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緑葉の少女たち  作者: 藤田大腸
緑葉女学館生徒会
4/12

オリエンテーション

 時は再び四月十日。入学式が終わると、生徒会執行部役員による新入生オリエンテーションが行われた。


 壇上では生徒会長の今津陽子いまづようこという先輩が新入生向けにスピーチを行っている。赤いフレームのメガネをかけていて、理知的そうでいかにも生徒会長という肩書きが似合っていそうだった。ところが口を開けば機関銃のように冗談が飛び出して、新入生たちの笑いを取っていった。


「この学校は何と言っても自由な校風がウリです。校則はユルユルだし、頭髪検査も無ければ持ち物検査も無く、風紀委員なんて厄介な組織もございません。人に迷惑をかけなければ何をやろうとも許される学校です。だからここには変な奴しかいません。だから現に今、私のような変な奴が生徒会長となってここで一方的にしゃべくっている。ね、ある意味最悪な学校でしょ」


 まだあどけなさの残る笑い声が体育館を包む。


「あ、みなさん今笑ってますけど、私は断言しますよ。あと一ヶ月もすれば五割は普通の女の子じゃいられなくなると。期末テスト前には八割が、二学期が始まる頃にはみーんなおかしくなりますから。私は一週間でおかしくなりましたけどね!」


 おごそかなセレモニーと打って変わって緊張感が緩んだためか、私もついつい、笑い声が出てしまう。


「でも新入生の方々はこれから六年間、まあ中には三年間という方もいますが、とにかく、どの学校よりも濃密な月日を過ごせることは間違いありません。それはこの今津陽子が保障します。学校生活は勉強だけではありません。行事も遊びも頑張ってこそ、楽しい学校生活が送れるのです。みなさんが卒業した時には『ああ、緑葉は楽しかったなあ』と言ってくれることを祈って、私からの挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました」


 拍手喝采。

 原稿やアンチョコの類を一切使わず、一言もつまらずにスピーチをやってのけた。そうとうしゃべりが上手くないと出来ない芸当だなあ、と思う。


 その次は副会長の高倉美和先輩による学校の説明だった。パワーポイントを使って学校の歴史だとか社会で活躍しているOGの紹介だとかいろいろ話してくれた。


 高い社会的地位を持つOGのスライドが次々と映されていく。誰でも知っている芸能人が出ると「おお」というどよめきが起きた。しかし著名OGにはどちらかといえば学者と政治家が多く、「末は博士か大臣か」の格言を体現しているかのようである。


「……校祖、藤瀬みや先生は『知識と教養による女性の地位向上』を目指して緑葉女学館を創られました。女子に教育など必要ない、という考えが根強かった戦前では先生の考えは嘲笑の的となりましたが、戦後は女子教育の先駆けとして評価が高まり、名門校の地位を手に入れたのです。

 女性の社会進出が著しい昨今、緑葉女学館の存在感はますます高まりを見せています。みなさんは入学したばかりでこれから先どの進路に進むのかまだわからないでしょうし、私もまだハッキリとはしていませんが、社会に通用する女性となって藤瀬みや先生の想いを果たすべく一緒に努力していきましょう。以上です、ありがとうございました」


 またもや拍手喝采。とりあえず三年後は大学進学で確定しているとはいえ、その先に社会に出た時の進路も今から考えとかなきゃいけないんだな。大変だ。


 ステージから降りる際、先輩の目と私の目が合った。ニコっと微笑んできたので私は縮こまりながら会釈を返したのだった。


 現時点では、この人が私と一番関わり合いを持っている人物である。世間が春休みの間、私は内部生との授業進度の差を埋めるべく特別補習をがっつりと受けさせられた。

普通の新入生なら高校の新生活に対する期待と不安で胸がいっぱいだっただろうけど、私は目の前の課題をこなすのに精一杯でそんなことを思う余裕などなかった。


 そんな中、高倉先輩はいつも世話を焼いてくれていた。昼休みになると私一人だけの教室でぼっち飯は辛かろうと、一緒にご飯を食べてくれた。

 補習が終わった後でも先輩が暮らしている生徒寮の自習室に招かれて復習と予習を繰り返した。親切丁寧にわかるまで教えてくれて非常にありがたかった。

 そこまでは良かったのだけれど、一つだけ困ったことがある。この人はやたらと頭を撫でてきたり肩を揉んできたりするのだ。もちろん、例のちょっと怖そうな笑みを浮かべながら。

 それでも悪い人ではなさそうだし、私だって昔はよく友達にベタベタ触られたからそれ自体には慣れてはいる。ただし先輩相手からのスキンシップは初めてで戸惑いもあったし、何よりあの笑みにはどうも慣れないのだ。どういうわけかわからないが。


 オリエンテーションが終わって部活動紹介も終わり、その後新入生は各々の教室に行くが私はこの後も体育館に残された。在校生の始業式があったためである。座りっぱなしというのもなかなか辛いので、一度で済ませて欲しかつたなあと心の中で少し愚痴るのだった。

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