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第4話 この勇者一行はなんだ


 森に落ちていた幼女は、眠ったまま少女へと成長していた。


 何度でも頼むからいい加減に起きろ。


 しんしんと雪の降る今日は、暖炉のそばの椅子に少女を座らせて本を読み聞かせている。

 朗読する俺の声と(たきぎ)が弾ける音だけが部屋に響くなか、家のドアが勢いよく破られた。


 破られた!?


「ししょ―! 久しぶり!!!」


怪我(ケガ)は…ドアだけか」


 木片を撒き散らしながら飛び込んで来たのは、女ドワーフのバーサーカーだった。

 急いで玄関まで行き、背の小さいドワーフの頭と肩に乗った雪を叩き落とす。


「次からはまず雪を落として、ゆっくり入ってこい」


「ふぁぁ。やっぱり師匠はやさしいな」


「床が濡れると俺が困るんだよ。それと、俺を師匠と呼ぶのはいい加減やめることだ」


 以前この森の『溜』を占拠していたドラゴンスライムの死骸を破壊した女ドワーフは、なんだかんだで勇者の旅に同行している旨を手紙に書いていた。

 

 つまり、勇者一行がこの近隣に来ているってことだな。


「この森のドラゴンは、現在は管理上重要な生物資源だ。討伐するんなら、明確な理由を示せ」


「嫌だなあ。あたしは近くに来たから師匠に顔見せに来ただけなのに」


 顔見せでドアを破壊するか? ずいぶん力を持て余しているようだ。


 寒期は冷気を遮断するために入口を二重構造にしていたのに、バーサーカーの襲来で吹き(さら)しになっている。


「だー! 寒ぃな畜生。話を聞くのはぶっ壊れたドアを修繕してからだ。力が有り余ってるなら手伝え!」


「えへへ、久しぶりだなあこの感じ」


 ふにゃけた顔の女ドワーフを引き連れて、なんとか応急処置を完了させる。

 屋外作業で冷えた身体を温めるべく、暖炉の前で熱い茶を飲む。


「さて、勇者一行がこの辺境まで来ているということは…」


「おっさーん! おっさん、助けて! 入れてよ!」


「またか」


 玄関のドアが激しく叩かれる。

 おい、応急処置なんだからそんなに力を入れたら。おい、まて!


 俺の祈りむなしく、ドンガラと音を立てて仮のドアは外れた。


「わっ、痛たた…。 何だよこのドアは! 立て付け悪いよ、おっさん」


「次からは半壊した玄関を見た段階で、リスクを想定しておけ」


 痛む頭で大布を取り出し、入ってきた魔導士にぶん投げる。


「ところで、何かに追われてんのか?」


「僕の妹だよ、天才魔導士の。それというのも……おや、これはこれは素敵なドワーフのレディ。可憐な君を見られただけでも呪の森に来てよかった」


「…? あ、お花をどうも。お兄さん」


 話の途中で俺をシカトし、自分の髪をかき上げながら花を贈っている。数瞬前まで倒れた扉に大の字でへばりついていた男が優雅なことだな。


「呪の森のお姫様も日に日に大きくなっているね。さあ目を開けて、僕にその声を聴かせておくれ…」


「さっさと要件を話せ!」


「痛い! 僕の恋を邪魔しないでよ」


 ゲンコツが相応(ふさわ)しいんだよ。管理者をシカトして、椅子で寝る少女に(ひざまず)く魔導士には。何が僕の恋だ。


 状況をまとめて仕切り直す。


「勇者様にお告げがあったの。モンスター軍の本拠地まで、この近くから行けるって」


「今は自由行動か?」


「3人バラバラで情報集めしてるよ。あたしも師匠に聞こうと思って」


 特殊なマナが巡るこの森に来たのは良い目の付け所だ。


「妹が学園に来たのはそれでか…。まったく、いきなりすぎてビックリしたよ」


「久しぶりの兄妹の再会で、どうしてお前が追われてんだ」


「妹はバトル狂なのが玉にキズでね。あんなのに付き合ってたら命がいくつあっても足りない」


 聞けばこの魔導士の妹は、教会に所属するシスターであり、勇者と旅をしている程の天才らしい。攻撃魔法から回復魔法まで幅広く極めているとのことだ。


 教会のシスターが戦闘狂とは物騒だな。まあ、カネにがめつい因業マザーもいるし、そんなもんか。


「でもシスターは、兄さんは本気じゃない、本当は強い、って言ってたよ?」


「思い込みだよ、酷い…酷い思い込みだ。妹は感覚派だから論理も通じないし」


 確かに、この男が勇者一行の魔導士より強ければ、この森にドラゴンが出た時とかに、あんなに慌てていたのはおかしいよな。


 しばらく旅の話など聞いていると、出し抜けに手持ちの魔石が振動した。正体が謎のマナが検出されている。


 これは…デカいな。最近落ち着いてきたと思った矢先に敵襲か?


 現状では近隣に勇者一行がいるものの、勇者に引き継ぐまではこの森の管理者、俺が対応する必要がある。


 急いで魔法部屋に飛び込む。が、森のマナ循環は正常だ。


「モンスター以外、となれば。おい、お前の妹が転移して来るぞ」


「僕はここに居ない。居ないんだ。おっさん、そこんとこ宜しくね」


 魔法部屋から出て魔導士に告げると、既にベッドの下に潜り込んで震えていた。そんなんで隠れられるのか?


 魔石の振動が落ち着くと、魔導士が潜るベッドの上に、教会のシスターの恰好(かっこう)をした女が腰かけていた。


そして、座ったままで足の間を覗き込む。


「兄さん、見っけ」


「や、やあマイシスター。こんな呪の森になんのようだい?」


「私より強い魔導士、いざ勝負」


「ハヒェ!? こ、こここで戦うのは迷惑になるんじゃ、ないかな」


「強者の構えは常在戦場、いぇー」


 おいおい、他人の寝床で戦闘をおっぱじめる気か!?

 ここはシスターの仲間である力自慢に仲裁を頼むか。


「暴れられたら家が壊れる。おい、あの兄妹喧嘩止められるか」


「シスター、師匠の家でやるなら、一番弟子のあたしを倒してからにして!」


「師匠? …ほぅ、君がドワーフちゃんの」


 どうして別の喧嘩を売る発想になるんだ?

 勇者一行の三人中二人がバーサーカーとか、どんなパーティーバランスだ。


 ベッドを降りて明媚(めいび)な目つきで俺を凝視するシスター。軽薄そうな兄貴に似た顔立ちでこうも好戦的だと混乱するな。


「ドワーフちゃんの師匠。君もさぞかし強かろう。どぎゅーん、さあ戦おう」


「弟子は師匠を越えていくものだ。俺が越えられてから十年近く、その間にもあいつはさらなる成長を遂げている。もはや俺など比較すらおこがましい」


「残念、シュン…」


「師匠、そんなこと…ムグッ」


 余計なコトを言う前に口を塞いでおく。ベッドの下で青ざめる兄貴に今なら同情できるぜ、畜生。


「やっぱ私の強敵手は、本気の兄さんか」


「待ってよ。なんで勇者一行の最強魔導士が、僕より弱い事になるんだよ!」


 シスターは懐から一枚の紙を出し、ベッドから這い出た兄貴に突き付けた。そこには、ドラゴンを背景に良い恰好をした魔導士の男が映っていた。


「マナは隠せても『竜飼い』の名声は学園で、ばばーん」


「いやだからさ、マナが少なくてもどうにかする魔導理論があるんだって」


「難しいのはポイ」


「ポイはないだろぉ…。感覚派の天才はこれだから!」


 そこで狼狽(うろた)えている魔導士は卒業後も学園に残り、教鞭を振るうかたわら、この森のドラゴンの研究を重ねていた。

 ここ二、三年でドラゴンの調査も進み、生え変わる鱗や角の回収法も確立できた。これを売りさばいたカネは、森を管理する上で重要な資金源になっている。


 功績は素晴らしいが、学園で自慢しすぎだ。自業自得だな。


「言い訳なし。呪の森のドラゴンを手懐けた手腕、私に見せてもらう」


「しゅ、手腕は! そこで飄々(ひょうひょう)としてるおっさんの手腕だよ。呪の森を一人で管理する凄腕で、手柄を僕にくれるんだよ。ねえドワーフちゃん」


「うん! 師匠はなんでもできるし、とっても優しいから」


「俺一人では失敗が確定的だった。だからこそ俺は依頼を出し、お前らは俺と出会ったんだろうが」


 話を面倒な方向に進め過ぎだ、まったく。


「とにかく! モンスター軍の本拠地に乗り込む方法を探すんだろう。何か手がかりは聞いているか」


「勇者様がなんか言ってたけど、あたし忘れちゃった」


「この近くにあるって。あとは勇者ちゃんにおまかせちゃん」


 ぽんこつな仲間に勇者の苦労がしのばれる。


「モンスター軍の本拠地への転移魔法でしょ? 呪の森のマナ循環を利用するんじゃないかな」


「候補地がいくつかある。勇者が来る前に、事前調査をしておくか」


 椅子に座らせていた少女を抱えてベッドに運び、外回りの準備を整える。


「師匠、あたしも! あたしも行く」


「良いだろう。魔導士兄妹はここで支援を」


「おいちゃん。私も興味がぴかっと」


 おっと、シスターまでついて来るのは予想外だ。


「まあ、支援は僕一人に任せてよ。大丈夫、この仕事も慣れてるからね。ほら、行った行った!!」


 俺の背中を強引に押す魔導士兄。てめー、面倒事を押し付けるハラか。後で覚えてろよ。


「まあいい。ただし、この森の管理責任の全ては俺にあり、それだけの権限もある。勇者に移管するまで、俺の指示には従ってもらうぞ」


「もちろんだよ、師匠」


「がってん」


 この年齢にもなって勇者の真似事とは、むず痒いものがあるな。






 調査を終わらせて家に戻り、どうにか茶を入れて一息つく。

 

 くたくただ。何よりバーサーカー二名の暴走を食い止めるのに苦労した。 


 説明する前に明後日(あさって)の方向へ走り出す。


 説明の途中で『溜』に設置した(ほこら)に破壊の力を剥ける。


 説明したそばから魔植の催眠花粉を吸い込んで俺に攻撃する。


 説明を聞いたのを忘れて貴重なドラゴンに戦いを挑む。


 説明がまだのオド循環まで勝手に乱す。



 ああ、くたびれた!



 しかし、一緒に連れて行って正解だった。もし別行動している間に何かされたらヤバかったかもな。


「ししょー! あたしとシスター、どっちが役に立った!?」


「おいちゃんが選ぶのは勝利する私、きらーん」


「それぞれに良い個性があり、比較する意味は乏しい。力には力、魔法には魔法の使いどころがあんだよ」


 冷えた足先を暖炉の前で解きほぐし、身体に茶を染みわたらせ、熱い息を吐く。


「重要な事実はこうだ。お前らの協力により、今回の調査は成功した」


 あれで成功って、おっさん…、などと、俺同様にくたびれた様子の魔術師がわざわざ念話で零す。


 うるせえな。目的を達したら成功だ。

 もし失敗だとすれば、俺の管理能力に問題があったことになるからな。


 カップをテーブルに置くと、調査中に家にきたという客人の女が、簡易ベッドから起き上がってきた。


「この度はボクの連れがご迷惑をおかけして。本当に、本当に、勇者のボクがついてさえいたら...」


「二人の同行を許可した俺の判断は正しく、つまり二人は役立った。ちったあ人心地ついたか、勇者よ」


 なぜか俺達より疲労の色が強い女勇者の頭を上げさせる。


 瞳に星を宿した両目は、やけにギラついた上に深いクマで縁どられ、パサついた黒髪が色気の乏しい留め輪で束ねられていた。

 その姿からは戦刃を思わせるような危うさも感じられ、今まさに泥沼化した激戦から帰還してきたような、そんな印象を受ける。


 連絡を受け、この森の管理者権限で強制的に休ませていたが、こんな活力でよく旅していたな。


 女勇者が起きてきたのが分かると、椅子で項垂(うなだ)れていた魔導士が飛び上がり、華麗にターンしながら椅子を勧める。


「ご機嫌よう美しき戦乙女。どうぞこちらへヴッ!」


「勇者ちゃん。起きたらどーんと戦いに行こう」


 シスターは体当たりで兄貴をどけると、勇者の腕を抱きしめるように捕まえた。


「えー!? シスター、もうちょっとゆっくりして行こうよ。師匠のごはん美味しいよ?」


「敗者はすぐにてろーん。ドワーフちゃんより私が強いよね、勇者ちゃん」


「何それ!? あたしの方が役に立つよ、勇者様。それを今から見せるからついてきて!」


「二人とも...落ち着いて、ね? だって、勇者はこのボクだッ!」


 ちぐはぐな会話の果てに妙な張り切りを見せる勇者と、その腕を片方ずつ捕らえて外へ向かおうとするバーサーカー二人。何をやっとるんだこいつらは。


 俺は壁に飾っていたドラゴンの角で一行の頭を小突き、強引に出発を止めた。次いで、部屋の隅でうずくまる魔導士を引っ張り上げて、状況をまとめにかかる。


「勇者一行といえど、この森を探索する際は管理者である俺に許可を取れ。まずは――」


 グギュルルルル、と誰かの腹が鳴る音が聞こえた。

 視線が集中した場所では、膨らんだベッドの中で眠る少女が、大声で(わめ)き散らしはじめていた。


「わ゛ぁぁぁぁぁ! グスッ...うぁぁあ゛ん!!!」


「畜生、飯が先だ!」


「ほぅ...あの娘、じっと見ればマナがどっさり」


 最も近くにいた俺が余波を受けてよろめくほどだ。これを放っておくと、やがて鳴き声の衝撃で家が壊れ始めやがる。一体何者なんだこのガキはよ!


 腹が減ってぐずる歳は過ぎたはずなのに、いつまで経っても世話が焼ける。

本当に、本当に、なんとか早く自立してくれ。



 デカい雛鳥につまみ食いさせながら夕飯を用意した。

 木机に並ぶメシが減るのを見計らい、俺は調査結果を説明する。


「モンスター軍の本拠地への転移は、やはりこの森から行うのがいいだろう」


「ボクたちは何を準備すればいい?」


「突入前に十分な休息を取ることが望ましい。この森の管理者である俺には、勇者一行を万全の態勢で送り出す責任がある」


 勇者は星を宿(やど)した目をぱちくりさせて呆けている。何が意外だったのやら。


 やつれたままでモンスター軍の本拠地に放り込んで失敗し、俺の責任を問われたらどうする。それを避けるのは当然だ。


「他の拠点では困難な転移準備も、この森ではたやすい」


「流石はししょー!」


「おいちゃん。して、秘訣は?」


「転移で空間を繋いだ際に、向こうからこちらに溢れてくるオドを管理できるかどうかだ。この森ではドラゴンの生息に対応するため、そこの魔導士が開発した管理系統がある」


「やっぱり兄さんは、どゅーん」


 柔らかい言葉とは相反する視線だ。パンを喉に詰まらせた男が、胸をドンドン叩いて水を飲んでいる。


 かつての管理ではオドの発生を防ぐこと、すなわち、マナ循環を守ることに注力していた。しかしドラゴン程度のモンスターがいれば、どうしてもマナ循環は乱れ、オドに転化して瘴気を生む。


 ここで、発想の転換が必要だった。


 一定量のマナをあえてオドに転化させて、オドさえもこの森に循環させる。


 マナ同様に特殊なオドの巡りを作ることで、瘴気、ひいてはモンスターの発生箇所をドラゴンのいる結界内に誘導する。モンスターは確実に結界内で発生し、時にドラゴンの食糧にもなる。


 新たな段階に進んだ、攻めの管理法だ。


「...んぐ、おっさんの考えじゃん、元々は。新しい問題は新しい方法で切りくずすとか言ってさ」


「それはただの精神論であって、実際に考案、開発したのはお前だ」


 俺は、魔法は使う側だ。

 知識は浅く、開発などという頭の痛くなる仕事に至るには遥か遠い。


「勇者一行は、モンスター軍の本拠地で確実な成果を上げる態勢を整えろ。それまでは待機だ」


「あ、あの。待機って、勇者のボクがこれ以上待つって、何をすれば…」


 俺の指示を聞いた女勇者がオロオロと狼狽えている。

 いや、だから待機だよ。


「旅の途中で街についたら泊まって飯食って休むだろ。そんな感じだよ」


「宿? てろてろドワーフちゃんと違って、強者は常在戦場。ね、勇者ちゃん」


「あたしだって宿なんて泊まってないもん! 一緒に野宿してるよね!?」


「勇者たちは少しでも多くのモンスターを討伐しないといけないからね」


 魔導士と顔を見合わせる。まさか補給を自重して旅しているのか!?

 勇者までバーサーカーかよ。んな馬鹿な。


「あいにく、この森のモンスターはドラゴンの(エサ)として重要な資源だ。仕事があった方がむしろ落ち着くというなら、転移の準備を手伝ってくれ」


「もちろん。勇者パーティのボクたちに任せてよ」


 この勤勉さ、満腹で眠るどっかの子どもにも見習って欲しいものだな。



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