決戦前夜にフィル様と食べさせ合いさせました
キーモンキでは、キーモンキ伯爵によって既に大量のテントが張られていた。そして、4万人分の食料はメリーの輸送部隊で既に運ばれていた。
兵士たちにテントを割り振ると兵士たちは各地で火を焚きだして、食事の支度に入っていた。
4万人が食事を準備するさまは圧巻だった。
まともな食事なんて今日が最後かもしれない。
今日はご飯に鍋だ。これが戦時には固形食になる。明日からは敵地なのだ。
先に鍋でご飯を炊く。
これは男性陣がやってくれた。
薪を入れてフィル様の側近のアルフが火を起こしてくれた。
私はフィル様と鍋の野菜を切った。
にんじんは皮を剥かずにそのまま薄く輪切りにする。
「えっ、アン、ニンジンの皮剥かないのか」
フィル様がぎょっとしてこちらを向く。
「だって皮の所も栄養多いんですよ。さっき水洗いしたから大丈夫です」
私が平然と言う。
「フィル、さすがに野営でニンジンの皮なんて剥かないだろう」
アルフが呆れて言った。
「フィル様のニンジンきらいも相当なものですね」
私が呆れて言った。
「いやいや、皮以前に、なんで野営のメニューにニンジンがあるんだ。俺なら絶対に入れないのに」
フィル様はこの献立メニューを考えた者に文句を言いそうな感じだ。
メリーあたりがわざと入れた気もするんだけど。
「ところでお前ら、何ぽーーーっと座っているんだ」
アルフが、座って見ている18王子と勇者に言うが
「えっ、食事って従者が作ってくれるものだろう」
「何言っているんだよ。今はお前が従者だろうが」
「えっ、俺が」
アルフの声に18王子が驚いているんだけど。
「お前は何で。勇者なら野営位するだろう」
アルフがその横の勇者に聞くと
「いやあ、いつも一緒にいる女の子がやってくれるから」
「お前も働け」
その言葉に怒ったアルフに尻を蹴とばされていた。
「というか、なんで、王子様が料理できるんだよ」
18王子がフィル様に聞いていた。
「いや、俺も普通に野営の時に料理作るぞ」
フィル様が答えた。
「というか、一番偉い王女殿下までされているんですけど」
「私は平民として育てられたから普通にできるわよ」
私の言葉に勇者らは絶句していたし、周りで見ていた兵士たちが驚いていた。
自分らで作ったご飯はおいしかった。結局足手まといになるだけなので、見ているだけだった勇者が一番たくさん食器に入れてアルフに叩かれていたけれど
私はそれを食器を持って木の下で座って見ていた。
私の横にフィル様が来る。
「アン、緊張している?」
フィル様が聞いて来た。
「うーん、緊張するっていうより、まだ信じられなくて。ここまで来れたのが。つい1ヶ月前までは1つの伯爵領だけしか無かったのに、ここまで大きくなったんだって」
「まあ、あっという間だったな。でも、ここからが最後の戦いだ。俺も今度こそ、ブルーノに一太刀当てたい」
フィル様が言う。
「今度こそ、ブルーノに勝たないといけませんね」
私が力を込めて言った。
「アンはすごいよな。あのブルーノに勝つ気満々なんだから」
「それはやってみないと判りませんけれど、可能性はあるかなと、思っています」
「まあ、無理はするなよ」
「それはフィル様も」
私達はお互いに見つめ合って笑った。
「フィル様、あいも変わらずにんじん嫌いなんですか」
私はフィル様のトレイを見て言った。
ニンジンだけが避けられて残っているのだ。
仕方がない。私はスプーンでそれをすくった。
「やった、食べてくれるんだ・・・・うぐ」
そう言ったフィル様の口の中に突っ込んだのだ。
白目を開けてフィル様が睨むけど・・・・
「我慢して、食べさせてあげますから」
私が言うが、フィル様が仕方なさそうに、口を開ける。
そこへもう一度ニンジンを運ぶ。
「最後の一個です」
そう言って最後の一個をフィル様の口に放り込んだ。
そして、私は周りを見て、はっとして気づいたのだ。
みんな、私たちの仲間だけでなく、他の兵士たちまでもが唖然として私たちを見ていた。
「えっ、みんな見ていたの」
私は真っ赤になった。
「お前ら、行軍中にイチャイチャしているんじゃねえ」
18王子がむっとして言うし、他の仲間も白い目でこちらを見ていた。
他の兵士たちの目は生温かかった。
この様子が『決戦の前に食べさせあう、アンネローゼ様と婚約者のオースティン王太子』の記事として、イェルド様によって、国内のみならず近隣諸国にバラまかれることになるなんて、私は思いもしなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
決戦まであと少しです。




