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第6話 俺はなんだ


 モンスターを討伐し終えた勇者一行と帰路を進む。


「ふう、ボクたちもあちこち回っているけれど、未だにこれだけ強いモンスターが出るのは呪の森だけだよ」


「モンスター軍のボスがぎゃーすか言ってた。吾輩(ワガハイ)を倒しても第二第三の…、なんだっけ、ドワーフちゃん」


「そんなこと言ってたっけ?」


「いずれにせよ大丈夫だ。この森のモンスターは全て管理できてる」


 問題に慣れるために計画的に問題を起こし続けるのが、現在の管理法だ。


 つまりモンスターの出現は、()()()()()()()()()()()()


 マナとオドの循環を管理する過程で、どのような場合にどのようなモンスターが出現するのか、学園の魔導士達による研究も進んできているからな。


 一方で勇者一行と、隣で上機嫌に俺の腕を抱え込んで歩くガキはまだ謎が多く、管理の方針もまだフワっとしている。


「愛の森は全てを受け入れてくれるのです! モンスターでも何でも!」


「でも、結界を壊すのはよくないよ。今日は元勇者のボクがいたからよかったけど」


「そう。破壊のぐつぐつがあるなら、私とドーンといこう。さあ早く、早く! 早く早く早く早く早くっ!!! っぐぇ!」


 妙な勢いで少女に迫り来るシスターが消えた、と思ったら、木々をなぎ倒しながら横に吹っ飛んでいたらしい。


 横…正確には4番の祠がある方向、あの様子だと半壊以上か。


 シスターがいた場所には、デカい戦槌(ウォーハンマー)を振り抜いた女ドワーフが気炎を上げていた。

 戦槌を棒きれのようにブンブン振り回す凶暴さで、瞳孔散大も見られる。


「あは、あははははは! 役に立たないシスターはあたしが直してあげる! 頭の次はどこがいい? どこがいい?」


「催眠花粉症だ。さてはあいつら薬を飲むのを忘れたか。勇者、正気に戻してく…れ?」


 あろうことか勇者が、(ひざ)をついて地面にへたり込んでいる。対応が遅いと思ったらこれだ。


「ボクがちゃんとお薬を飲ませなかったからだ...。失敗ばっかの元勇者の言葉は...届かないよ。助けになりたかったみんなに...嫌われる程度の...元勇者じゃあ...ね」


「勇者さん。この森を巡る愛は、どんなあなたも全て大好きです」


 劇場の小芝居はいいから、激情バーサーカーをどうにかしてくれ!

 結界は自動で張られてるが、すぐに死にそうな俺がその中に居るんだよ!


「師匠、あたしが! 一番! 役に立つでしょ!? ほら見てよ、こんなこともできちゃうんだから、さ!!」


「おい早くっ、うぉぉお!!!!」


 俺を狙うドワーフは、さっきのシスターと逆方向に吹き飛んだ。猛烈な光の波動と共に。


 魔法をぶっぱなしたシスターが短杖を突き出すように持ったまま中央まで歩みより、逆側から走り込んできたドワーフと対峙する。


「ドワーフちゃん、最強の私があれしきでべこべこになると思った? いいよ、久々にドンパチしようか。楽しい楽しい楽しいやつを」


「あははは! おばかなシスターは、ふふ、ちゃーんと直しとかないとね」


 なんでわざわざ俺の目の前でおっぱじめるんだ!!


「いったん結界の外に退避だ。おい、いつまで俺の腕抱えてる。ここを離れるぞ」


「でもあなた! 勇者さんに愛を教えてあげなくては」


「ボクなんかほっといてよ...。どうせみんな厄介払いするんだ...」


 俺の腕を捕らえた少女は残るつもりらしく、引っ張っても絶望的な手ごたえが得られるのみだ。

 畜生、こいつらと違って俺はなんか食らったら致命傷なんだぞ。


 俺は急いで荷物から引っ張り出した粉末を空中にばらまき、魔法で起こした風に乗せて戦闘狂二人の顔面にぶちまけた。


 かなり値の張る粉をモロに吸い込んだドワーフとシスターは、がくりと項垂(うなだ)れた。出費は激しくとも、これで症状は回復だ。


「二人とも、大きな怪我をする前で良かったな」


「うぅ~、師匠に変なとこ見られちゃったよ~」


「不覚。最強の私があっぱらぱーになるなんて」


「この森の花粉症は、状態異常耐性がある奴ほど効きやすいって話だ。次からは出発前に、ちゃんと薬を飲んだか確認するからな」


 俺たちの体内には、侵入した毒物に対して解毒剤を生成する、状態異常の管理系統がある。

 状態異常耐性が高い身体では解毒剤が一気にドバっと作られるので、毒物の影響を受けにくいとのことだ。


 一方で、この森の催眠花粉は、それ自体を吸いこんでも身体は大丈夫だ。


 ところが、この花粉を体内の管理系統が毒物だと勘違いし、解毒剤として興奮剤を作りまくる、これが催眠花粉症の機構らしい。

 耐性がある強い奴ほど、体内で興奮剤が暴走的に生成するので、今回のようなトラブルに発展するわけだな。


 薬剤で正気に戻した二人に、未だ沈む勇者を担がせて家に戻った。











 冷めてもうまい種類の茶を入れたポットを、ベッド脇のサイドテーブルに置いた。


 いつも寝ていたはずの少女が、自分のベッドに寝かせた勇者の頭を撫でて慰めている。


「私もみんなも勇者さんが大好きですよ。モンスター軍をやっつけて平和な世界を創った勇者さんは凄いです。強くて頼りになって。こうして休んでいる姿も可愛いです。可愛くて強い。みんなの憧れです。これから勇者さん宛てに届いたお便(たよ)りを読みますからね」


 ヤバい薬でもキメたような顔をしている勇者は、引き続き成長した少女に任せ、俺は勇者の仲間と茶を飲む。


「民衆を助けるための力を理由に迫害されるとは、勇者一行のお前たちも辛かっただろうに」


「仲間外れは師匠と会う前ならいつものことだったよ? 懐かしいな~」


「強者の私を弱者がぱーちく畏怖(いふ)するのは当然。何も響かない」


「ならいいんだ。ただ、もしも居場所に困ったら、いつでもここに来い」


 強くなりすぎた勇者一行の居場所がどこかに必要ならば、新たに作り上げるまでだ。

 平和な世の中でも俺の仕事はまだまだありそうだな。


「おいちゃんこそ、呪の森の管理者なんてげろげろなのに良くやる」


「そうだよ。みんな呪いを受けるって気味悪がって近寄らないもん」


「呪いなんてただの噂だろ。それに、お前達のように来てくれる奴らもいる」


 長年生活している俺は全くの健康体であり、不幸になるだのという呪いの根拠は乏しい。

 恐らくは大昔の管理者が人払いのために撒いた話が膨らんだんだろう。



 一息ついたころに(ふところ)の魔石が振動した。



 俺は少し席を外すと言いつけて、奥の魔法部屋で領館と連絡を取る。


「朝の速報の件だよな。ついに森の眠り姫が目を覚ましたぞ」


「違います」


 意気揚々と話した出鼻を早速くじかれた。


「管理拠点『冥の山』『淵の海』が放棄されました」


「放棄…? 戦争が終わったのにか」


 モンスター軍が瓦解したから管理は気楽になったと思う。

 それがどうして放棄という判断になるんだ?


「退任届には、戦争が終わった今、もはや管理する必要はないと」


「領館はどう判断してる」


「引き続き管理は必要です。軍ではなくとも、放っておくほどに強大なモンスターが出現する可能性が高まります」


 やけに冷静だな。領館にしてみれば頭の痛い話だろうに。


「と、いうわけで。管理者殿には呪の森に加えて、冥の山と淵の海も管理して頂くことにしました」


「そんな「と、いうわけで」があるかッ!?!?」


 悲鳴に近い声を上げてしまった。

 俺としたことが、反省だ。


「いつまでも俺を何でも屋扱いするより、新人を雇え新人を」


「ええ。ですから、新人を見繕(みつくろ)う間の暫定的な管理者を決めねば。前任者は雲隠れしてしまったので」


 野郎、厄介ごとは全部俺に管理させる気か。

 領館の任命責任なのに、俺にしわ寄せがくるなんてどうなってんだ、畜生。


 しかし、文句を言うよりも状況を打開する策を打ち出すべきだな。


「…分かった。ひとまずはトラブルに慣れてる俺がやってみよう。放棄してから間が空く前にとっかかった方が良い」


「ありがとうございます。領館もできる限り支援します」


「まずは急いで二拠点の状況を送ってくれ。それと予算の確保を、多めにな」


 現時点でできる支援策を伝えて、通話を終えた。

 一つ息を吐いた後、俺は自分の頬を叩いて気持ちを鼓舞する。


 意気揚々と振り返ると、薄く開いた扉の影に、四人の顔が串団子のように連なっていた。

 俺が魔法部屋から出ると、わいわいと群がってくる。


「あたしがシスターよりも役に立つから、近くで見ててね師匠」


「ドワーフちゃん笑止。冥の山でも淵の海でも、勝利は私にキラリ」


「愛が広がるお泊り旅、楽しみですね!」


「キミが行くならボクも…。いや、元勇者として見過ごせないね!」


「やる気があるのはいいことだ」


 ただ、どうして全員で行く流れになりつつあるのか。

 殲滅ならともかく、目的は管理だぞ。こんな大戦力を引き連れて視察に行くよりも先に片すことがある。


 三つの拠点に対し、管理者は俺一人のみ。よって、離れた拠点の状態を把握できる仕組みが必要だ。


「広く情報を取るために、森、山、海の三拠点にそれぞれ班分けしてみるか。お前達のそれぞれを筆頭に、ギルドからの応援を合わせた班を組織して…」


 異様にシラケた目線が俺を貫いた。

 ダメか、戦力の分散は。


「冗談だ、冗談だよ。お前達には、『旧モンスター軍本拠地』の調査を依頼しよう。少々危険だが、全拠点をつなげるには最大の候補だ」


「そう来なくっちゃ! も~、師匠らしくないと思ったよ」


「危うく腹いせにわーっとやるとこだった」


 ギラつく眼差しのこいつらに任せて、本当に大丈夫なのか?


 調査では前回のような敵地への急襲とは違う能力が求められる。

 起き抜けの少女の適性次第では、勇者一人に負担が集中してしまいそうだ。


「あの、ね。出発の前に、も、もう一回だけ…」


「はい勇者さん。いっぱい愛を受け取ってくださいね」


「.......膝枕するならクッション敷いた方がいいぞ、ほらよ」


「ほら勇者さん。みんな貴女が大好きなんですよ。私もよしよししてあげますね」


 薄弱な笑みをこぼす勇者に負担をかけて、本当に大丈夫なのか?

 愛を(つむ)ぐ少女のケアで、少しでも楽になってくれればいいが。


 俺は旧モンスター軍本拠地の概略地図を取り出して広げた。前に勇者の報告をもとに作成したものだ。何でも記録しとくもんだな。


「お前達四人の転送先はこの辺りのはずだ。この森と同様に他拠点に転送できそうな場所を向こう側で見つけて、魔石を設置し、地図に場所を記載していってくれ」


「あの、五人の間違いですよね?」


 勇者に膝を貸す少女が、まっすぐ手をあげて発言した。


「俺はここで別作業だ。俺のマナじゃあ転送負荷で身体がバラバラになるだろう」


 それに旧本拠地とはいえ、俺を一撫ででぶっ殺せる野良モンスターが大量にのさばってるはずだ。


 結界が自在に構築できるこの森ならともかく、勇者一行のみが踏めた地を俺が練り歩くのはリスクが高すぎる。


「うーん。それなら、私もあなたとお留守番します」


「ええ!? そ、それならボクもキミと一緒にいたいな、なんて…」


 膝枕で休む勇者は、血色の悪かった顔を赤らめてもぞもぞと喋る。


「あたしとシスターだけじゃあ、どっちが役に立てるか決まらないよ~」


「おいちゃんもドワーフちゃんも、最強魔導士の私をお忘れかな? 転送なら私がぽわーんとやってあげよう」


「シスターさん凄いです! これでみんなで一緒にお泊りです」


「な、ならさ! 管理者さんの護衛は元勇者のボクに任せてよ! それでうまくできたら、またキミに、その…、褒めて欲しいな」


 畜生、どうあっても危険地帯のピクニックに連れまわす気だな。

 その一行を、この森を、あの山と海を、どのように管理するべきか。


 俺は頬を叩いて自分を鼓舞し、準備に取り掛かった。


















ー報告書ー


 この度、三拠点『呪の森』『冥の山』『淵の海』全域に渡る総合管理系統の構築に成功したので報告する。


 当領内では、特殊なモンスターが出現する特定地域が複数確認されている。


 出現するモンスターは組織化された軍より脅威は劣るものの、地域外に流出すると大きな損害を招く可能性がある。

 そのため、これまでは各拠点に管理者を配備してそれぞれ独立に管理し、適宜情報を集約する形で監視していた。


 しかしながらこの従来法には、何らかの理由で拠点管理者が外れた場合に、拠点が完全に放置されてしまうという課題が存在した。


 特殊なモンスターの出現する地域は、管理拠点として十分な安全を確保しておくことが望ましい。


 そこで改善案として、拠点間の管理系統を統一して連携することを考えた。これにより、ある拠点で管理者が外れたり、大規模な障害が発生しても、他の拠点からカバーする運用が可能になる。


 統一化する管理系統には、拠点『呪の森』で実装されているものを流用した。すなわち、特殊なマナに着目した魔法による管理系統である。

 この管理系統は、日常の管理は当然として、特殊モンスター出現の研究手段としても成果を上げている。

 例えば、特殊なマナの循環が乱れるとマナがオドに変化して瘴気を生み、特殊モンスターが出現しやすくなるという通説は、この管理系統により実験的に実証された。


 今回、『呪の森』『冥の山』『淵の海』の三拠点について、拠点間の魔石連動を利用した分散管理系統を構築した。


 現在は『呪の森』から『冥の山』『淵の海』の管理を支援している。管理系統の運用および維持管理のため、『冥の山』『淵の海』の管理者を至急配備されたい。


 詳細報告は添付資料に記す。






ー追伸ー


 最近、俺を魔王だの何だのと呼ぶ奴らが多いのは気のせいか? 妙な噂が広がる前にどうにかしてくれ。













お付き合い頂きありがとうございました。


本作では、主人公の台詞と独白を全て肯定文で構成することで、独自解釈された全肯定ダダ甘コメディの展開を試みましたが、さすがに無理がありました。

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