第1話 このガキはなんだ
ある日、日課の森の見回りをしていると倒れている子どもを発見した。
「何でこんなとこでガキが寝てんだよ」
危険なモンスターも存在するため、こんな幼女が呑気に寝ているのは大いに謎だ。
この森を管理する俺が見捨てるのはどうかと思うし、家に連れ帰って様子を見ることにした。
家に帰り、右肩に積んでいた幼女を降ろす。
「酷い目に遭ったぜ、くそったれモンスター共め」
こういう時に限ってやたらと襲い掛かってくるモンスターから、なんとか逃げきってきた。
舐めやがって、ひと段落したらギルドに依頼を出して根絶やしにしてくれる。
幼女の容体は、俺が診た限りでは単に気を失っているだけのようだ。
今はベッドの上で安らかに寝息を立てている。
「よく見れば…こりゃかなりの美人に育つかもな」
ガキは大体が可愛いものだが、それを考慮してもかなり整った顔立ちだ。艶のある金髪も、下手すると売り物になりそうなほどの質感である。着ている服もそれなりに質の良いものだ。
これは王侯貴族の隠し子の可能性も考えた方が良いかもな。
さしあたり領館と教会に書簡をしたためることにした。対応が決まるまでの間だけ、俺の家で面倒を見れば良いだろう。
寝てる。
なんかすげえ寝てるぞこのガキ。
「.......むにゃ」
「俺が見つけてからもう7日になる。どうしたらいいものかね、先生方」
結局、領館と教会の担当者が目の当たりにしたのは、ぐーすか寝ている幼女と、途方に暮れる俺ばかりだった。
領館からやってきたロマンスグレーが、調査結果を淡々と述べる。
「我々の調査によれば、少なくとも王族貴族の隠し子ではないようです」
「つまり、正体は謎と。まったく、誰なんだよこいつは」
続いて教会から来たマザーのババアが、聖職者特有の純真な笑顔で口を開いた。
「こんなにも清らかな寝顔。かける言葉は荒くとも、とても大切にされているのですね」
「寝てるのに水は飲むし飯は食うってんなら、世話がいるだろ。しかし、これからどうしたらいいのか。医者も寝てるだけで他は正常だって言うしよ」
身体を起こして口元までもっていくと、眠りながらもちゃんと飲食をする。
雛鳥のつもりか? 誰か説明してくれ。
医者にも頼り、かなりのカネを握らせて森の中まで往診に来させたのに、改善までははるかに遠いようだ。
お手上げだ、と両手を上げると、領館の男が書簡を俺に渡してきた。
「あなたも知っての通り、領館はモンスター軍との戦争の件で立て込んでいます。優先順位を考え、この件はひとまず保留ということで」
「いや、保留って。こっちは一人でやってんだから困るぞ。マザー、教会の孤児院でどうにか」
「教会もこの戦乱の時世。人を養うなら寄付がないことには…」
言うなり老眼鏡をかけて算術板をはじき出す。濃い隈をつくった領館のロマンスグレーも感心するほどの、あまりにも手慣れた動きだ。
「こんな所でしょうか…」
「高価え! 払えるかこんなん!」
この因業ババア、どういうつもりだ。
「7日間。其方は無償の奉仕をその子に捧げた。聖なる週と同じ時間...おお、なんと徳の高い!! この子も、そんな其方だからこそ、見つけられたのでしょう!」
くそ、誰かこのマザー辞めさせろよ。
感極まったしわがれ声を出したババアは、一転落ち着いた様子で話を続ける。
「ちょうど、そう...何か決めねば困るとのこと。世話をする方は其方こそふさわしい、そう思いませんか?」
「待て待てまて、この子の人生がかかった大切なことだ。熟考に熟考を重ねて判断しろ。それに、ほらあれだ、もしかしたら生まれてきた勇者かも」
俺に一人で育てろってのか。勘弁してくれ。
極まるババアの横で、領館の男が話をまとめた。
「では、その書簡の記載の通りに保留にしましょう。経過は、呪の森の管理記録と合わせて報告してください」
畜生、こいつら俺が街で便利屋やってた時の感じでグイグイ来やがる。
せっかく領館の雇われになったのに、これじゃ昔と同じだな。




