意地悪なのに、安心するひと・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
どれくらい走ったんだろう?身体強化を掛けていても、息が苦しくなってきた。
体験側だと半日くらい走り続けたら、息が上がってくるんだと思う。
背の高い木々に阻まれて、少しの空しか見えない。薄っすらと空が、茜色に染まってきていた。
「もう、夕方?夜になったら・・・絶対まずいよね?」
当たりを見回す・・・見分けがつかない・・・どっちから来たっけ?認識した途端に、ゾッと寒気がした。
不安な気持ちが、つま先から這い上がってくるような感覚に、知らぬうちに自身を強く抱きしめた。
「リガルド様・・・」
思わず、名前を読んでしまう。酷いことするし、意地悪だけど・・・この世界で最初に出会ったひと。
「ひとじゃないか・・・悪魔?美食家の・・・ふふ・・・美しい魔王様」
目尻に浮かんだ涙を、そっと拭う。泣いている場合じゃない。自分で走って来たんだから、自分でリガルド様の元に帰ろう。
道に迷ったら、高いところから見れば良いって・・・ゼル〇の冒険で学んだよね。私は足元に風を起こし、“浮遊”を使って真上に飛び上がった。木の上まで行けば・・・?!
「きゃあ?!」
木々を抜けて空に出ようとしたのに、突然目の前に現れた網のようなものに、絡めとられてしまった。何、これ?!
「蔓・・・?さっきまで無かったよね?!」
辺りを見回せば、四方の木々から蔓は伸びてるみたい。風魔法で蔓を切ろうとしたけど、切れない!火炎も駄目!
「魔法が弾かれてるの?何で?!」
焦って暴れても千切れなくて、逆に網目が狭まったみたい!高い木々の間に吊るされたまま、呆然とする。
映画なら食人族とか、原住民?に出会うのがお約束だけど・・・ここはエルフの郷に続く森。
きっとエルフ族が出てくるに違いない。果たして・・・人族の私が捕まって、無事でいられるんだろうか?
落ち着いて・・・なんて無理!!ぎゃあああ~~~?!
鞄の中に何かないかな?魔法が効かないなら、物理で切るしかないよね?!
確かサバイバルナイフを、欲しい物リストの中に入れてあったはず!眼鏡のお兄さんなら、性能が良いものを選んでくれてるよね?!私、お兄さんを信じてるから!!!
「サバイバルナイフ、出てこい!・・・よし!で、出たぁ!!」
テレテッテッテレ~~~♪効果音を歌いながら、サバイバルナイフを掲げる。
「今なら、何でもできる気がする!私、最強!!」
蔓に刃を当てて、力任せに引いた。やった!切れる!!嬉しくなった私は、あちこちの蔓を切った。
無計画に切ったものだから、絡まりが解けて・・・まあ、蔓の中に居た私は落ちたよね!
「おわっ?!」
たぶん2階くらいの高さから落ちる感じ?!痛いの嫌だ~!!!
「と、止まれええ!!!」
ギュッと目をつむって叫ぶけど、私のアホ!時間停止なんて魔法は使えないよお!!
激突を覚悟して、私は頭を抱えた。ドサッと背中から落ちた・・・のに、痛くない?。あれ、知っている香り・・・?
恐る恐る瞼を開くと、眉間に深く皺を刻んだリガルドが、私を見下ろしていた。
「はえ・・・?あ?!リ、リガルド様?!」
下を見ると、土から浮いている・・・?あ、お姫様抱っこ・・・??!!!
「あ、離し・・・?!」
体中に血が巡って、熱い。リガルド様に離してって言おうと思ったのに、逆にきつく抱き込まれてしまった。
ドキドキと心臓の音が煩い!心拍数上昇中・・・ちょっ・・・私の心臓、壊れちゃうよ?!!
「あ、あの・・・?」
身を捩っても、抱きしめる力は緩まない。リガルド様の背中をトントンと叩いてみる・・・ギブです、ギブ!!
「・・・・ふぅ」
リガルド様が深く、溜息を吐いた。私の首筋にリガルド様の顔があるから、息が掛かってくすぐったい。
「ふふ・・・」
「随分余裕だな?俺を走らせた、罰が必要か?」
「え・・・いっ?!ああ・・・っ!!」
首っ、首が痛い!!何?!・・・もしかして、リガルド様が、私の首に思いっきり噛みついている?!!
「やめ・・・!んん・・・っ」
ぎりぎりと犬歯が深く刺さってくる!血、血が出てないかな?!っ・・・やっと終わっ・・・らない?!
噛むのを止めてくれたと思ったら、今度は肌を強く吸い上げられた。私の生き血を啜っている?!
「・・・うるさい」
最後にべろりと私の肌を舐めて、リガルド様が顔を上げた。何ですか、その呆れた顔は?!
「何その顔・・・何で痛い思いした私が、呆れられてるんですかね?!」
涙が滲む目で、リガルド様を睨む。痛いことしない約束、全然守ってくれないじゃないか!!
「お前が悪い」
「その理屈、意味わかんないんですけど?!リガルド様が勝手すぎるのと、約束守らないのが悪いと思います!」
「魔族とは、そういうものだ」
はあ~??!都合の良い言葉ですこと!!怒りが収まらない私が、口を開きかけた時・・・リガルド様に口を塞がれた。パチパチと瞬きした私の目から、涙が散る。深緋色の目が、今までで一番近い・・・
柔らかくて暖かいものが、私の唇を塞ぐ。なに・・・?離れていくの・・・なに?
「わかっているのか?余り俺を、かき乱すな」
私の髪をぐしゃぐしゃと撫でる手は、乱暴だけど優しかった。
「~~~~~~~っっ」
頭の中は真っ白のなのに、体が熱くて、熱くて、私はリガルド様にしがみ付くしかできなかった。
「・・・・・」
「オレぇたちのそんざい、ワスレラレテル・・・」
「ミルナ。まおうがニランデイル。オレぇまだシニタクない」
森に住む、花の蜜(一番好きなのは魔物化した花の蜜)を食べる黄色い、生き物。
ノンノ・エペレ、それがこの生き物の名前。魔王の従魔になってしまって、ちょっと不安。
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