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Nigredo - 魔王伝説 -  作者: Ellie Blue
第2章 枯草の原
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招集と王命3

 王が騎士団長を伴いバルコニーの扉の奥に消えた後。集まった騎士団員たちは次々と謁見の庭を後にしはじめた。そのざわめきの中で。

「そう言えば王子って……」

 ミディアの前にいた若い騎士、トムがふとそう口にする。

「妙な噂があるだろ? その……」

 そう言いかけるトムの頭を、壮年の騎士ナッドが拳ではたいた。

「お前、なんてことを! ここは国王の御前だぞ! それに、そうでなくても、大体そんな眉唾どこで聞きつけてきた! まさかお前、場末の酒場なんぞほっつき歩いていたわけではあるまい!」

「いや、違うんだよ! そうじゃなくて……!」

 頭を押さえながらトムは、「酒場は行ったけど別に……」などともごもごつぶやいた後、「でも」と再び口を開く。

「みんなも聞いただろ? 昨日の暴動の時に、この大庭で。誰かが〝そのこと〟を叫んで矢を射って……。だから、そう本気で思っている奴も世の中にはいるモンなんだな、って……」

 年かさの騎士オーグが、溜め息をついた。

「そんなものなど痴れ者の戯れ言よ。お前もいちいち気にするんじゃない。この国の民、ひいては、この国の騎士であるのならな」

 その会話を横で聞き、ミディアは唇を噛んだ。

(そうよ。何て馬鹿げたことを……)


 この国の王子を巡っては、ある噂が囁かれていた。

 〝エナリア様は魔王の仔を孕んだんじゃないか〟

 そんな下卑た噂話。


 しかし生まれてきた子は、母親譲りの収穫期の麦の穂の如き金髪で、サムエル王は自身が重用する王室付き魔法使いを王子の目付け役に置いた。

 国の数々の典礼が執り行われる度に、王の腹心たる魔導士に付き添われ、麦の穂の如き金髪を輝かせて民草の前に立つ王子の姿は、そんな噂を否定するのには充分だった。

 だからそれ以上のことはない。

 騎士たちの言う通り、王妃エナリア、また勇者サムエルを信奉する者にとっては、許しがたくもくだらない大層馬鹿げたほら話である。気の狂った落伍者しか、こんな話はしない。


(でも……――)

 若い騎士団員トムの言った通り、いくら気狂いだろうが、本気でそう信じている者がいる。そしてその者は、あろうことか〝その噂〟を理由に、王族に刃を向けた。

 そういう輩が、この国のどこかにいる。

(――王子が魔女にさらわれた。その事実がもし、何か悪い方に働けば……)

 恐ろしい考えに思い当たり、ミディアはふらりとよろめいた。そばにいたトムがその肩を支え、ミディアの顔を覗き込む。

「大丈夫かミディア? ひどい顔だよ、真っ青だ」

 ミディアはその腕を軽く押し戻しながら、首を小刻みに何度も横に振った。

「何でもない。何でもないの……」


 しかしミディアは知っている。彼の、王子ニグレドの髪の色が本当は、紫を孕んだ黒色であることを。


(でも、それが何だと言うの?)

 ミディアは一歩下がりトムから離れると、こめかみを押さえて頭を左右に振った。

(それが例え〝悪魔の色〟だなんて言われても、〝魔王〟なんてとっくに、勇者サムエル様によって討ち滅ぼされた存在じゃない)

 ミディアの脳裏に、ぼろ布のフードを頑なに押さえつける少年の姿がよぎった。

(でも……ニグレドは、それをとても気にしていた……)

 ミディアは唇を噛みしめた。

(それはそうよね、無理もないわ。自分にはどうしようもないところで他人にあれこれ言われるのは、とても悲しくて、悔しいことだもの……)


「お前たち、油を売っている時間はないぞ」

 その声にミディアと三人の騎士たちは振り向く。バルコニーから庭へと降りてきた騎士団長アーバルが、こちらに向かって歩いてくる。

「王のお話の通り、この後直ちに出立だ。速やかに訓練所の方に向かうように」

 三人の騎士とミディアは、バッと騎士団長アーバルに向き直り背を正した。

「はい。騎士団長殿」

 それを聞きアーバルはうなずく。騎士たちは踵を返し大庭の出口へと向かった。


「ミディア」

 三人の騎士たちと共に数歩歩き出したミディアを、アーバルの声が引き留めた。ミディアはピタリと足を止めて振り返る。

「はい、お師様」

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