王宮に転移したつもりが、皆すぐ傍で見守ってくれていました
私は王宮へ転移しようとして、私は愛しの婚約者で私付きの補佐官のフィル様を思い浮かべたのだ。
でも、この前フィル様に押し倒されて、ちょっと今は気まずいと、やっぱり友人で女官長のエルダにしようとして、いい加減に転移したのが間違いだった。
転移した先は何故か王宮ではなくて山の中の広場だった。私はエルダの前に転移できて、すぐにイリヤをエルダに渡せたのだけど、聖女を何故かその側にいたフィル様の上に転移させてしまったのだ。
「きゃっ」
聖女はフィル様に抱きつく形になってしまって、なんと、そのまま、フィル様を押し倒しやがったのだ。それもこの聖女は私よりも胸が大きくてなんとその胸でフィル様の顔を挟んでくれたのだ。
「ええええっ、ちょっと何してくれるのよ。私のフィル様に」
私は慌てて聖女をフィル様から剥がそうとした。
でも、聖女は中々退いてくれない。私は必死にどかそうとするんだけど、なかなかうまくいかない。
「ちょっと、あなたどこ触っているのよ、エッチ」
聖女は胸を抑えて、フィル様の頬を思いっきり叩いてくれたのだ。
私はそれをワナワナ震えてみていた。
「いや、ちょっと待て、アン、俺はこいつをどけようとして」
「それで胸触ること無いじゃないですか」
聖女が叫ぶ。
「し、信じられない。最低!」
私は涙目で思いっきりフィル様をにらみつけるとエルダの横にいたイングリッドに抱きついた。
「あああん、イングリッド、フィル様が女の胸触った」
「ああ、よしよし、元々フィルは厭らしいやつだからね。離れてようね」
頭をイングリッドが撫でてくれるんだけど。
「ちょっと待って、アン! これはどうみても不可抗力だろうが」
フィル様が必至に私に言い寄ろうとするが、私を押し倒した現場を見ているイングリッドとエルダは二人がかりで、私に近寄らせないようにしてくれた。
「お前ら、相変わらず、面白いことしているんだな」
冷めた私の国の大将軍クリスティーン様の声がして
「えっ」
私は改めて周りを見ると、幹部連中が車座になって座っていたのだ。
どうやら、私達は軍議の真ん中に転移してきたみたいだった。
「す、すみません」
私は真っ赤になって周りを見た。
「本当に最低!」
まだ聖女が怒っている。
「何言っている。お前が俺の上に転移してきたんだろうが」
「転移させたのはあなたのところの赤髪の山姥じゃない」
フィル様の言葉に聖女が叫んでいるんだけど。
「はっ?」
「ちょっと、待ってよ。誰よ? 赤髪の山姥って」
私がムッとして言う。
「あっ、御免なさい。ついゲームの呼び名を言ってしまって」
「ゲーム?」
私がその言葉に驚いて聞いた。こいつ転生者だ。その言葉で一瞬で判ってしまった。こんなところにも転生者がいたなんて。でも、私が転生者だなんて誰にも明かしていないし、どうしようと私が困った時だ。
「何だ、お前もピンク頭の仲間なのか」
「ピンク頭?」
「うちの国の聖女だよ。何か、そいつもここはゲームの世界だって言っていたけれど」
「あ、あなたヒョツトして黒髪の英雄、クリスティーン・カールソン様では」
聖女がクリスティーン様をまじまじ見て驚いて声を出していた。
黒髪の英雄? 誰だそれは? 私が転生したと思っていたゲーム『オースティンの聖女』にはそんな人物は登場しなかったはずだ。
「クリスティーンはあっているが黒髪の英雄ってなんだ? ピンク頭の言うゲーム『オースティンの聖女』にそんなのが出ていたのか?」
私の代わりに我が国の大将軍クリスティーン様が聞いてくれた。これはラッキーだ。転生者だと白状しなくてもクリスティーン様が聞いてくれる。
「『オースティンの聖女』は前作で、この世界はその続きの『スカンディーナの聖女』の世界なんです」
後で名前を聞くとリーナ・リンデと名乗ったこれも髪の毛がピンクの聖女が説明してくれた。
何か国の名前に聖女をつけただけのネームセンスを疑うんだけど。聖女の頭もピンク色は同じだし。聖女って万国共通に頭はピンクなのか? いや、確かヒロインの髪の毛の色がピンクだったっけ?私はどうでもいいことを考えていた。
リーナによると、前作『スカンディーナの聖女』で王太子フィル様と聖女がくっついて、断罪婚約破棄されたアンネローゼが、故国スカンディーナに帰ってきた時に、王弟で聖人????のブルーノが革命を起こして、民に無理難題を課していた国王夫妻を断罪。その娘のアンネローゼが怒りのあまり闇落ちして魔王となりこの世界は暗黒に覆われる。それをこの地に現れた勇者と聖女達が魔王を退治して平和を取り戻すのがゲームの趣旨だそうだ。黒髪の英雄は魔王にやられそうになる聖女達を隣国から助けに来てくれるそうだ。
そんなゲームがあったなんて私は初めて知った。私が死んでから作られたのかもしれない。でも、どこまでいっても私は悪役らしい。せっかく悪役から卒業できたと思っていたのに・・・・。
何てことだと呆然としていると
「ちょっと待て!」
私は話に夢中になって忘れていたフィル様が黒いオーラを漂わせてリーナを睨みつけていた。
「俺はアンと婚約破棄なんてしていないぞ。勝手に作るな」
「えっ、あなた、オースティンの王太子殿下のフィル様なんですか? なんで赤毛の山姥と婚約破棄していないんです?」
勇気あることにリーナは怒りのフィル様のオーラにもめげずに聞いていた。
「貴様、アンを山姥なんて言うな。次言うと不敬罪で成敗するぞ」
フィル様は剣に手をかけて凄んだ。
「も、申し訳ありません」
その殺気にリーナは真っ青になって震えていた。
「アン、俺は絶対にアンを婚約破棄なんかしないからな。何なら今すぐここで結婚しよう」
フィル様がこちらを向いていきなり言うんだけど、
「フィル! ドサクサに紛れて何言っているのよ」
「本当に最低」
「いや、ちょっと待て。このまえのはだな・・・・」
エルダとイングリッドに白い目で見られて慌てて言い訳をしようとするんだけど、それを見て可愛いと思ってしまう私も私だ・・・・
「ああ、もう判ったからフィルは少し黙っていろ」
クリスティーン様がフィル様を制した。
「ということはリーナ、お前はブルーノの手先ということでいいのか」
「今すぐ叩き斬ろう」
フィル様が剣を抜こうとする。
「いや、ちょっと待って下さいよ。私も状況が読めないんですけど。何で魔王の前に皆さんがいらっしゃるんですか?」
「魔王?」
フィル様の声に
「いえ、すいません。アンネローゼ殿下です」
聖女が慌てて言う。
「まあ、アンは私の可愛い後輩だからな。親の仇討ちをすると言うので手伝いに来たのだ」
クリスティーン様が男前に言い切られた。
「ええええ! 史上最強の騎士クリスティーン様が赤髪の山・・・・いえ、すいません。アンネローゼ殿下を助けられる? そんなバカな、お助けキャラが・・・・挙句の果てに大国オースティンの王太子がやま・・・に執着しているって何よ。下手したら圧倒的に強いじゃない。こんなの私達だけじゃ相手に出来ない」
聖女が何か震えながらブツブツつぶやいているけど。
そんな時に騎馬隊の馬蹄の音がしてきた。
「アン、お出迎えが来たみたいだぞ。そろそろ戻ったほうが良い」
クリスティーン様が言われるんだけど。
「えっ、何故それが」
そう言いながら音が聞こえるってことは・・・・
「何言っているんだ。お前らだけで行かすわけ無いだろうが。ここで様子は逐一見ていたぞ」
クリスティーン様が言うんだけど、そう言うことはもっと前から言っていてよね。私は少し怒りつつホッとした。
「いざとなったらすぐに突入する。どーんと大船に乗っているつもりでいろ」
私はクリスティーン様の言葉に安心したのだ。
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