胸をざわつかせるもの。
「おい!待て!!」
水の精霊に魔力をありったけ吸い取られたホノカが、目の前で糸の切れた人形のようにガクリと倒れた。
手を伸ばして抱き留め、きつく目を閉じた青白い頬に触れた。息をしていない・・・。
「あらん?魔力を吸い過ぎちゃったかしら?☆」
「抜け抜けと・・・。魔力を得た分は働け」
悪びれずに微笑む水の精霊が心底、不愉快だった。消し去ってやりたいところだが、まだホノカの望みを叶えていない。もしも、ホノカが戻らぬ時は・・・精霊だとて、尽きぬ苦しみの末に・・・消し去ってやろう。
ホノカを抱き上げて、城へ向かった。胸の内がザワザワと騒いで煩い。体が砂を詰められた袋の様に、重く言う事をきかない。この感情は何だ?動かなくなったホノカを見ると・・・自身の体を引き裂いてやりたくなる。
「これは何だ・・・?」
だらりと垂れた四肢は、何だ・・・?この中には、ホノカは居ない。足元が崩れ落ちそうな不安定な感情・・・。
「そうか・・・ふっ・・・俺は、怖いのか」
この女を失う事を、何よりも恐れている。突然この世界に落ちてきた、異界の女。この入れ物は、ホノカの本来の体では無いのだろう。魔力が空になって、入れ物から魂が抜け出てしまっている。
私室のベッドにホノカを寝かせると、右手に刻んだ従属の紋に魔力を注いでいく。注ぐ量を間違えれば、この入れ物は壊れてしまうだろう。焦燥感を誤魔化しながら、祈るように魔力を注ぎ続けた・・・。
何時の間に夜が訪れたのか、窓から差し込む銀色の月光が、暗い部屋に眠るホノカの頬を照らした。
魔力が満たされた従属の紋が、ゆらりと赤く揺れた。冷たくなった頬をそっと撫で、名を呼んだ。
「・・・ホノカ」
幾度目かの呼び掛けに、ホノカの瞼が微かに震えた。色の無い頬が薄紅に染まり、まるで生まれて初めて息を吸うかの様に、喉がひゅっと音をたてた。
「っ・・・?!」
ホノカに覆いかぶさる様に、抱き締めた。心音が鳴り始めた・・・ホノカの声が聞こえる・・・煩くて、愛しい声だ。
「・・・リガルド様・・・おはようございます?」
「・・・・っ」
間の抜けた声で、ホノカが俺の名を呼ぶ・・・呑気な奴だ。俺の気も知らないで・・・抱き締める手に、思わず力が入ってしまった。
***************
「え~っとぉ・・・?リガルド様?・・・お~い!聞いてますか?・・・ねぇってば!無視しないで・・・下さいよぉ・・・」
私を抱き締めたまま、無言のリガルド様が・・・何か、落ち着かないよぉ!いつもより密着度が高いしっ・・・ここって、リガルド様のベッドだよね・・・?!!
リガルド様の背中をポンポンと叩くと、むくっとリガルド様が起き上がった。深緋色の目が私を見下ろしている。
「リガルド様・・・?!」
頬をするりと撫でた指が、そのまま下りて首筋に触れた。唇の中に指・・・指が入っ?!
舌先を2本の指で持たれ、ゆっくりと撫でられる!や、やめ・・・?!見開いた目に涙が滲んだけど・・・リガルド様の舌が・・・見せつけるように近づいて、私の涙をチュッと吸い上げたぁ?!!!!
「まっ待って・・・リガルド様っ・・・あうっ!」
両手でリガルド様を押し戻そうと思ったんだけど、ピクリとも動かなかった!そうこうしている間にも、美しい口がぱかりと開いて、犬歯で思いっきり私の首に噛み付いてきた!!
「いったああああああいい!!!」
何これ、デジャヴ?!前にもあった・・・前にも噛みつかれたああああ!!!痛いんだよ?!犬歯尖り過ぎ!!
「やめ・・・あっ?やん・・・っ」
うわあああああ?!へ、変な声出ちゃった!!は・・・恥ずかしいいよおおおお!!!!
噛み付かれたところを、べろりと舐められて・・・また強く噛まれる。その繰り返し・・・痛いのと、気持ち良いのが続いて・・・頭はぼんやりするのに、心臓は早鐘みたいに鳴りっぱなしで・・・私は、意識を保つ事ができなかったんだ・・・。
ホノカが起きた時の、頬から首筋を触ってるのは・・・頸動脈を見ていました。
舌も状態を見て、健康チェックをしてからの・・・がぶがぶは意地悪です。
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