三話
やっと物語が進む
放課後になった。
俺はイヤホンを届けるためにE組に向かう。
違う校舎はなかなか行く機会がない。俺が友達が余りいないこともあるけど…
E組は校舎の一番奥の方に位置している。
進んでいくと何やら笑い声が聞こえてきた。
「貞子ぉ!貞子は貞子らしく井戸にでも入ってなよー」
「貞子って音楽聴くの?きもっ!」
バシャっと水がかけられる音がする。
俺は気づいたらE組の教室に走っていた。
ドアをすごい勢いで開けると、教室の中にいた人達がこちらをパッとこちらを見てきた。
教室内は、机が端っこに寄せられ、バケツが転がっている。その人だかりの向こうに髪が長く、びしょびしょになっている女子生徒が座り込んでいる。
これは酷い…
ここまでとは思わなかった。
注目が集まっているのにも関わらず、俺は何故か冷静でいることが出来た。
「あ?なんだお前?」
「貞子ちゃんのおともだちですかー?」
取り囲んでいたやつがぞろぞろとこちらに歩いてくる。結構いるな…
一人の女子生徒が前に出てきた。
彼女がこの取り巻きのリーダーみたいなものだろう。
見た目はいい方なのだが、ばっちり化粧をしていて、スカート丈がかなり短くなっている。
わかんないけど、今どき女子って感じなのかな?
その後ろからまた1人チャラい男が出てきてその女子生徒のちょい後ろに立ち並んだ。
チャラい男は身長が高く、髪を金に染めている。顔もまあまあよく、芸能人まではいかないが整っている。
「あんただれ?」
「2年A組の神谷 白鴉といいます」
女の方が俺をにらみつけながら名前を聞いてきたので、適当に返す。
「なんですかー?貞子ちゃんのおともだちかなー?」
チャラい男が俺を舐めまわすようにみて言う。
俺は少し考えてから口を開く。
「そうですね。まだ朝に初めて会っただけの関係ですが、友達にならぜひに」
そう言うと俺を囲んでいる奴らが笑い出す。
「あはは!こいつ目おかしいんじゃね!?」
「おもしろー!!」
「貞子を守る騎士かなんかですかー?」
俺はそいつらを無視して、囲んでいるヤツらを押し抜け、地面に座り込んでいるびしょ濡れの女子生徒の所に行った。
「大丈夫か?」
「ご…ごめんなさい」
俺はしゃがんで彼女の身を案じる。
その瞬間腰に鈍い衝撃を感じた。
「…んぐっ…」
「何シカトしてんの?」
あのリーダー格の女が脇腹を蹴ったのだろう。
初めて人に蹴られた…ほんとに息が出来なくなるもんなんだな…
「まぁ、面倒臭いしいいや。私このあと用事あるんだよね」
そう言うとさっさと取り巻きを連れて帰って行った。取り巻きは帰り際に悪口など吐いてきたが。
「……だ、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫」
…びっくりした。
あちらから声がかけられるとは思っていなかった。
「あっ、僕は神谷 白鴉っていいます」
俺の名前はしらないと思ったので自己紹介した。
登場の仕方変だったし、女子に蹴られて苦しむとかカッコ悪かったけどな。
「わ…私は黒咲…詩織…です」
うわ、すごいキョドってる。
「白鴉って名前、キラキラしてておかしいだろ?白いカラスではくあって言うんだけど」
俺は無難に自分の名前のネタを使って話をつなぐ。
「えっ!白い鴉!?WhiteCROWみたいでカッコイイですね!」
「そ、そうか」
手をブンブン振って興奮している。
な、何だこのテンションの変わりようは。
物静かな人だと思ってたからびっくりした。
「す、すいません!私…WhiteCROWが大好きで…」
彼女は自分を失っていたことに気づくと恥ずかしそうに俯いてしまった。
な、なんかこう、ほんとに自分にファンがいるんだなと思うと嬉しい。
「俺もWhiteCROW好きだよ」
俺はWhiteCROWが自分なんだけどと可笑しく思いながらも無難にフォローする。
「ほ、ほんとですか!?私は『証明』という曲が好きなんですけど何が好きですか!?」
…ちょっと顔が近い。WhiteCROWの話になるとなんかこの子テンションおかしいな。
「お、俺は『疎まれ者』かなぁ」
結構マイナーだけど、あれは俺が作った中で1番気に入っている曲だ。疎まらながらも生きるために悪行ことすら厭わない、生に縋りつく感じがよく表現出来た曲だった。
「あの曲ですね!私はあの2番のフレーズのですね…………」
やばい、なんかスイッチ入ってしまったようだ。とりあえず距離感は縮まったので良かったとしよう。
「黒咲さん、着替えとかしないと風邪引いちゃうよ」
「あっ…そ、そうですよね…」
黒咲さんは、ハッとするとまた少し恥ずかしそうにして、立ちあがる。
俺もそれに続いて立ち上がる。
「俺は廊下出てるから、体操着に着替えて」
「わ、わかりました」
俺は教室から出て廊下の壁にもたれかかって、黒咲さんを待った。
とりあえず、黒咲さんのイジメについて考えてみる。なんでそこまで虐められているのか。まずあいつらが言ってたのは貞子見たいということだな。「あ、あの…」まぁその感は否めないが、それだけではここまで虐められるとは思えない。
黒咲さんに直接聞いてみるしかないか…
俺は思考をやめふと横を向くと体操着に着替えた黒咲さんが立っていた。
「うわっ!…びっくりした」
「ご、ごめんなさい。呼んだんですけど返事がなかったので…」
「あ、ああ。ごめん、考え事してた。じゃ帰ろうか」
俺は黒咲さんと一緒に帰ろうと歩き出す。
だが、黒咲さんは下を俯いてその場を動こうとしない。
「どうしたんだ?」
「…どうして私に構うんですか…?」
黒咲さんは訝しげに聞いてきた。
それはそうだ。初対面なのにこんなにするなんて怪しすぎる。
俺は少し考えた。どう伝えようか。
最初は自分のファンだし、虐められているなら助けてあげようかな、くらいにしか思っていなかった。
だけど…あの光景を見て、あんなにWhiteCROWが好きだと言ってくれて気が変わった。
どうしても助けてあげたいと
何でだろうな…いつもの俺は周りに流されるだけの人間なのにな。たぶん…
「多分…ネットじゃなくてリアルで初めて好きだって聞いたからかな…」
「え…?どういう意味ですか?」
「あ、いや……えっとー、あ、あれ!今朝イヤホン落とさなかったか?」
俺は思ってたことがそのまま出てしまい即座に騙すように話題を変える。
「あっ!そう言えば朝からありませんでした」
「これ、朝ぶつかった時に落としたんだろうね」
俺は自分のカバンからイヤホンを取り出す。
「あ!これ私のです!ありがとうございます!」
「いえいえ、どういたしまして」
俺は黒咲さんにイヤホンを手渡す。
よし、上手く話をそらせた。
「音楽聴けなくて困ってたので本当にありがとうございます」
「いいや、俺が止まったせいでぶつかって落ちたからね。悪いのは俺だよ」
「今朝…ぶつかった?」
…やっぱり覚えていなかったか。
態度から薄々気づいていたけどね。
「今朝、前の人が止まって、そのせいで顔ぶつけただろ?」
「あっ!そう言えば…今朝顔ぶつけて痛かった覚えが…」
「あの人が俺だったんだ。本当にあの時はごめん」
俺は今度はしっかりと頭を下げて謝る。
「いえっ!大丈夫でしたから!」
黒咲さんは手を振りながら言った。
「ありがとう。それじゃあ帰ろうか」
「は、はい!わかりました!」
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