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第3話 このモンスターはなんだ


 森の奥でガキを拾ってから五年ほど経過し、幼女も童女に成長した。

 未だに夢の中だけどな。どうなってんだ。マジで。


 伸びてきた金髪を切ってやっていると、玄関のドアを開けて優男が侵入してきた。


「やあおっさん。邪魔するよ」


「気さくなのはいいが、外のベルは鳴らすためにつけてあるんだぞ」


「自分で呼んだんだからカタい事言わない」


 魔法学園に通う生徒でも五指に入るという若い魔導士は、俺たちの近くまで寄ってくると、目を閉じる童女の前に(ひざ)を付いて花束を差し出す。


「ごきげんよう小さなレディ。髪を切るおっさんを背にしてなお美しい君の前では、この花束さえ霞むようだね…。君が大人になるのが待ち遠しいよ」


「悪かったな、(はさみ)を持つのが俺でよ」


 世話をする上では丸刈りが楽なところ、幼いとはいえ女には酷だろうと、肩にかかる程度にわざわざ切りそろえているんだ。むしろ感謝してもらいたい。


 五年間で上達に乏しい仕事をしながら、キザな魔導士の男に声をかける。


「そんなことより、こいつを起こす方法を見つけたりはしたか」


「ないない。そんなの見つかるわけないよ。呪われてるとかならまだしも、原因が分かんないんだから」


 おもしろみに欠けるセリフを吐いた若者は俺の家の椅子に腰かけて、小杖を振った。向こうのキッチンにある調理器具を操って茶を入れるらしい。


 棚の壺から踊るように茶葉がポットに入っていき、ケトルが揺れると水音とともに湯気が沸く。適温の湯がポットに注がれると、カップと共に空をふよふよこちらへと漂い、魔導士殿の優雅なティータイムが始まった。


 こんな芸当ができてどうして、寝ている童女の一人を起こすまでが遥か遠いのか。


「そんな目で見ないでよ。前から言ってるけど、そもそも呪の森に突然現れた子どもってだけでも、どんな古文書見ても前例ないんだから」


「未来の古文書を記すのは今を生きるお前だ」


 俺は両腕を大きく広げて仰々(ぎょうぎょう)しく語りかける。


「前例がゼロ……ならば、新しい例を開拓するチャンスだ。この広大な森、管理範囲の飛躍的拡大を実現した、あの魔法のように」


「…もう騙されない。おっさんはそうやって、芝居がかった台詞で滅茶苦茶なことをやらせるんだ」


 長く眠るガキを起こすために俺は全力を尽くす。仮に俺に至難なら、他人の努力を使うために、俺が努力するまでだ。

 

 五年だ…。もう、五年になるんだ…。

 里親や世話係の募集も失敗が続き、かなりの閉塞感が漂っている。


 穏やかに寝息をたてる童女の頭を洗って乾かし、ベッドに寝かせた。


「さて、結構待たせてしまったな」


「可愛いレディの身支度を急かしはしないよ。でも、早く大人にならないかな」


「そんなに言うなら、今のうちから引き取って育てるってのはどうだ」


「僕は自由気ままな渡り鳥、巣は作らないのさ。特に、呪の森ではね」


 くそったれ。森に根を張るおっさん相手に良く言ったもんだな。



 まあいい、高値で魔導士を呼んだ理由を話そう。



 この五年でモンスター軍との争いはかなりの規模に拡大している。

それと関係しているかは調査中だが、俺の管理する辺境の森に、どこからか強大なモンスターが転送されてきた。


 ちなみに、いち早くモンスター転送を把握することができたのは、魔法を活用した管理支援系統を実装していたからだ。

この身一つで見回る昔ながらの手法だけで頑張ってたらと思うとゾッとするぜ。


 俺は(ふところ)から小さな光る魔石を取り出し、椅子でだらける魔導士に見せつけた。


「大物の応答だ。マナ循環の乱れから討伐適正はAランクと想定した。Aランクハンターが来るまで、結界内で管理しておく必要がある」


「Aランク…え、Aランクのモンスター!?」


 派手に椅子から転げ落ちた魔導士は、泣きそうな声で俺に捲し立ててくる。


「Aランクのやべー奴を相手に、僕を呼んだのかよ!?」


「討伐とは違い、管理ができていればいい。お前にだからこそ、頼みたい仕事だ」


「僕が学園の5指に入るからって? コネだよ、コネと根回し!」


 俺が重視しているのは、他の魔導士が呪の森というだけで怖気づく中、豪胆に一人でやってくるその精神だ。


「落ち着け。この森で全責任を負うのは管理者である俺だ。外部人員、ましてや学園の生徒には、安全な作業をさせるつもりだ」


 俺は魔導士を引っ張り上げて立たせ、最近増築を終えた奥の新しい部屋のドアを開けた。


 この魔法部屋の主軸となるのは中央に設置した台座だ。台の上に魔石を固定する箇所が数十個備えついている。

 

 俺の管理する森には特殊なマナの流れが巡っており、そのマナ循環の要となるのは『溜』だ。


 この台座は森、そしてその上の魔石が溜に対応している。


 既に実際に森の溜に魔石を設置して、マナ循環の異常を検出できるようにしてある。よって、魔石の連動を利用することで、離れたこの小屋からマナの状態が把握できるという仕組みだ。


 さらに、正面の壁には薄くて広い水槽が取り付けてある。エーテルを満たしたこの薄型水槽(モニター)は、壁中と床下を通して台座と繋がり、マナ循環の状態を目で見て分かるように投影してくれる。


 便利になったもんだな。


 俺は取り外して持っていた光る魔石を、再び台座に嵌め込む。


「とりあえず結界は組んだ。しかし、素人の構成だからな。ちょっと意見をくれや」


「はいはいっと…これは、うわ、えー?」


 出現の予兆が見えた段階で、モンスターを封じ込める結界を作っておいた。

細かい話を抜きにすると、結界の内部に制御用の魔石をいくつか設置し、森中を巡る特殊なマナの流れで対象を囲えば構築できる。


 水槽に映るマナの状態を見て、口に手を当ててぼそぼそと呟く魔導士。


「どうした、問題か」


「えーっとね、この結界が成立しているのは、全くの偶然だね。いつ壊れてもおかしくない」


「何だと!?」


 そんな馬鹿な。

 短い杖で水槽の一部が指し示される。


「ほら、ここの制御魔石が動いてないじゃん。これだと結界にならない。今は、よくわからないマナでリレーされてどうにかなってるみたいだけど」


 その今にも消えそうな細いマナで、結界が保たれてるってのか。


「つーことは、ここの制御用魔石だけがシケてんだな」


 畜生、魔石の質が悪かったか? 動作確認はしっかりやったつもりだったが。


 魔法部屋を出て、外回り用の荷物を背負う。


「よし、俺は現地で修復作業を行い、お前はここで支援だ。念話を繋いでくれ」


「現地って、ヤバいモンスターがいるんだろ!? 助けを待った方が良いんじゃ…」


「助けか。領館、教会、ギルド…救援はとっくに頼んで、待って、そして来た。お前という、現時点で最高の魔導士がな」


 語りに白目をむく学園五指の魔導士を背に、俺はベッドで眠る子どもの頭を撫でた。

 まったく、こんな時でもいつもの眠り姫か。どうにも笑いが浮かぶな。


「お前の言う通り、俺はたかが辺境の森を管理するおっさんだ。剣も魔法も、才能はほんのわずか。だが、己の才能以外にも問題を解決できる財を知っている。お前のことだよ」


「立派な意気込みだ。でも、たった1人の援軍が、コネで成り上がった僕ではね! わはは…傑作だね…」


 俺は寝ているガキから振り返り、膝をつく学生の肩を叩いて顔を上げさせた。


「お前を支援役に呼んだ俺の判断は正しく、依頼に応じてやってきたお前の判断もまた正しい。これからそれを証明してやる」











 現地付近に到着し、念話をつなげた魔導士に報告する。


「近くに着いたぞ。モンスターもいるな。くそ、位置が悪い」


「おっさん、モンスターってどんな奴?」


 この辺では超めずらしいモンスターだ。


 そこらの木よりデカく、風貌(ふうぼう)はヨロイトカゲにやや似ている。ただし、銀色の鱗は遠目で分かるくらいの神秘的な輝きがあり、胴体には翼膜のある4枚の翼がついている。その背後には、マナで構成された光の輪がバチバチ鳴っていた。


 ワイバーンの上位種かよ! ふざけろッ!!


 魔石が悪くてもなんでも事前に結界を構築しておいて良かった。下手したら一帯に被害が出てたな。


「……多分、上位種のワイバーンだな」


「上位種のワイバーン!? やっぱり呪の森なんか来るんじゃなかった! 僕たちはもう終わりだぁ!」


「その偉大なる森のマナで封じ込めはできてる。結界を維持すれば良いだけの話だ」


 ただし、問題の箇所は結界範囲の内側にある。あのトカゲから逃げ隠れしつつ、結界制御用の魔石を設置してくるのが、今回のクエストだ。


 誰が受けるんだよ、こんなくそクエスト。


「まずは結界の外で、バケモノが遠くに行くまで粘る」


「あああああああ!!??」


 突然の絶叫で頭がグラついた。


「うるせーぞ落ち着け、どうした」


「ああ、待って消えちゃう、例のマナが、もう…、ああ…」


 泣きそうに消え入る魔導士の声に、俺は頬を叩いて自分を鼓舞する。


 準備は当然している。冷静に行動しろ。


 絶望に浸る魔導士に念話で指示を飛ばす。


「落ち着け。2番と23番の魔石を入れ替えれば良い」


「え? 入れ替えるって、そんなことして何の意味が」


「予備の結界が立ち上がる。2番と23番の魔石を入れ替えろ」


 結界に障害があった時の対応は、当然考えている。


 結界は森のマナ循環を利用している。つまり、一部の流れに問題がある場合には、別の経路を繋ぐことで、応急的な結界を構成できるというわけだ。


 2番と23番を入れ替えると、結界の範囲がわずかに北側にズレる形で構成されるはずだ。


「変えて、あ、そうか、こうなるのか! おっさん、天才かよ!」


「才能とは別の、備えの努力というものだな」


 しかし、あくまで予備だ。利用するマナの流れはかなり強引になるため、いつまでもつことやら。

 当初の計画では、ワイバーンが移動するのを待ってから結界の範囲を変更し、安全を確保した上で作業する予定だった。


「計画からのズレはまだ許容できる。これより結界内での作業に移るぞ」


「もし失敗したらどうする?」


「任せておけ、この森の管理上の責任は全て俺が負う」


 どうせ一帯は焦土だろうから、後は野となれ山となれだ。


 森の中は、獣道に毛が生えた程度でありながら林道の整備が進んでいる。邪魔な木を伐採した跡も見られ、我ながらヒトの手で管理されている雰囲気がある。


 そんな見通しの良い森に、木々を踏み倒してワイバーン上位種がのさばっている。異様だ。嘘だと思いてえ。


 死を横目に、俺は忍び足で幽獄の淵に到達した。


「第一段階、突破だ…」


「はやくはやく!」


 幸いなことに死のトカゲはほとんど止まっている、と思えばいきなり周囲を見渡す様子などが見られ、変な汗がどんどん出てくる。


「おいこれ、魔石の調子とは違う。人為的なものだ」


「人為的って、呪の森でイタズラする奴なんかいないでしょ」


(ほこら)の荒らされ方を見れば分かる」


 魔石を設置する『溜』は管理上重要であり、俺は(ほこら)を作っていた。


 (ほこら)は破壊こそ(まぬが)れているものの、設置しておいた結界制御用の魔石を取り外そうとしたのか、何かごちゃごちゃやった形跡が見られる。


 馬鹿野郎はどこのどいつだ!


「原因は分かった…。ふぅぅ、調整するから、水槽で応答を確認してくれ」


「わ、わかった。焦らず急いでよ!」


 臨死を感じるほどに鼓動が激しく、息も絶え絶えだ。

 それでもどうか落ち着け、俺よ。


 緊張でとにかく震える手で、脂汗でびっしょりになりながら作業を進める。


「――終わったぞ、どうだ?」


「…良い! 良いよ! 完璧! 天才!」


「ふぅ、今さら気付いたが、太陽がまぶしい、ぜ…」


 上空に浮かんだワイバーン上位種が、明らかにこっちを向いていた。

 4枚の翼が全て大きく広げられ、背面の魔法輪が太陽のごとく発光し、炸裂音を発しながら強烈なマナを溜めている。


 大気が震え、空が鳴り響く中、俺は絶叫していたらしい。


「14番と23番んんん!!!」


「14と23、入れ替え…入れ替え…完了!」


「おいヤバい、ぐわあああああああ!!」


 視界が真っ白になったと同時に、結界範囲がズレて、巨大なワイバーンが中に、ちっぽけな俺が外に出る。


 全滅のマジックストームは、まさに目の前で、この森の結界により遮られた。


「…さん、おっさぁん!!!」


「も、森よおおおおお!」


 俺は腰を抜かしたまま、キモい動きの四足歩行でシャカシャカと後ずさり、再び魔石を入れ替えさせる。落ち着け、落ち着いて指示を出せ。


 くそが! うるせえぞ俺の心臓!


 落ち着け、まずは14番と23番。その次は、2番と23番だ。


「おっさん! おっさん、無事か!? 初期位置に入れ替え、終わったぞ!」


「ッだぁぁぁ、どうだオラァッッ!!!」


 これでクエストクリアだ。

 畜生め、報酬として臨時ボーナスくらい出るんだろうな。






 俺は一度小屋に戻ったあと、魔導士を連れてモンスターを再訪した。記録を()で残すための装備と、眠り姫を背負って。

 

 第一に領館に臨場感を伝える画像つき報告書を作成するため。

 第二にガキがワイバーン見たさで起きるという一縷(いちる)の望みのため。


「しっかし、これからはヒトに制御魔石を攻撃される対策もいるか、面倒くせえ」


「それにしても、最初の小さいマナは何だったんだろ」


「案外、後ろのコイツだったりしてな」


 新規なガキだから可能性はあるだろう。魔法を使えるならさっさと起き上がって使って欲しいものだが。


 話しながら歩いていくとワイバーンが見えてきた。さっきの魔法攻撃の余波のせいか、結界内の一部分が荒野と化している。


「今は大人しいみたいだな。さくっと撮って帰るか」


「……お、おっさん。ワ、ワイバーンって、あれ?」


 手をガクガクさせながら銀色のワイバーン上位種を指さす魔導士。


「おう。種類はともかく、上位種だろ」


「ワイバーンじゃないよ、あれ。あ、あ、あれは、ドラゴンだよ…!」


「ドラゴ…、ゴホン、ま、まあ、結界で封じこめちまえば同じだな」


「同じだな、じゃないだろ!? 国が亡ぶかもしれないような事に僕を巻き込むなよ!」


 ドラゴンは神話の時代からの生物で、爪の一振りで大地が割けただの、一呼吸のブレスで島が焼き尽くされただのといった伝説が数多くある。


 百年単位で人目から隠れることもザラの、もはや予測外の天災みたいな扱いのモンスターだ。遭遇して攻撃されたら運が悪かったと思え、と言われている。


「もし伝説の通りなら、こんな素人構成の結界じゃあ一発で破られるだろ。尾ひれがついてんだよ、尾ひれが」


「どうかなー。呪の森のマナを使った結界だしなぁ」


 後で領館に提出するため、魔法でドラゴンの画像を魔石に取り込む。いくつか適当に撮影していると、魔術師が(さえぎ)るように前に出てきた。


「ねえ、僕も記念に一枚いい?」


「撮ってどうするんだ」


「ドラゴンと僕、絵にしたら人気が出ると思わないかい?」


「さあな。撮るなら自前の魔石に保存しろよ」


 俺に魔石を渡すと、どこからか取り出した一輪花を手にポーズをとる魔導士。傍目(はため)にはバカバカしい依頼を、完璧な支援の礼として承諾する。


 やたらと細かい注文をつけてきた学園五指の魔導士殿にようやくご満足頂いたあと、俺は(ほこら)の横に寝かせていた童女に声をかける。


「おい起きろよ、ドラゴンとおはようするチャンスだぜ」


「起きないけど、笑ってるね。可愛いなあ! せっかくだから、このお姫様も撮ろうよ」


 魔術師が魔法で装備を操作し、多くの光景を魔石に取り込んでいく。窮地を脱してお祭り気分か。


 ところで、丸くなって寝ているアレが本当にドラゴンだとしたら、後世には貴重な資料になると思われる。


 もしかしたら、未来の古文書に天災を背後に笑いながら眠る童女が載るかもな。遥か後世の学者達よ、存分に頭を悩ませてくれ。











 後日、領館から来た調査隊の案内が終わった所で、俺は(うな)っていた。横の家で眠る子どもには隠したい程の渋顔で、ロマンスグレーの男と話し合う。


「なんで俺にドラゴンの面倒まで押し付けるんだ」


「領館は直近に大きな臨時支出を確保する必要があり、アレを討伐できる者を手配する資金が無い。心苦しいですが、致し方ありません」


「結界があるとはいえ、マナ循環は乱れている。ドラゴン抜きにしても危険な森になるんだぞ」


 マナ循環が乱れると、モンスターの出現頻度が高くなることが分かってきている。マナがオドに変性して、瘴気を発するとかいう話だ。


 あの大トカゲは存在するだけでマナ循環を乱しているので、管理のためには早いとこ何とかして貰いたい。


「着任当初の状態に戻ったと考えましょう。原点回帰、あなたの勤労に期待しています」


「下降の一途を辿る身体で、モンスターの相手か…」


「はっはっは。それを言うのは30年早いですよ」


「どれだけ働かせる気だ!」


 いくら(いきどお)っても、既に領館の決定事項か。


 何やら悲しくなって窓から部屋の中をのぞくと、むにゃむにゃと口を動かす童女が目に映る。

 よかったな、ペットのドラゴンができるらしいぜ。よかったら名前を考えといてくれ。


 俺の視線を追った領館の男は、何かを思い出したように手を打った。


「そういえば、ドラゴンが絶世の美女に変身するという寓話もありましたな」


「けっ、勇者名作劇場か。ここにいるのはお先真っ暗な森の管理者と、いつまでたっても夢見るガキだけだぜ」


 ガキの方は別として、今の俺は、出所も謎に埋もれた伝説に(すが)る精神など()てている。


 俺は深呼吸し、腕を大きく広げて領館の男に語り掛けた。


「俺たちは時代を受け継いでいるんだ。千年以上も前の伝説など、千年間の進歩をもって凌駕(りょうが)できる。俺達で次時代の管理系統を構築しようじゃないか」


「それを聞いて安心しました。勇者一行を呼ばずに済みそうです」


「…今、勇者って言ったのか」


「ええ。最近、覚醒が確認されました。本件はくれぐれもご内密に」


 何が、ご内密に、だ!

 実物がいるならさっさと連れて来い! こっちは危うく死ぬとこだ!


 そして、眠れる勇者説が潰えたとなると、マジであのガキは何者なんだ。


「呪の森は予想外に安定しているようで、我々にとっても嬉しい誤算です。ほぼ諦めていた他拠点の問題が手遅れにならずに済むかもしれません」


「そんなら、勇者にも足があった方が良いだろう。この森に来れば、美女に変身するドラゴンを仲間にできるかもな」


「危機対応においては、根拠のない土着の小話よりも、確実な一歩が選ばれます」


 俺の嫌味を淡々と打ち返すロマンスグレー。


 最近になって領館の財布がやけに硬くなったと思っていたら、勇者が覚醒していたとは。

 恐らくカネは勇者に多く流れるだろうから、どうにかして金策も練りつつ、次世代の管理法を検討したい。


 心配事が増えるばっかりだぜ、くそったれめ。

 せめてガキの一人くらい起き上がって欲しいもんだな。



本文中の管理手法は《分散制御システム》です

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