クズ伯爵に対して暴虐令嬢が軍を起こすのが決定しました。
私たちは、ただただ唖然として二人を見ているしか出来なかった。
だって、あの礼儀作法が厳しいルンド先生が、あのルンド先生が私達の前で抱擁しているのだ。
散々公衆の面前で抱き合ってはいけない、とか注意されたところなのに・・・・その本人がしているんだけど。そらあ、15年ぶりの婚約者だから仕方がないといえば言えたけど・・・・。でもあの厳格な先生がするなんて・・・・。
「アンっ、大変よ」
そこへ飛び込んできたエルダが、二人が抱擁しているのを見て固まっていた。普通こうなる!
「えっ、申し訳ありません。つい・・・・」
我に返ったルンド先生の狼狽ぶりが見ていられなかったけど。
エルダの知らせは近くのハウキプダス伯爵が周辺の領主を誘い合って軍を集めているということだった。
私達は直ちにヴァネドネルの王都に帰った。王都というような代物では到底無かったけれど。
人口は2万人くらいの本当の地方都市だ。
王城と言っても伯爵の館を改良しただけだし、上物はハリボテだ。私は作ったガーブリエル様にここでは絶対に魔術を使うなと言われていた。
遠くから見たら本当に立派なんだけど、大半はハリボテと幻影。使っているのはごく一部だ。
「お帰りなさいませ。殿下」
城に着くと皆で迎えてくれた。
「姉ちゃんすごいね」
アーロンが紙を握って言ってくれた。
「1人で転移してブルーノから伯爵のお母さんを助け出すなんて」
「えっ」
私はアーロンから思わずその記事をひったくるようにして見てしまった。
そこには私の伯爵のお母さんを抱えて攻撃しまくる絵が書かれていたのだ。さっそくイェルド様が記事を書いてくれたみたいだけど、早すぎない?
「それも難攻不落って言われているスカンディーナの白鳥城を完全に破壊してしまうなんて」
「えっ、うそ」
私はそんな事は知らない。
「嘘じゃないわよ。我が家の影の報告でも、白鳥城として有名な王宮の建物がまる一つ爆発で消滅したって」
「王都はすわ敵襲だと大混乱に陥ったそうよ」
イングリッドとエルダに言われてしまった。
うーん、怒りを乗せてファイヤーボールを放ったけれど、そこまで大きな爆発になっているなんて。
「さすがアンだな、単身で王都の王宮を襲撃するなんて」
会議場に入るなり、クリスティーン様に言われてしまったんだけど。
「クリスティーン様、笑い事ではありませんよ。殿下。今後は単身での迂闊な行動はくれぐれもお控えください」
イェルド様に言われたんだけど、この面白おかしい記事を書いた人間が言うか?
でも、そんな事をイェルド様に言えるわけもなく、
「申し訳ありません」
と謝るしか無かった。
「まあ、イェルド、これでスカンディーナの奴らも肝が冷えただろう」
クリスティーン様が私の援護してくれたが、
「しかし、この件で慌てて敵のハウキプダス伯爵が出てきたのですぞ」
イェルド様が更に注意する。
「フンッ、ハウス豚など、我軍で一蹴してやるわ」
「ハウキプダスです」
「ふん、そのなんとか言う豚など、スカンディーナのクズと言われている奴だろう」
きっとしてクリスティーン様が言われた。
「ブルーノの犬ですな。国王派の粛清に率先して当たったとか」
「元々特殊部隊の隊長をしていて、国王派を拷問。その貴族たちの美しい妻を自分のものにしたとか言うクズだろうが」
つばを吐きそうな勢いでクリスティーン様は言われた。
「何人もの妻を拷問という名で強姦したとかいう豚だ。その様なクズ、戦神シャラザール様の命を受けた我がクリスティーンが地獄に叩き落としてやるわ」
クリスティーン様が宝剣を床に突き刺した。
ええええ! こんな所でやめてよ。それでなくてもハリボテなのに。どこかで大音響がして、張りぼての一部が壊れた。
私だけじゃなくて、イェルド様も周りのみんなも目を剥いているんだけど。
「直ちに全軍を召集しろ。私が出る」
城が例え少し壊れようがクリスティーン様は全く動じていなかった。
怒りに任せたクリスティーン様を止められるものなど何もいず、全軍の出撃が決まったのだ。
戦神シャラザールって北の大陸で信じられている全能神のことでは無かったろうか? 私はどんどん偉大になっていくクリスティーン様を感心していてみているしかなかったのだ。




