もう1人の友達
僕は今1人だ。
何故かって?
それはね?虐められてるから。
いつからだろう…。
そんな標的になったのは。
僕は何もしてないっていうのに。何で?
聞く相手もいない。
何せ1人だから。
仲の良かった奴らも皆蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
相手は年上の子だ。ぶが悪い。
だけどさ〜、僕は気にしてなんかいなかった。
だって、夜、鏡の前に友達が来るから。
そう、僕自身だ。
一人遊びをしている。
その鏡には僕しか映らないはずだった。
ある日を境に変わってしまうのだが…。
それはいつものように1人ぶつぶつと言っていたら、声が聞こえたんだ。
僕の声じゃないよ。
だってか細い小さな声だったから…。
女の子かも。
振り向いたけど誰もいない。そりゃそうだ。ここは僕の部屋だからね。
机の上に置かれている鏡を何気なく覗いたら鏡には女の子がすうっと入ってきていた。
驚いた僕は再度後ろを振り返るも誰もいない…。
夢でも見たのかと鏡を覗き込んだ時さっきの女の子はまだそこにいた。
青白い顔をして。
「わっ、うわっ!?」
椅子から転げ落ちた。
女の子は何か喋っているようだ。
でも何を言っているのかわからない。聞こえないのだ。
「な、何言ってるの?僕には聞こえないよ。」
「そ〜お?」
その声は耳元で聞こえてきた。
突然の事でびっくりした僕は声が聞こえた方向に首を向けるのが怖くなった。
もしかして…もしかすると幽霊?
胸の鼓動はうるさいくらいになっている。
それほど驚いたという事だ。
ゆっくり、ゆっくりと首を動かしていく。
視界には何も映らない。
じゃあ、鏡はどう?
心の声がささやいた気がした。
ゆっくりと近づく。
やはりいた。
女の子だ。
恐怖で頭がいっぱいだった僕は麻痺してしまっていたのかもしれない。
女の子に話しかけていた。
「なんで君ここにいるの?君幽霊?」
「そう、私は死んでる。だからここに来たの。あなたから負の感情が流れ込んで来たから。」
「負の感情?何?それ。」
「誰かを憎んだりするとね、負の感情が湧いてくるの。それよ。」
「僕は…誰も憎んじゃいないよ。悲しいだけ。」
「いいえ、違うわ。あなたは認めたくないだけなのよ。だから私がここに来た。恨みなさい。憎みなさい。願いを叶えてあげるわ。」
「そ、そんな…、願いって…。」
「ほんとは願いたいんじゃないの?君をいじめるやつらにどうしたいのかってことを。」
僕は黙ってしまった。
願いか…、もし、もし本当なら願ってもいいのだろうか?僕をいじめてきた子たちに対して。
「本当に?」
「ええ。」そう言いながら少女は笑っていた。まるで答えを知っているかのように。
「僕の願いはいじめてきた子たちがいなくなってくれる事なんだ。でもそんなの無理だよね?出来ないよね。」そう言ったら少女は笑いながらできると答えた。そしてかき消すようにその場から消えた。まるでさっきまで会話していたのが夢かのようだった。
僕はその夜なかなか寝付けなかった。
今日は終わったけど、明日は月曜。始まりの日だ。
またいじめられるのかと思うと行きたくないと思っている自分がいた。
目覚めた時も憂鬱だった。
学校に行きたくない。
でも、お母さんに心配かけたくないという思いだけで重い足取りのまま学校へ行った。
クラス内が騒がしかった。
いつものことかと思ったが、そうではないようだ。
何か変に感じる。
「マジあいつが?何で?」
「だよな〜。恨み買う事なんか…。」そこで口をつぐんだ。僕が教室に来たからだ。
ボソボソと声が聞こえるが、何を話してるかまでは聞き取れない。
その時ガラガラと音がして教室の前のドアが開き先生が深刻そうな顔をして皆にこう伝えた。
「クラスメイトの遠山だがな、昨日の夜亡くなったそうだ。家から電話が入った。理由は…わからないそうだ。」
「ねぇ、先生、それって…自殺?とか?」
「なんでそう思う?」
「だってそれ以外ありえないじゃんかよ。」「そうだそうだ!」
「でも待ってよ。理由は?」
「それは…。」
皆黙ってしまった。
まさか僕が関係してるわけじゃないよね?そう考えたら顔が真っ青になっているのも気づいてなかったようだ。先生に言われて初めて知ったくらいだから。
「他にも気分悪いやついないか?いたら一緒に保健室行くぞ。この時間は実習だ。先生が戻って来るまで他のクラスにも言うなよ。」
僕と数人のクラスメイトを引き連れて先生は保健室に連れてってくれた。そこには保健の先生と見慣れない女性が立っていた。
そこで簡単に自己紹介をしてカウンセリングを受けることになった。
順番に保健室で質問を受け、今日は帰るように言われた子もいた。僕は最後だったので、ゆっくりと聞かれた。
どうしてかって?
そりゃそうだ。僕が彼らに虐められていたのを知ったからだ。でもその時間に自宅にいたことは調べればすぐにわかることだから包み隠さず話した。例の幽霊の件は話してない。
僕自身まだ半信半疑だったから。
「辛くなったらいつでも来なさい。」
先生にそう言われた。
でも多分行かないと思う。
それでもっと酷いいじめにあうかもと思ったから。
その日の夜、僕はまた鏡の中をのぞいた。
今日は女の子の姿は映らなかった。
ホッとしている自分がいた。
「あれは気のせいだったんだよね〜。うん、そうだ!そうに違いない。」
その日の夜僕は夢でうなされていた。
クラスメイトの遠山が亡くなった時の様子をまるで鏡から覗くように立って見ていた。
そこには女の子の姿があった。
だが遠山には見えていないようだった。
怯える遠山。
笑う女の子。
遠山は振り払うように腕を振るも女の子は消えない。
何か武器になるものはないかと手にしたのはロープだった。
あちこち振り回すも当たることはなかった。それはそうだ死んでるんだからね。
それを知った時の遠山の顔は恐怖で歪んでいた。
「く、来るな!お、俺は信じないぞ!幽霊なんてものいるはずがない。目、目の錯覚だ!」
一言も発することなく女の子の霊は遠山の近くまで近寄ってく…。
そして耳元で何かを囁いたようだ。遠山の顔が真っ青になり、ベルトをドアノブに引っ掛けて首に巻きつけた。そして…自分で自分の首をしめたのだった。
女の子は嬉しそうにクスクス笑っていた。
僕はその様子を見てて怖くなってその場から逃げようとしたのだが、何かに遮られるように前に進む事もできず、ただぶつかることしかできなかった。
翌日になって僕は怖かったけど、クラスメイトの事が気になり慌てて学校へ向かった。
また誰か人が死んでるかもしれないと考えただけで怖かった。おかしいよね?今まで散々ひどい目にあわされてきたってのに、今更なんでって…。
今日もクラスが騒がしい。
生徒の数も少なかった。
そこにまた先生が慌てて入ってきた。
「今日も実習とする。さっ、さっさと帰るんだ。寄り道なんかするなよ?」
「え〜?何でですか?」クラスの1人が先生に聞いた。そりゃそうだ。学校に出てきたのに自宅に戻れって…。
そこで先生は何とも言えない顔でこう言った。
「昨日、また生徒が亡くなった。今度は佐藤と、葉山だ。お前ら本当に何かしらないか?」
先生の言っている事に恐怖でひきつる生徒が慌ててカバンを手に教室を出て行く。次から次へと皆いなくなる中、僕も帰ろうと鞄を手にした。すると先生に呼び止められた。
「ちょっといいか?」
「あっ、はい。何でしょう?」
「今回の件、3件ともお前を虐めてたやつじゃないか。お前本当に何にも知らないか?」
「はい。知らないですよ。」
「そっか…、ならいい、まっすぐ帰れよ。」
「はい。」
それだけ言うと僕は慌てて自宅へと帰ってきた。
僕を虐めていた3人が死んだ。だからもう怯えることはない。
でもね?女の子の事が気になった。
もしかして…いやいや、そんなはずは…。でも待てよ?もしそうならあと1人狙われるに違いない。僕は朝までの時間が惜しかった。
最後の1人は担任の先生だ。
そう、僕を助けてくれなかった担任の事を言っている。
先生がどこに住んでるのかなんて知らない。
だから学校で待つしかない。
でも、他の3人のように自宅なら学校以外で何かあったらどうしようもない。
焦ったよ。
だから自宅の鏡の自分に向かって喋り出した。
もう誰も死んでほしくないって。
女の子が出てくるのを期待して待っていたのだが、現れる様子はなかった。
だからね?
緊急連絡網の担任の携帯に電話をすることにしたんだ。
繋がるかなぁ〜?
頼む!繋がって!!
僕は祈ったよ。
こんなに祈ったのは虐め以来かも。
何回目かのコールで諦めようとしたら先生が電話に出たんだ。だから僕はすぐに先生に話をする事にしたんだ。
今までのこともあるから直接会って話したいって。
だからね?学校で会う事にしたんだ。
時間は5時。
皆下校している時間だ。
教室には誰もいない。
僕は鏡を持ってきていた。
先生に話して聞かせることと、少女にもうこれ以上行動をさせないための保険だ。
先生はすぐ来たよ。
髪を振り乱して。
「で?話って?」
「僕を虐めていた生徒達は呪い殺されたんです。」
「は?まさ、か…。そんな話聞いたこともない。君が殺したのか?どうやって?」
「僕じゃない。僕じゃないですよ先生。彼女がやったんです。」
「彼女って?どこにいるの?」
「ここですよ。鏡の中です。彼女は霊です。ある日突然僕のところにやって来て僕の願いを叶えてくれるって…。」
「それが今回の事件というわけかい?はっ、話にもならない。霊だって?そんなものが実際にいるはずなんて…。」
そこまで話した時突然部屋のドアが開いた。
2人してそのドアの方を見るが誰もいない。
先生は暫く茫然としていた。
僕も固まってしまっていたんだ。
「ねえ、出て来てよ。僕の話が本当だって先生に話してよ。」
ガタン!
椅子が倒れる音がした。
どうしちゃったんだ?
もしかして話したから怒っちゃったのかなぁ?
まずかったのかな?
僕は必死に考えた。
考えて出た答えはやはりこんなことは間違っているという思いだけだった。
「もうやめよう。僕の願いは叶ったんだ。君が叶えてくれた。だからもう終わりにしてくれ。」
「まーーだ終わりじゃないわ。まだいるじゃない。そこの先生様がね。」そう言いながら鏡の中に少女が現れた。
これには先生も驚いて尻餅をついていた。
腰を抜かしたと言った方が正解かもしれない。
「ま、まさ、か、あり得ない。ホントに??」そう言いながらガタガタと震えていた。
「僕の願いは叶ったんだ。だから関係のない先生への危害はやめて!お願いだ。もう終わったんだ。」
「ホントに?こいつは放置?はっ、あり得ない。」
「ヒ〜!?」
真っ青な先生をかばいながら僕は必死に考えた。
どうやったら彼女の気持ちが変わるのか…。
もしかして彼女も生前同じ目にあって来たのかもと考えた僕は彼女に問いかけてみた。
するとやはり生前彼女もまた虐めにあったことがわかった。その時の担任は彼女の話を全く聞こうとせず、彼女は1人苦しみながら校舎の屋上から飛び降りたことを話してくれた。どんなに苦しかっただろう。どんなに悲しかっただろう…。
でもね?それじゃダメな気がしたんだ。
「この先生はね?僕を助けてくれようとしたんだよ?嘘じゃない。」「嘘!そんなの信じられないわ!」
「これだけはホント。だから僕はもう大丈夫だよ。もう終わったんだ。先生を見てみなよ。」
少女が鏡ごしに先生を見ると先生は泣いていた。
少女のことを思ってのことらしい。
その姿を見た少女は頭を振って後退しようと後ろに下がる。
「あり得ない。あり得ないわ。私の時、先生は見て見ぬ振りをして…何にもしてくれなかったじゃない。こんなになってから助けてくれるんだったら何でもっと早く…君の先生みたいな先生が私の担任だったら良かったのにね。」
女の子は泣きそうな顔をしてそして消えていった。
「先生、もういなくなりましたよ。もう終わったんです。」
「そっか、いなくなったのか。君はもう大丈夫かい?」
「はい。ご心配おかけしました。もう大丈夫です。先生には迷惑かけちゃってすみませんでした。」
「あ、いや、でもね?今回の事は僕らの秘密にしよう。じゃないと説明がつかないからね。」
「はい。でもいいんですか?結局3人も死んじゃったし。」
「彼らには悪いけど彼らの素行の悪さも先生の耳には入ってきていたからね。問題児だったんだ。」
「だから?」
「そっ、だからさ。」
僕は持ってきた鏡を手に先生と教室を後にした。
そして、誰もいないはずの教室で女の子の声が聞こえた気がした…。