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Nigredo - 魔王伝説 -  作者: Ellie Blue
第3章 交易都市
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遠く見える街3

 駐在の騎士団員詰め所。入口の扉をくぐった先は、訓練所も兼ねているのだろう、幾分か広い中庭となっていた。そこで今しがた扉を開いた騎士団員とアーバルは握手を交わす。その後騎士の目はミディアに向いた。

「ええと、お弟子の……」

「ミディアです」

 そう言ってミディアは差し出された手を取り握手を交わした。

「初めまして、ミディア。駐在のパルセルです。君の噂はかねがね。団長殿が久々に取った直弟子だってね」

 自分に向けられた騎士団員の眼差しをまっすぐに受けて、ミディアは微笑んだ。


 厩舎に馬を繋いだ後、ミディアたちはこぢんまりとした宿舎に案内された。

「むさ苦しいところですが……」

 宿舎の一階。そこで騎士セズとダイムと挨拶を交わした後、ミディア達は簡素な木のテーブルと椅子を勧められる。

 普段は食事の際に使っているのだろう、テーブルの上にはパンくずが散らばっていた。それを軽く払いながらミディアは席に着く。


「街の警備は良くやってくれているようだな。……王子の手がかりは、何か掴めたか?」

 先に腰掛けたアーバルが、開口一番にそう切り出す。

 向かいの椅子を引きながら、詰め所入口で二人を出迎えた騎士パルセルが返答した。

「は。指令を受けて以来、通常の街の見回りに加え、昨晩より引き続き我々駐在兵が交代して門の番に就き、街と協力し警戒を強めております。が……、依然それらしき人物の目撃情報、またそういった類いの噂などは今のところ得られていません」

 その言葉にアーバルはうむ、とうなずく。

「であれば、我々は引き続きこのまま北に向かうとしよう。明日の明朝にはこの街を発つつもりだ。それまでの間に、可能な限りの情報収集と物資の補給をしておきたい」

 アーバルの前に居並んだ騎士たちは、承知しましたとうなずいた。

「我々にご用意できる物があればお申し付けください。大抵の物は揃えられますので」

「どうぞ万全のご準備を。ここから先、あまり大きな街などはありませんからね」

「かの北の大地に近付くにつれ、気候も作柄も悪くなる一方で……」

 駐屯の騎士たちは口々にそう述べる。


 そのうちに、時を報せる街の鐘が鳴った。

 おや、と声を上げてパルセルがすっくと立ち上がる。

「いつの間にやらこんな時間に。私は見張りの交代に行って参ります。団長殿たちは、どうぞご夕食など召し上がられてください」

「ああ承知した。ではすまないが、ありがたく相伴に与らせてもらおう」

 その返事を皮切りに、他二人の騎士団員たちも続けざまに椅子から立ち始めた。

「あっ、私も手伝います!」

 そう言ってミディアは、厨房に向かう騎士セズの後を追ってその場から離れた。


「……団長殿」

 その場に残った騎士ダイムが、アーバルに歩み寄り耳打ちをする。

「例の件についての報告ですが……」

 それにうなずきかけたが、アーバルは思い直したようにいや、と首を横に振った。

 厨房の方からぱたぱたと足音が聞こえる。

「……後でにしよう」


 ほどなくしてテーブルの上に煮込みの鍋とパンが並ぶ。

 取り分けてもらった湯気の立つスープを口にして、ミディアは肩の力がフッと和らぐのを感じた。自分では何ともないつもりでいたが、知らずの内に気が張り詰めていたのだろう。そう言えば、温かい食事を摂ったのは久々だった。

(……ばあやには、悪いことをしたかしら)


 駐在の騎士団員たちはみな気が良く、気さくな様子でミディアに話しかけてくれた。しばしミディアは騎士たちとの会話に興じる。

「へえ、普段はナッドの隊にいるのか。懐かしいなぁ。あいつ、元気してるか?」

「アーバル団長は厳しい師匠だろう? 俺も全体訓練でどれだけしごかれたか!」


 そうしているうちに宿舎の戸が開き、先ほど門で会った分隊長オズマが戻ってきた。

 オズマは来訪者二人に会釈をし、テーブルの空いている席、ミディアの横に腰掛けた。

「先ほどはろくにお話もできずに、失礼いたしました。何せ、人の行き来の多い街なもので……」

 言いながらオズマは、テーブル上に手を伸ばした。まだ湯気の立つ鍋から煮込みを器によそい、それからその隣、切り分けられたパンを数枚、自分の前へと持ってくる。

「検問を厳しくするようになってから門の辺りの混雑もひとしおですよ。指令が出てから一晩経って、街の元々の門番の者たちも増やした検問項目の確認にようやく慣れてきたようではありますが、いやはや」

「苦労をかけるな。引き続き、よろしく頼む」

 アーバルの労いの言葉に分隊長オズマは、ちぎったパンを口に運びかける手を止め、その手を下ろすと同時にサッと深く頭を下げた。

「は。滅相もない」

 顔を上げてオズマは、眉間にしわを寄せて苦い顔をしつつ言葉を続ける。

「明日の朝からは、より検問内容を強化しようかと。我々王国騎士の徽章などのように、その者について確認できるものがみなキチッとあれば良いのですがね。どうも、身分通行手形の管理が杜撰なことが多々見受けられまして……」


(身分通行手形……)

 ミディアの胸がチクリと痛んだ。伸ばした手の先に薄汚れた木札をぶら下げて、乾いた笑いを上げる少年の姿が脳裏によぎる。


「……さて、お二人は明日お早いのでしょう。今晩はここに泊っていかれますね? 丁度二部屋が空いていますので、ミディアは二階の方を。団長殿は一階の部屋をお使いください。場所は……」

 よそった煮込みを最後一気に掻き込んで、オズマは椅子から立ち上がった。

「いや、私はもう少し街の様子を見ておこう。部屋への案内は後で良い」

 そう言って首を横に振るアーバルに、セズとダイムの二人が声をかける。

「でしたら、我々もお供いたします」

「お師様、私も……」

 ミディアは言いながら椅子から腰を浮かせた。アーバルは口を開きかけ、一瞬考え込むように動きを止める。

「いや」

 その銀の髭を蓄えた口から発せられた声に、ミディアの顔がさっと曇る。

「ミディア、お前は先に部屋に案内してもらいなさい」

 続けられた言葉に、ミディアは落胆せずにはいられなかった。

「……先ほども言ったように、明日は早くに出たいのでな。お前には、物資の補充と馬具の整備を頼んでおこう。見回りから戻り次第、私も手伝う。もし先に終わるようならば、その分、良く体を休めておくように」

 その言葉を受け、オズマがミディアの方に顔を向けた。

「では私が支度の手伝いをするとしましょう。じゃあミディア、まずはこちらへ」

 後ろ髪引かれつつ、ミディアはその後に続いて宿舎の二階へと上がっていった。

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