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Nigredo - 魔王伝説 -  作者: Ellie Blue
第4章 北の大地
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緑の光5

 アーバルが交易都市での顛末を告げた後、彼らの決断は早かった。


 薬師団は交易都市の救助支援のため、このまま南へ。その一方で、薬師団のうちの誰かが、ミディアとアーバルを薬師団の郷里へ送り届ける。里の豊富な薬草資源、そして里にいる長老の腕であれば、呪いへの対処ができるだろうとのことだった。

 また、二人を里へ送った者は直ちに薬草などを補充して引き返し、交易都市にて先に行った薬師団と合流を。


「……その役割は僕が務めます。僕が、里までお二人を」

 シースの言葉、そしてそれと共に差し出されたまだ小さな手を前にした時、アーバルは内心驚いた。それは〝年若い少年一人が〟という意味でもあり、〝一団のリーダーたる彼が〟という意味でもあった。

(てっきり薬師団のうちの誰か、それこそ今彼の傍らにいる者などに、若長はその役割を任せるのであろうと思っていたが)


 しかしその一方で、シースの傍らの白いローブ姿の二人はただ黙って静かにうなずく。彼らの様子が、まるではじめから若長がそう言うことを分かっていたかのように映ったのは、恐らくアーバルの気のせいなどではないだろう。

(彼らにも、何か事情があるのだ――)


 そうしてアーバルは銀の髭をたくわえた口を開く。

「お申し出、大変ありがたい。頼み事ばかりとなってしまうが、ぜひよろしくお願いしたく思う」

 言葉と共に手を伸べて、老騎士は若長と握手を交わす。


(弟子を助けてもらった。そしてそれ以前にも、北の薬師団には国として多大な恩がある。この貧しい北寄りの土地一帯において、長きに渡り村人や旅人の多大な助けとなってくれている彼ら。その想いを尊重したい)

 自身の手の平に、アーバルは確かな熱を感じた。目の前の少年の青色の瞳が、まっすぐに己を見ている。

(そして。こちらとしてできることがあるのならば、最大限の協力を、だ)


 手を離した後も若長シースの顔を見据え、アーバルは言葉を続けた。

「こちらからも一つ、申し出を。ちょうど、北の方面へ向かわせている王国騎士たちがいる。若君のお戻りの際には、ぜひとも我が団員を護衛につけさせていただきたい。王国騎士団の名にかけて、若君の安全をお守りすること、このアーバルが約束いたす」


 それを受けて、これまでどことなくこわばっていた三人の表情がフッと和らぐ。

 この時はじめて、傍らにいる二人が、思わずといった風にシースより先に口をきいた。

「ああ、それはとてもありがたいお申し出です」

「そうしていただけると、俺たちも安心できる」

 二人に次いで、シースも微笑みながら口を開く。

「ありがとうございます。では、どうぞよろしくお願いいたします、アーバル殿」

 そう言葉を交わし、差し向った騎士団長と薬師団の三人は互いに深々と礼をした。

 国の北寄りの地。夜になり冷え込みがいっそう厳しくなる中で、通された部屋の暖炉の火が、穏やかな音と共に温かな光を放っていた。




 彼らが出立したのはあくる日の明け方。もし夜中に動いて魔女と出くわしたら最後、今の自分たちには到底敵う見込みがないと判断してのことだ。


「ありがとうシース坊ちゃん。坊ちゃんは先にお里に戻られるとのことで、これ……」

 村の出口にて。見送りに来た村長がシースに彼の馬の手綱を渡す。その白い馬の背には、作物がいっぱいに詰められた袋が二つ、左右にくくり付けられていた。

「いつもすみません。貴重な食糧を」

 頭を下げるシースに、村長は明るく笑って答えた。

「なぁに、先祖代々お互い様ってものですよ。それに、こんなんじゃあまだまだお礼が足りないくらいだ。長老様や先代殿、お里の皆さんにも、どうぞよろしくお伝えください」

 それにうなずき、慣れた動きで軽々とひらり、馬にまたがるシース。


 薬師団の仲間達がそこに口々に声をかけた。

「若。我々一同、お待ちしていますよ」

「くれぐれも気をつけて行くんだぞ、若!」

「私たちのことはどうか心配しないでくださいね」




 そうして彼らは、朝もやの立ち込める中を静かに出発していった。

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