名前を呼ばれるって、ドキドキする
「おい」
人族の女が俺の呼びかけに答えず、俺が両手に持つ獣ばかりを、熱い目で見つめている。
「おい、聞こえているのか?」
人族の女は「はわああああああ!!」などど奇声を上げるばかりで、俺を見ない。気に食わぬ。
「・・・ホノカ」
「?!」
やっとこっちを見たか。俺に何度も呼ばせるなど、生意気な奴だ。む・・・両手が塞がっていて、こいつの頬を摘まめん。
「リ、リガルド様!い、今・・・私の名前を呼びましたか?」
獣を見ていた時とは、比にならぬ程に顔が赤いな。少し汗をかいているのか?張り付いた髪を払ってやることもできぬ・・・この2匹の獣が邪魔だ。
力の差を弁えている獣は、ぐったりと四肢を垂らしている。2匹纏めて薄い膜で包み、浮かしておくことにした。
「あ、クマちゃん・・・!あわ?!」
空いた手で人族の女を引き寄せた。顔を上げさせ、汗で張り付いた髪を横に流してやる。潤んだ目が泳ぎ、口はあわあわと開閉を繰り返す。実に面白い。
「やはりお前は、俺だけを見ていればいい」
「ひ・・・あ、は・・い・・・」
呼吸が荒くなった女の背を撫でてやる。手のかかる奴だ。目を離すと直ぐに死んでしまいそうだな。
骨は細くて折れそうだし、沢山食べる割に肉付きが足りない。細く白い手首をするりと撫でれば、びくりと体が震えた。俯いて、俺の胸に頭を沈める。
「あ、あのっ・・・名前・・・」
「呼んで欲しいのか?ホノカ」
「!!」
俺の腕の中で震える女・・・ホノカの体が熱い。いやいやをする様に、俺の胸に頭を擦り付けている。
だらりと垂れていたホノカの両手が、遠慮がちに俺の背に回された。他の奴が同じことをすれば、両手を切り落としているところだが、お前は許してやろう。
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クマちゃんズ可愛い・・・ぶらんと垂らされた手足は、もこもこした毛で覆われていて短め。
小さな牙で精一杯、威嚇してくるのが微笑ましい。はぁ~!抱っこしたいいい!!!
体の毛は黄色でふわふわ。目の色はエメラルドグリーンだよ?!異世界ならではの配色が可愛いよね!!
「・・・ホノカ」
「?!」
名前を呼ばれて、吃驚して顔を上げた。え・・・嘘、リガルド様が私の名前を呼んだの?嘘?!
「リ、リガルド様!い、今・・・私の名前を呼びましたか?」
体中を急速に血が巡って、顔に熱が上がる。熱い・・・何か、汗も出てきた。目が泳ぐ・・・熱い。
私が挙動不審になっている間に、クマちゃん達がシャボン玉みたいな膜に覆われて、プカプカと浮かんでいた。
「あ、クマちゃん・・・!あわ?!」
リガルド様に手を引かれ、引き寄せられた。リガルド様の白く美しい指が、汗で張り付いた私の髪をそっと横に流してくれた。ちょ・・・!汗、汗かいてるし、ち、近い!!
顔が熱いっ・・・恥ずかしくて、リガルド様の顔が見れないよ!!うわあああああ??!!
「やはりお前は、俺だけを見ていればいい」
「ひ・・・あ、は・・い・・・」
リガルド様に顎を支えられてるから、顔が動かせないし・・・近過ぎる。お互いの呼吸を感じるほどの近さで、囁かないでください!!!!
私の背中を撫でる手も、私の手首を撫でる手も、触れられた箇所がどっちも熱を帯びている。うう・・・何か、空気を変える話題を・・・あ、そうだ、私の名前!!
「あ、あのっ・・・名前・・・」
「呼んで欲しいのか?ホノカ」
「!!」
うわあ?!駄目だ、何これ・・・名前・・・リガルド様に名前を呼ばれたことが、嬉しすぎるのは何で??!!
いやいや、何で何で何で~!!!
私は心臓がバクバクいって、気が動転して、リガルド様の胸に頭をグリグリと押し付けた。
うわ~ん!目が回って、思わずリガルド様の背中にしがみ付いちゃった。クマちゃん、どうしよう~?!
「ぶうっぶはははは!!魔王の胸で、頭ぐりぐりしてるよお?!何なのあの子!」
管理している世界の一つを覗いた神が、腹を抱えて笑い転げている。
「なかなか図太い神経を持っているようですね。混乱状態の様ですが・・・」
「あはっ黄色い生き物が、呆れてるね。放置されてて可哀そ~」
細くしなやかな指が、目尻から涙を拭う。
「あ~早く、鞄の中のアレに気づいてくれないかな~」
「暫くは気が付かないでしょうね(もしかしたら、一生気が付かないかもですが)」
「え~???www」
神と眼鏡の補佐官にも、時々会いたくなります。
ブックマーク、評価ありがとうございます!嬉しいです^^