元側妃視点4 戴冠式でアンネの娘に思い知らすことにしました
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「何ですって。アンネの娘が戴冠式をやるんですって!」
私の怒り声が臨時王宮に響いた。
まさか、アンネの小娘が我々を無視して、勝手に戴冠式をするなど考えも及ばなかった。なにしろ、こちらは王都を占拠しているのだ。まず、何よりも先に、アンネの小娘は王都を回復しようとすると思っていたのだ。その時に、アンネの小娘をこちらにうまい具合におびき寄せて、捕まえていたぶってから、ゆっくりと戴冠式をやれば良いと考えていたのだ。
それを有ろうことか、奴らは我々の存在を無視して、戴冠式をやるというのだ。第一王子で、大国エスカール王国の血も引いている第一王子のこちらを無視して! 伯爵令嬢で過ぎなかった下賤な母の血を受け継ぐあの小娘が、大国エスカール王国の王家の血を引き継ぐわが息子を差し置いて、女王になるなど、許せることでは無かった。
それも、全ての貴族に戴冠式の案内を送りつけて、直ちに馳せ参じよと王家の名前を勝手に使ってやっているのだ。
私は許せなかった。
「どうするのだ。ドロテーア。こちらも戴冠式を直ちにやるか」
兄が提案してきた。
そうだ。こうなったらそうするしか無い。
直ちに家令、今は宰相か、に直ちに命じたのだ。
こうなれば意地だ。スカンディーナ国内のみならず、エスカール王国の貴族たちにも悉く声をかけたのだ。国王である兄がここにいるのだ。エスカールの貴族どもも喜んでくるだろうと私は思っていた。
これで絶対に数で向こうに勝るはずだ。私はほくそ笑んだのだった。
しかし、こちらからの誘いにはなかなか良い返事がなかった。
そもそもスカンディーナの貴族の反応が悪かった。近隣諸侯はこちらに来たのだが、少しでも離れるとなしの礫だ。
全貴族700家の内、当主がこちらに来たのは100家にも満たなかった。代理の次男三男が来た貴族が100家。合わせても200家もないのだ。
各国の王家などは大半が来なかった。
エスカールの属国と言って良い、ドクラスですら外務卿が来ただけだった。
そして、エスカールの貴族どもも、従軍している貴族以外は色よい返事が少なかった。
どういうことなのだ?
これは!
アンネの小娘の方は、情報によると当主の参加が400家を越えたそうだ。数だけ言うなら完敗だった。
「あまり良くないな」
兄が他人事宜しく言ってくれるので、
「お兄様。オースティン王国からは公爵家や侯爵家の当主が続々と来ているそうですわ。エスカールの方々はどうされたのですか」
私は嫌味を炸裂させた。
「ドロテーア、まあそう言うな。近年の度重なる出征で貴族たちの不満も溜まっているのだ。あまり無理は言えん」
珍しく兄は苦虫を噛み潰したような顔で否定してきた。
「まあ、代わりに大国エスカールの国王である私が居るではないか」
兄がそう言って笑うのだが、
「お兄様。オースティン王国は王太子のフィリップ殿下がいるのですよ。婚約者としてね」
「まあ、所詮王子だ。私は現に国王なのだ。向こうには国王自ら来ることはなかろう」
まあ、それはそうだ。大国オースティンの国王はさすがに来ないだろう。国王自体が来ているのは、小国がメインだ。ふんっ、ドクラスの国王め。二度とドクラスから装飾品は買わない。私は心に決めた。
「姫様大変でございます」
そこへ宰相が紙を手に飛び込んで来た。
「ノルディンソン。どうしたのですか。走るなどはしたない。それと私の事は王太后様と呼びなさい」
「はっ、申し訳ありません」
この家令は王国から連れてきていたのだが、元居た家令が弑逆の時にブルーノに殺されてその部下だった男だ。忠誠心は厚いのだが、どうしても軽佻にすぎるきらいがある。ここらが代え時か、と思わず考えてしまったのだが。
「どうしたのだ。慌てて」
「そ、そうでした。王都を警らしていた騎士たちが、このようなものを城下で押収したとのことです」
宰相は兄に何枚かの紙を差し出した。
「な、何なのですか。これは」
それを見て私は切れた。
『毎夜、男を取っ替え引っ替え寝室に引き込む淫婦ドロテーア』
のデカデカした見出しで、私と思しき女が男と抱き合っているイラストまで載っているのだ。
な、何なのだこれは。
『ブルーノとも密会していた淫婦ドロテーア! その息子はブルーノの子種か』
つぎの紙にはブルーノと裸で抱き合っている私のイラストが。
私は絶句しいた。
「城下で売られていたとのことです」
「直ちに売っている者を捕まえなさい」
私がヒステリックに叫ぶと
「騎士が売っている者を発見して、捕まえようとしたのですが、逃げらてしまいました」
青い顔で宰相が言った。
「な、何ですって」
私は記事を握りつぶして、歯ぎしりした。こんな記事を売るなんて、許せない。
「これはアンネローゼ王国のいやがらせだな」
兄が言いきった。そうだろう。こんな思い切ったことを書くのは、平民たちでは難しかろう。するのは奴らしかいまい。
どうしてくれよう。私が思案している時だ。
「王太后様。このような不届きな招待状が参りましたが」
別の侍従が何とアンネの小娘からの戴冠式の招待状を持ってきたのだ。
「な、何ですって。恥知らずにも私の所にまで招待状を送りつけてきたの?」
私はブチ切れて、招待状を地面に叩きつけていた。
「こんなもの!」
それを上から踏みつける。何回も。
「そう怒るな、ドロテーア!」
兄がそう言うと、私の足元から招待状を拾い上げた。
足跡をハンカチでふく。
「お兄様。そんなもの拭いてどうするのよ」
私がむっとすると
「まあ、そう興奮するな。これはこれで使い道がある」
そう言うと兄は厭らしい笑みを浮かべて、話し出したのだ。
私はその話を聞くうちに、みるみる表情が明るくなっていくのが自分でもわかった。
そうだ。こんな記事を書いた奴らはただでは済まさない。戴冠式の時こそやつらに目にもの見せてやるのだ。
兄の話を聞き終わった後、私たちはお互いに笑い合ったのだった。
良からぬことを企む淫婦とその兄。果たしてアンたちはその企みを阻止できるのか?
今夜更新予定です。




