新米伯爵を庇ったばかりに延々と隣国王太子と侯爵令嬢に怒られ続けることになってしまいました
私はすぐに転移して帰ろうとしたんだけど、私を危険な所に行かすべきでないとフィル様がダダを捏ねてまた大変だったのだ。
そらまあ、海千山千の貴族界に慣れたクイバニ伯爵の所に、親が死んでなったばかりの伯爵の二クラスと王女成りたての私が行くって、何かまな板の鯉というか生贄になるみたいな感じがしないでもない。でも、そんなの元から判っていた話だ。マッケルの父親の子爵が、この話を推して最終的にそうなったんじゃない! それを今更つべこべ言ってもどうしようもないんじゃないのかと思わないでもなかった。
まあ、師匠の大魔術師のガーブリエル様からはいざとなったら魔術で攻撃してもいいって許可はもらっているけど、それやったら伯爵邸もただではすまないだろう。それを防ぐ意味でも付き人はもう少しちゃんとした人を付けてほしいんだけど。
まあ、すぐ近くにクリスティーン様の軍がいるから問題はないとは思うけど。それならそうと初めから教えてほしい。心配して損した気分だ。
結局、騎士のメルケルの代わりに甲冑を着たフィル様が、侍女のイリアの代わりは変装したイングリッドが来てくれることになったんだけど、ちょっと、騎士も侍女も王女の私よりも容姿が優れているんだけど、これっておかしくない?
まあ、所詮、私は伯爵領程の大きさしか無い小さい国の王女だし、片やこの大陸でも大国になる隣国オースティン王国の王太子と侯爵令嬢だ。まあ、立ち居振る舞いにしてもつけ刃の私と違って、生まれた時からの筋金入りだ。衣装だけは私が立派なのを着ているけれど、後は中身も身分も私が適わないから仕方がないんだけど・・・・
「あんたも元々この国の王女でしょ」
イングリッドは言うんだけど、「15年前はね」私はブスっとして言った。
1歳の時の事なんて覚えているわけないじゃない!
私はブツブツいいながら馬車に乗り込もうとした。
そこへ馬蹄音も荒々しく、100騎くらいの騎馬隊がやって来たのだ。先頭は騎士の格好をした大柄な男が乗っていた。
騎馬隊は私達の馬車の前で止まった。
「これはこれは王女殿下。クイバニ伯爵様にお仕えする家令のダールと申す。殿下一行がちっぽけな山賊の襲撃を受けられたと聞きましてな。殿下の護衛騎士だけでは山賊相手にも心もとないと思いまして、急遽伯爵邸から駆けつけてきた次第です」
家令は私相手に騎乗したまま答えてくれた。
普通は下馬して跪くのではないのか? と思ったが、舐められたものだ。
「アン、この豚、攻撃しても良い?」
私以上の過激なイングリッドが私にボソリと聞いてきた。
「そこの侍女。何か申したか」
この家令、中々勇気がある。イングリッドを咎めるなんて! 私は感心した。
「ふんっ、田舎者はこれだから困る」
呆れたようにイングリッドが言った。
「ナ、何だと小娘もう一度申してみよ」
家令がムッとして言うが、
「クイバニ伯爵の家令は田舎者よなと申したのだ」
イングリッドは扇子を開いて口元を覆って言い放った。
「き、貴様、吾を愚弄する気か」
家令がいきり立って言うが、
「愚弄しているのはどちらだ。クイバニ伯爵の家来は王女殿下の御膳で下馬する礼儀も知らんのか。ほんにクイバニ伯爵領の者は田舎者よな」
イングリッドは馬鹿にしきっていった。
「な、」
流石にそう指摘されてダールは馬に乗っていられなかった。
慌てて下馬する。
「さっさと全員下馬せよ」
まだ馬に乗っている騎士達にもイングリッドの罵声が響いた。
騎士達はイングリッドの鋭い目を怖れたのか、慌てて下馬する。
「何故突っ立っておるのじゃ。王女殿下の前では跪くのが当たり前であろうが」
イングリッドの大声に、圧倒されたのか、家令が仕方なしに跪いた。
皆次々に跪く。
私はそんなのはどうでも良かったのだが、イングリッドの目が怖いのでそこは任せた。逆らったら後が怖い。
「殿下。クイバニ伯爵の家令ダールより、殿下の馬車を是非とも護衛させて頂きたいとの申し出がありました」
エルダが私に頭を下げる。そんな事言ったか? 何か美化しすぎだ。私は疑問に思いつつ、
「ご苦労である」
こういう時は確かこう言えばよいはずだ。私は尊大に構えて頷いた。
「はっ、有難き幸せ」
そのままの勢いでダールは言ってきたんだけど、こいつ、ここで尊大に構えて私を馬鹿にしたかったんではないのか?
そう思わないまでもなかったが、イングリッドが目で合図するので私はそのままフィル様の手を掴んで馬車に乗に乗り込んだ。
私の後にイングリッドが乗ってフィル様、最後が伯爵の二クラスだった。
「おい、俺が最後というのはどうなのだ」
二クラスが文句を言うが、
「何言っているのよ。二クラス。あんたが、ちゃんとしないからやってあげたんでしょ。感謝しなさいよ。本来はあなたが伯爵の家令に注意しなければならないんじゃない」
「いや、まあ、それはそうだが・・・・」
ボンボンの伯爵と、今は平民のイングリッドだが、元々オースティン王国の侯爵令嬢だ。格が違いすぎた。
「本当に駄目ね。もう少ししっかりしなさい。あなた本当にアンを守れるの」
「いや、それは当然」
「アンは俺が守るから良い」
二クラスの言葉を私の前に座ったフィル様が途中でぶった斬ってくれた。
「それもそうね。あなた自分の身は自分で守りなさいよ。私達はアンしか守らないからね。あんたが斬られようが何しようが知らないわよ」
「えっ、そんな」
イングリッドの言葉に二クラスは慌てだすんだけど、自分の身も守れないのか・・・・私は暗澹とした。
「おい、二クラス。お前も伯爵家の嫡男だろうが。剣は少しくらい使えるだろう」
馬鹿にしたようにフィル様が言う。
「いや、まあ、少し」
「クイバニ伯爵は勇者が襲ってきたくらいだ。俺たちをブルーノに引き渡すつもり満々だぞ。下手したら屋敷に入った途端に攻撃してくる」
「そんな事は無いはずだ」
フィル様の言葉に二クラスが反論するんだけど、どれだけ脳天気なんだろう。
「あなた馬鹿なの。勇者たちを案内してきたのが伯爵の手のものだって判らなかったの?」
「お前、伯爵として本当にこの国で生きていけるのか」
「・・・・」
「そもそも、あんた、勇者が襲ってきた時にアンに手を下させたでしょう。それでも男なの」
「本当だ。代わりに侍女のイリヤが盾になるなんて、お前は何をしているんだ。俺の国ならそれだけで降爵だぞ!」
「・・・・」
この中では私の次に位が高いはずなのに、元王太子と侯爵令嬢とでは格が違いすぎるみたいだ。
延々怒られる二クラスが可哀想になって私は思わず口を出してしまった。
「まあまあ、それっくらいで許してあげたら」
「何言っているんだ。アン」
「本来なら、あなたが注意しなければならないんでしょ」
余計なことを言ってしまったばかりに私は二クラスと一緒になって馬車が伯爵邸に着くまで延々と二人に怒られ続けたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次話は明朝です。やっと伯爵邸です。
人物紹介
クリスティーン19 オースティン王国のカールソン公爵家出身。女ながら次の騎士団長を嘱望されていたが、アンについてきたドラゴンスレイヤーでもある。現地位は大将軍。
騎士としては恐らく当代最強騎士。




