選択肢を選んで海の底
ぼんやりとした白い空間。
いや、白色と黒色、クリーム色がごちゃ混ぜになった様な
はっきりとしない空間に立っていた
だけど、また夢の中だと僕はわかった。
ホワホワとした心地良い気持ちで状況を飲み込んでいると
少し先に愛猫が背を向けて座って居た。
世界で1番愛した愛猫に会えたんだ
幸せな時間になるはずだった、、、が!
どうも、機嫌が悪いようで
尻尾をブンブン大きく振って不機嫌アピールをしていた。
あれ?
何かしただろうか?
ご飯だろうか
トイレ掃除をして無かったか?
心当たりが多過ぎてわからない
何とかして不機嫌の原因を見つけなければ。
愛猫は不機嫌になると
絶対に触らせてくれず
届きそうで届かない場所に
今の状況の様に背を向けて座って
愛猫の要望を叶えるまで決して動かない。
僕が移動しても愛猫は視界に入る場所に鎮座する。
つまり、愛猫が座っていると言うことは
僕はあの場所に行けないし
不機嫌の原因を見つけるまで
この状況は変わらない。ってことだ。
だが、本当にわからない、、、。
そう困り果てていると
「はぁ…」
年老いた女性のため息が聞こえた気がした。
あのため息は愛猫がしたのか。
と、気になったがタイムオーバーの様だ。
光の粒が舞い始めた。
夢から覚めてしまう、、、。
感覚的に理解してしまうと
自分自身が消えていくのか
この空間が消えていってるのかわからないが
光の粒となって消えていくのがわかった。
去り際の愛猫の顔と耳は
なんだか少し拗ねている様な気がした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
、、、。
目が覚めると見慣れた天井だった。
愛猫はもう居ないのにトイレ掃除の心配をしてしまった。
苦笑を浮かべてため息を1つ
寝落ちるとわかっていながら
守れない約束をして
寝室へと運んでくれるとわかっているから
欲望に忠実となって寝た。
我ながら
とんだクソ野郎である。
寝起きの気だるさと罪悪感が共に襲う
ため息をもう1つ
今日、カララに会ったら謝っておこう。
よし!
起きる理由が出来たので
腹筋に力を入れて上半身を起こし
ベッドから一時の離別をした。
おぉ、愛しのベッドよ
必ず会いに行きます!カララに乗って!
なんて、バカな事を考えながら寝室を出たが
ドアノブを片手に珍しい光景が目に入り止まった。
なぜなら
今日も誰も居ないかと思いきや
珍しい事にカララが黒光りする玉座を布で拭いていたからだ。
いや、もしかしたら
いつも拭いてくれているのかもしれない。
学生あるあるのあれだ。
いつも宿題してるのに
たまたま早く帰って来た父親から
「お!今日は珍しく宿題してるんだなッ!(笑)」
なんて言われて嫌な思いをするパターンになってしまう所だった。
危ない危ない、、、。
それで反感を買って
カララにデモを起こされでもしたら、、
僕が寝落ちた時に
草原に放置されたり
お姫様抱っこで海に入って行くかもしれない。
これが本当の『寝耳に塩水』ってか!はっはっは!
、、、洒落にならない。
安心してベッドへ運んで貰えるように
ここは朝の挨拶と感謝を言うのが無難な選択だろう。
ベッドまで歩かなくていい生活に慣れてしまった以上当然の気遣い。ってヤツだ。
ここの選択肢は間違えてはいけない!!
僕はドアノブを握ったまま自然な感じで声をかけた
「おはよう。僕の椅子を拭いてくれてるのかい?いつもありがとね、カララ」
何気ない感じの感謝の言葉
これなら、実は今日から拭いてました!パターンでも
大丈夫だろう。
抜かり無し。
これで自堕落な生活に、、
カララはビクッとして振り向き
少しモジモジとしていた。
だが、少しの間を置いて
何の覚悟を決めたのか
わからないが
キリッとした顔をして、、、
「おはようございます!マスター!先程、綺麗な布を見つけましたので清掃をしようと思いまして……どうしました?マスター?」
「…。」
カララの方から聞こえてきた幻聴は
とてもキレイな女性の声で
僕の生涯を通しても聞いたことは無く
ずっと聞いていたいほどだった。
まさか、、、。
諦めていたハーレム願望が!
精神が肉体を凌駕し幻聴を聞いたと言うのか、、、
しかし、そう考えれば辻褄が合う
、、、、、、はぁ。
どんだけ話し相手に飢えてるんだよ
現実をちゃんと見ろよ、僕。
そんな訳無いだろ?
それに、マスター、、、か。
マスターは無いわ
失敗続きで好感度上がる要素がない、、、。
もう1度ベッドに入って夢から覚めよう。
さよなら、マト○ックス
ただいま、ファンタジー
そうだ
起きたらカララ達と遊ぼうかな。
付け焼き刃で武術っぽいのを教えていたけど
思い出を保存出来る魔道具を見て気づいたんだよ。
のんびり出来てない。って事に
だから、いっぱい遊んでたくさん思い出を作ろう!
うん、そうだ
2人に楽しいってどういう事かを教えよう
そうすれば好感度は上がるはず!
そうと決まれば即断即決!
僕は身体を引っ込めてドアをそっと閉じた。
「ど、どうしました!マスター?丁寧に拭いていたと思っていたのですが…もしかして、拭き方が悪かったですか!?マスター!マスター!」
ドアの向こう側から声が聞こえてくるが
ベッドに潜り込み目を閉じる。
ドアを叩く音がするも気にしない。
僕は帰るんだ、、、2人が待つあの場所へ!
っと、決意を抱いた僕だが
半泣き声のカララに揺すり起こされ
お互正気に戻るまでに時間がかかるのであった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
しばらくして
カララは僕が寝たあとの事を大雑把に話してくれた。
「じゃぁ、僕のために言葉を覚えてくれたって事なの?」
僕は現実逃避をやめてベッドに腰掛け
目の前に立っているカララに問いかけた
「はい!その通りです、マスター!『会話の内容が知りたい』と言っていたので自分で考えて、頑張って人間の言葉を理解できるようにしました!」
カララは褒めて!褒めて!オーラを滲ませながら答えた。
どうやら、思い出を見る魔道具を観賞していた時に
僕が溢した独り言を聞いたカララは
一晩中、独学で勉強して言葉を覚えたらしい。
確かにカララ達が喋れたらなぁー。と思っていたが
スケルトンのどこに発声器官があるんだろ?
ってか、え?カララって女性だったの?
そう考えるとめちゃくちゃ緊張する。
今まで、ほとんど女性と接点なんて無かったし
良い思い出も皆無。
これからも、女性と無縁に生きていくのだと思っていたが
ここでモテ期が来るとは思わなかった。
まぁ、スケルトンだが
しかし!
これからは、カララが喋るんだ!
映画やアニメを話せるし
簡単なゲームの説明も出来る。
そして、何よりも
僕のために言葉を覚えてくれたって事が
とても嬉しい。
「一晩で言葉を…すごいな。でも、言葉を覚えるって事はとても大変だったでしょ?良く頑張ったね、僕のために頑張ってくれてありがとう、カララ」
「いえ、マスターためでしたらこの程度の事など当然です!」
きっと、骨の尻尾があれば扇風機の様に振っていただろう。
想像して笑みが我慢する事は出来なかった。
そんな僕を見てカララは
キョトンとした顔で見てきたが構わない
「んじゃ早速、会話の内容を教えて貰おうかな。カララがオススメする映像をお願いするよ」
僕の無茶振りに
「お任せください!マスターの満足いく一品をご用意してみせます」
と意気込み元教会の出口までエスコートしてくれた。
偉くなった気分だ。
貴族とかはいつも
こんな気分なのだろうか
いや、僕が単純なのだろう
誰かを従えたり
エスコートされたり人生初だ
あまり頼りないダンジョンマスターだが
下に見られたくないし
見下す様にもなりたくない
何事も"ほどほど"でちょうど良いのだ。
まぁ、その塩梅が難しいんだけどね。
僕の小さな心構えを知ってなのか
知らず知らずなのか
カララはよく話しかけてくれた。
「マスターの格闘技はどこで勉強したのですか?」
とか
「マスターの得意な技は何ですか?」
とか
「私はもっと強くなりたいのです!マスター、更なる修行をお願いします!」
などなど
主に戦闘に関する話題ばかり。
白骨さんの部屋までの道のりで僕は気付いた。
カララの育成に失敗したんじゃないか、と。
原因は楽しい思い出を作らなかった事。
つまり、僕のミスだ。
きっとそうに違いない
何とかしなければ、、、
「いいや、カララ。この世界には修行や訓練よりも楽しい事がたくさんあるんだよ。確かに、強くなるために努力する事は大切だけど、そのために視野を狭めてはいけないよ。」
「視野を狭める……ですか?マスター?」
カララはピンとこない様だ。
んー、、、。
なんて言えば良いんだろうか、、、。
いきなり、遊びを大切にしろ!
なんて言っても
一応、従ってくれるかもしれないが
それじゃダメだ。
話し合い、納得して初めて成長するのだ
この選択肢は間違えてはならない。
「えー…とねカララ、僕の世界にはね、確かに色々な格闘技がある。けどね、どれも始めは無かったんだよ。」
「??…申し訳ありません、私には良くわからないです。マスター…」
「あー…いや。僕の言い方が悪かった。カララに伝えたい事は……どの格闘技も誰かが試行錯誤して作った技なんだよ。だからカララには、僕が教えた事をただ繰り返して欲しくないんだ。カララは才能がある。だから、色々な可能性を掴んで…自分の技を作って欲しいんだよ。」
僕には無かった才能や可能性を掴んで欲しい。
と心の中で自虐して
不器用にカララに伝えた。
もっと上手く伝えられる人は居るだろう
僕はすぐに間違えるし
伝える事も苦手だ。
よく言葉が足り無くて人を怒らせてきた
カララは言葉を丁寧に咀嚼するかの様に考え
神妙な顔をして僕の方をを向いた
「………まだ、少しわかりませんが。わかった気がします!マスター!」
結構、頑張って伝えたのに
まだ、少しわからないのか、、、。
と苦笑いを浮かべ
だけど、"わかった気がする"と
輝く笑顔でカララは言ってくれた。
どれほど理解してくれたかわからないけれど
僕は嬉しい苦笑いを浮かべながら
白骨さんの部屋を目指して歩いた。
ー後書きー
更新がかなり遅れた事をお詫びします。
これからのストーリーや
メインキャラクター、敵などを考えて半年。
未だにスラコの設定が決まっていないので
更新が遅れるかもしれませんが
自分が納得する物を書きたいと思っていますので
読者様にはご迷惑をおかけします。
あとは、スラコだけなんです…。くっ
本当はスラコも登場させようと思いましたが
途中で区切りました。くっ…