欲望の塊の伯爵に襲われそうになったので、燃やしました
馬車がクイバニ伯爵邸に着いた時、私は流石にホッとした。延々怒られ続けるのも疲れた。
今まで怒っていたのが嘘のように、フィル様は微笑むと二クラスを外に出す。
流石に蹴落とすことはしなかったみたいだ。もっとも二クラスは馬車のタラップに蹴躓いて転けそうになっていたが・・・・
イングリツドに続いて、フィル様は私に手を差し出してくれた。
その手を借りて私は外に出る。
「あーーーら。やっぱりクイバニ伯爵は田舎者ね。殿下がせっかくいらして頂いたのに、外まで出迎えもしないなんて。そうか、殿下が恐れ多すぎて、外に出られないの?」
早速、イングリツドの嫌味炸裂だ。その声を聞いて慌てて家令のダールが飛んで屋敷の中に入っていった。
「本当にクイバニ伯爵は礼儀知らずね。殿下がわざわざこのような辺境の地に御出頂けたのに、出迎えも来ないなんて。そうか、なにか悪巧みでもしているのかしら」
イングリツドの声に警戒されたらまずいとでも思ったのか、慌ててクイバニ伯爵が飛び出てきた。
何かとても太っていて走るのを見たら滑稽以外の何物でもなかった。
「これはこれは王女殿下。よくこの地までお越し頂きました」
文字にしたらいかにも恭しく歓迎しているようだが、その言葉は棒読みで表情の端々に私を馬鹿にしているのが判った。何しろ伯爵は私を上から睥睨しているのだから。
「いやあね。辺境の人間は。礼儀知らずで」
再び、イングリッドの嫌味が炸裂する。
「何だと、小娘」
伯爵はイングリッドを睨みつけた。
「普通王女殿下をお迎えしたら、跪いてお迎えするのが礼儀よ。そんな事も知らないの?」
「むっ」
流石に面と向かって常識を言われたら傲慢な伯爵もどうしようもなかったのだろう。
仕方なしに跪くと
「この地を治めるクイバニ伯爵と申します」
私を下から睨みつけるように言ってきた。
「出迎え大儀である」
私は仕方無しに言ってやった。
「さっ、ではこちらにお部屋が用意してありますので」
挨拶の後、応接に案内される。
応接室は豪勢な作りだった。ヴァルドネル伯爵の応接とは天地雲泥の差だ。調度品からして超一級品。絶対にこいつは悪事を働いているか、領民から過剰に搾取しているかどちらかだ。私はそれだけで気分が悪くなった。
それに私の向かいに座ったクイバニ伯爵は私を舐めるように厭らしい視線で見てくるのだ。私は怖気が走った。でも、その視線が胸の所で残念なものを見るように瞬いたんだけど、その時だけは思わず殺意を抱いた。
「クイバニ伯爵。早速、王女殿下に跪き、味方すると決めていただいたこと感謝します」
イングリツドの声に伯爵の表情にこんな小娘に上から目線で言われたことに対しての反発と戸惑いが浮かんだ。
「跪けとその方が申したではないか」
「ふん、伯爵ともあろうものが跪くということは殿下に忠誠を誓う事だとは判っていよう。それと私は殿下の代わりに話させて頂いてる。言葉には気をつけよ」
私はイングリッドの凛々しさに惚れ惚れとした。なるほどこうやるんだと。
「な、何を・・・・」
伯爵は跪いたことがブルーノを裏切ってこちらに味方する事になると初めて理解したみたいだった。
いきなり慌てだす。
そこへ、家令のダールが駆け寄って何事かつぶやく。
「そうじゃな」
慌てていたクイバニの表情に余裕が戻り、私を厭らしい視線でみた。
私は再び怖気が走った。何か碌な事ではないようだ。
「失礼いたしました。我が伯爵家はアンネローゼ王女殿下に忠誠を誓います。詳しいことは殿下の補佐官の方と我が家のダールとの間で、詰めていただきたい」
そう言うと伯爵は立ち上がったのだ。
そして、扉を開けて出ていこうとした。
何をしに外に出るのだ? 絶対に碌でもないことを企んでいるはずだ。私はそれを止めようと思った時だ。
「そう言えば、王女殿下のお母上ゆかりの物がこの館に置かれているのです。よろしければ一緒に来て頂いてご覧になりませんか」
扉の前で振り返って伯爵が私を見た。
「判りました」
私は思わず頷いていた。
イングリッドとフィル様が嫌そうな顔をするが、ここは伯爵を野放しにしてはいけないだろう。
私はついていくことにした。フィル様が私の後ろからついて来てくれる。これで安心だ。イングリッドを部屋に残してきたのが不安だったが、多少のことはなんとかしてくれるだろう。二クラスの護衛もいるし。
伯爵が進む先は地下室への階段があった。
「大切なものですからな。我が家の宝物庫に保管してあるのです」
私はその伯爵の言葉を信じてしまったのだ。
その狭い階段を降りた所で、入ってきた扉をフィル様が締めたらガチャリと大きな音がした。
「んっ」
慌ててフィル様が扉に駆け寄った。
その瞬間だ。
私とフィル様の間に鉄格子が落ちてきたのだ。
「えっ」
私はフィル様と引き離されてしまった。
「な」
次の瞬間伯爵の手によって私の手に手錠が嵌められていた。その瞬間急激に力が抜けていくのが判った。
何、これは・・・・。
倒れようとした私を伯爵が抱きとめた。
「アン!」
フィル様が鉄格子に手をかけたが、鉄格子はびくともしないみたいだった。
「ふんっ、これは魔封じの手錠だ。いくら貴様が魔力があろうが、これではもう、私に逆らえまい」
伯爵はいやらしい笑みを浮かべた。
「今からじっくりとお前を可愛がってやるわ。そこの騎士の前でな」
下卑た伯爵の声と共に伯爵の手が私の体を弄ってきたのだ。
絶体絶命のアン!
続きは今夜更新予定です!