王都同士の間を私が転移すれば遠距離結婚も出来ると言われて少しだけやる気が出ました
本日2話目の更新です。
「はあ」
私はため息をついた。
「アン、元気を出して」
フィル様は言ってくれるけれど、私はとても憂鬱だった。
私が憂鬱な理由は、これから会議だからだ。会議は嫌だ!
アンネローゼ王国の運営を決める会議がこれからあるのだ。嫌だけど、最高責任者の私が出ない訳にはいかない。
元々、オースティンの王立学園で副委員長だった私は会議は苦手だった。何しろ平民はほとんど私一人、特に私のいたAクラスは子爵家以上の子息令息が大半で、王太子に公爵令嬢、侯爵令嬢と続き伯爵家の子息令嬢なんて掃いて捨てるほどいた。そんな中、平民の私が副議長なんて基本的に無理。本当に疲れた。
まあ、その時の議長は、クラス委員長で王太子のフィル様が務めてくれていたんだが。女性のトップは私で本当に大変だったのだ。
私が元王女だと判明してからも、元々ほとんど平民の教育しか受けていなかったし、貴族然と出来るわけがない。判ってから1年も経っていないし。
そんな私が会議をうまくやれるわけないじゃない。
ここでは最高権力者なんだけど、慣れていないし、いつも間に挟まって針のむしろなんだけど。
ここではオースティン王国から一緒に来た大貴族メンバーとこちらにいた地元地方貴族メンバーが対立しているのだ。
地元の人間からしたら、ここはスカンディーな王国で、よそ者は黙っていろって感じだ。でも、オースティンから来た面々にしたら、お前らじゃ任せられないからやってやっているんだろうって極論するとそうなるのだ。
そもそも、オースティン王国側は、この大陸でも1、2を争う教育水準の高い王立学園の優秀な人材の多くが来ているのだ。スカンディーナの地方貴族が対抗出来るわけもないのだが、それでも貴族。プライドだけは高いのだ。
そして、私が考えるに、一番の問題点は、オースティン王国の面々は今は手伝ってくれているが、いずれはオースティンに帰るという点だった。
皆、今はたしかに面白がって私を手伝ってくれている。とても助かっている。彼らがいなかったら、私は今頃ブルーノに抹殺されていたはずだ。
でも、親友のエルダは公爵令嬢、イングリッドは侯爵令嬢。そして、それぞれの兄が好きで兄達は当然未来の公爵と侯爵だ。その夫人となるべく二人は帰るに違いない。
私の婚約者のフィル様も本来私が嫁に行くはずだったから婚約を結べたのだ。もしこの謀反と言うか正義の戦いが成功して、私が国主になったら基本的に国主同士の婚姻なんてあリ得ない。
失敗してオースティンを追われたら、当然、大国の王太子の婚約者なんてやれっこないし、成功しても国主同士の婚姻なんて殆ど出来ない。だからフィル様との仲も、いずれは破綻するのは確実なのだ。それを考えると、何か本当に悲しくなる。
せっかく前世で一推しのフィル様と婚約して、なおかつ、一応、ラブラブの関係を作れたのに。
このまま行くといずれは解消されるのだ。フィル様は違うって言い張るけれど。どう考えてもそうだ。
更に失敗したら処刑されるか、一生涯ブルーノの刺客を怖れて逃亡生活。成功しても、親しい友人達は殆いなくなるボッチ生活。考えたらどっちにしてもあんまりいい人生は送れそうにない。
他の面々も恐らく同じ様な感じだ。いずれはいなくなるのだ。当然のことながら、スカンディーナの事はスカンディーナでやらねばならないのだ。
だから会議でも、言っている事はどう考えてもオースティン側が正論なんだけど、スカンディーナ側はプライドだけは高いのだ。間に入った私はどうしてもスカンディーナ側に立たざるを得なくなり、この前の馬車の中のようにサンドバックにされてしまうのだ・・・・
「アン、サンドバックって何よ。サンドバックって。私はあのダメダメなニクラスに伯爵たるものの心構えを教えただけよ」
イングリッドが言うし、
「そうだ、アン。俺は先輩王太子として時にはダメなものは見捨てなければいけないって指摘しただけだぞ」
「そうよね。このまま、スカンディーナを統一したら、その中には有能な者もいるわよ。そういう者をうまく使っていけばいいのよ」
エルダまで言うんだけど。
「あのね、あなたたちはいずれはオースティンに帰るからいいかもしれないけれど」
「何言っているのよ。私はイングリッドと違って、アンを見捨てたりしないわ。アンと一緒にずうーーーっといるつもりよ」
エルダが言い出すんだけど
「えっ?」
私は彼女が何を言っているか判らなかった。
「だって、あなたは公爵家の令嬢じゃない」
「元よ。私は実家とは完全に縁を切ったんだから」
「でも、あなたの好きなクリストフ様はいずれはオースティン王国に帰られるでしょう?」
「それは判んないわよ。そう言うふうにあなたは言うけれど、あなたの婚約者のフィルだってオースティン王国の王太子じゃない」
「えっ、だから、いずれは別れ・・・・」
「ちょっと待て、エルダ。俺は王太子は降りているぞ」
私の言葉をぶった切ってフィル様が主張するんだけど・・・・
「そう言っているのはあなただけでしょ。だって陛下の許可が下りてないじゃない」
「やっぱりそうよね」
私が少しがっかりして言うと、
「そんなこと言ったらお前も公爵の許可は下りてないだろう! 公爵が泣いて戻ってきてくれって言っているそうじゃないか」
「ふんっ、戻るわけないでしょ。絶対に許さないんだから。お父様は私の大切な友人のアンが危険にさらされされるのを教えてもくれなかったのよ。絶対に国に帰らないんだから」
「俺もそうだ。あのくそ婆。俺のアンをブルーノに売りやがったんだぞ。2度と国には戻るものか」
私はそんな二人を見て盛大にため息をついた。
私を原因にして二人は親子喧嘩の真っ最中らしい。まあ、私も殺されそうになったから許してはいないけれど。王妃様はまさか殺すとは思っていなかったっておっしゃっているみたいだけど、殺されそうになった身としては、はいそうですかと許せるわけもないし。
「アン、こんな薄情な奴らはどうでもいいわ。私は何があってもいつまでも貴方の側にいるからね」
イングリッドが横からはっきりと言ってくれたんだけど。
「えっ、でも、あなたはオースティンの未来の宰相と言われているイェルド様が好きなんじゃないの?」
「まあ、それはそうだけど、アンを放っておくと、どうしようもない貴族たちに良いように利用されてしまうから、危なっかしくてほっとけないわよ」
「でも、イェルド様はどうするのよ」
「アンがフィルと結婚したら転移で移動するでしょ。そのついでに私も送り迎えしてもらうわ」
イングリッドがあっけらかんと言ってくれるんだけど、そんなのが出来るのか?
「そっかその手があったわ。私もそうしてよ」
「そうだよな。それなら今の地位のまま、アンと婚姻できるんじゃないか。二人で転移したら良いし」
エルダやフィル様までがのってくるんだけど。
「いや、ちょっと待ってよ。いくら私でもオースティンの王都とスカンディーナの王都の間を転移したことなんて無いわよ。それも2人も3人も一緒に転移できるわけ無いでしょう!」
私が必至に言い張るが、
「そんなのやってみないと判らないじゃない」
「そうよ。アンの魔力は無限大なんだから」
「ガーブリエルに聞いたら出来る方法あるんじゃないか」
3人はめちゃくちゃ乗り気になってきたんだけど。
「いやいやいや、絶対に無理だって」
私は出来るわけはないと思うのだ。そんなヒョイヒョイと千キロも離れている距離を人を連れて転移なんて普通は出来るわけはないのだ。
「でも、それが出来たら、アンもフィルも今のまま、結婚できるのよ。遠距離でも、週末には会えるんじゃない?」
イングリッドがとんでもないことを言ってくれるんだけど。
それは確かに魅力的な話だけど、そんな事が可能なのか?
出来たら嬉しいけれど。
会議の前にほんの少しだけ希望が出来て私は嫌な会議もチョビットだけやる気になった。