ほら、早くしろ(胸見えてるってのテレテレ)』とかは!? さっきから語尾になんにも生えてこないんすけど!」
だぁ……うるさい、さっきから、なんの定番だよ。大体性別変わるのが定番じゃないだろうが。あまりに例外だよ。
「まぁ、わかったよ、外で待ってるから早く着替えてこい」
半ば家から出る形でそうとだけ放って外へ出てしまう。とりあえずは早く行くことを優先せねばいけない。