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緑葉の少女たち  作者: 藤田大腸
緑葉女学館生徒会
8/12

登校風景

「いってきまーす!」


 自転車に乗り込んでいざ、高校生活二日目。正確には中等教育学校二日目だけど。


 県道三十一号線を横断し岩彦橋を越えて土手を下ったところで狭い市道にぶつかる。そこでは深緑色のボレロとジャンパースカートに身を包んだ集団、緑葉女学館の生徒たちが登校している様子が見えた。

この市道を東の方に進むとJR西部線岩彦駅があり、さらにもう少し先には生徒寮がある。生徒は自宅からの電車通学か寮からの徒歩通学で、私みたいに自転車通学なのはごく少数だ。そのせいか私の方をちらりと横目で見てくる生徒が多かった。


 クラスメートの赫多かえでさんに出くわしたので、私は自転車を降りて「おはよう!」と声をかけた。


「あ、菅原さん。おはよう!」

「おはようございます」


 赫多さんの隣にもう一人生徒がいた。だいぶ小柄で赫多さんの肩より下のところに頭がある、ツインテールの髪型をした童顔の少女で、どこか眠たそうな眼をしている。入学仕立ての前期課程の子だろうか。ともかく私は彼女にも挨拶を返した。


「かえでちゃん、この人が噂の編入生?」

「そうだよ」


 お互いタメ口だけど、まさか同級生だろうか。


「私は古徳聖良ことくせいらといいます。前期課程三年生で部活は柔道をやっています」


 予想は外れて、何と一つ下の後輩だった。確かによく見ると、ボレロのにY字状に三枚の葉を象ったピンバッジ、三年生を表す学年章が。しかも柔道部? 私にはどうしてもか弱い小学生にしか見えない。


「あ、今『ウソぉ?』って顔しましたね」


 ぎくっ。


「い、いいえ」

「証拠をお見せしましょう。ちょっとこれを持ってみてください」


 古徳さんはそう言って背負っていたリュックサックを下ろした。自由な校風をうたう緑葉では通学カバンは特に指定がなく、派手なものでなければ何も言われないのでリュックサックでもOKである。


 私はてっきり柔道の形でもやるのかなと思い、リュックサックに手をかけた途端。


「はうっ!!??」


 ズシーンと謎の重量感が手にのっかり、耐えきれなくなった私はそのままリュックサックを落としてしまった。ドスンという鈍い音がした。


「ご、ごめん……でも何が入ってるの一体……」

「これです」


 古徳さんがリュックサックから取り出したのは何と鉄の板だった。重さは何キロあるのか想像がつかないが、私の力では持ちきれないのは確かだ。しかし古徳さんはまな板でも持つかのように軽く取り扱って、またリュックサックに戻してひょいと背負い直した。


「毎朝こいつで鍛えているのです。おかげで大柄な大人の男性でも投げ飛ばすことができるようになりましたよ。何なら試してみます?」


古徳さんは口の端を上げて、指をポキポキと鳴らした。


「いえ! よくわかりました!」


 つい敬語で答えてしまった私を赫多さんが笑った。


「ビビりすぎでしょ!」

「手が抜け落ちそうになったもん、そりゃビビるよ……」


 道すがら話を聞くと、赫多さんと古徳さんは幼なじみで八坂やさか市という県北部にある街の出身とのことだった。

赫多さんが小学校六年生で古徳さんが五年生の頃、古徳さんは岩彦駅から下り路線で一つ隣にある千尋せんじん駅の近辺に引っ越しをしたが、赫多さんが緑葉女学館に入学した際に再会を果たしたという。古徳家のご厚意により下宿させて貰えることになったためである。古徳さん自身も後を追うようにして緑葉に入学し、かくしてまた同じ校門をくぐることになったのだった。

 地縁社会が崩壊しつつある現代日本でも、まだ人と人との縁の繋がりを感じられる逸話が残っているものだと感心した。


「じゃあねー、かえでちゃんに菅原さん」


 古徳さんは私達に手を振って北校舎に向かっていった。さあ二日目、気合い入れて頑張るぞと力んでいたら首筋に何やら触感が。


「おはよう、千秋さん」


 高倉先輩だった。後ろから忍び寄って、首筋に手を回していた。


「あ、おはようございます……」


 高倉先輩はニコニコしながら赫多さんにも軽く挨拶すると、


「ちょ、ちょっとちょっと……」


 気がついたら私は赫多さんから引き剥がされ、南校舎エントランス近くに植えられている大きなクスノキの方に引っ張られていった。呆然とする赫多さんに私は「ごめん、先に行って」と言うしかなかった。

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