第三章 幸福の使い方
日曜日、ナナと真央は近くの公園で会うことになった。昨日、家に帰るとスマホにメールが入っていた。真央も物好きだ。
朝食を済ませ、家を出る。今日の方がお出かけ日和といえた。昨日の雲の面影はどこにもない。
「おまたせー」
公園に着くとすでに真央の姿があった。比較的大きな公園。中心に噴水がずっしりとたたずんでいる。日曜日の晴れ、子ども連れの家族の姿が目立った。
「おー、私服じゃん。かわいい。いつもお店には制服だったし」
「確かに、そうだったね」
噴水近くのベンチで、涼しい風を浴びながら二人は会話を楽しむ。自販機で、購入したコーヒーを一気に飲み干す。
「ナナちゃん、コーヒー好きだね」
「まあね」
「それでさ――」
と、改まって真央は話題を変える。
「昨日はどうだった?」
「どうって……」
昨日のことが遠い日のようにぼんやりと浮かぶ。
「顔真っ赤。そんなに楽しかったんだ。相手の人、どんな子? 写真とかある?」
別に減るものでもないので、コンビニで印刷をしようと思い持ってきたスマホの中の写真データを見せた。
「……へぇ、いいじゃん。うらやましい」
一瞬、真央の顔が曇った気がした。獲物を見つめる獣のように、ナナは感じた。
「昨日の、チケット、ありがとうね」
「まあ、いいって」
先ほどの表情に疑問を残しながら二人は公園で半日を過ごした。
月曜日になり、ごく普通の平日の始まりを目覚まし時計が告げる。
まるで、おとといの出来事が夢のようだ。
放課後になり、ナナと雪人は部室に向かう。今日の部活動は、課題の消化をする時間になりそうだと、ナナは肩を落とした。月曜日は学生に活を入れなくてはと、先生も張り切って課題を出すらしいことはナナにとってもわかっていることだが。
「あ、どうも……」
「おう」
まだ恥ずかしさが続いている。会話が長続きしない。逃避するようにナナはカバンから課題を机の上に乱雑に広げる。
「あ、あのっ」
無言の方が、恥ずかしいと思ったナナは耐えかねて雪人に声をかける。
「なんだい?」
なんだいと言われても困ると、ナナは心の中で逆切れする。
「いや、何でもないです」
「そう?」
会話が続かない。ペンを持った手が、たびたび止まる。
「あ、そうそう!」
「ひゃい⁉」
急な雪人の声に思わず、ナナは変な声を出してしまった。
「この前、上尾さんの愛読書だって言ってた本、買っちゃったんだ」
カバンから、彼はナナには見慣れた本を取り出す。
「あ、この本……」
彼と同じ物語を楽しめる日が来るとは思っていなかった。
「まだ、読み途中なんだけど、面白いね。上尾さんって本選び得意そう」
本についての話題に、思わずナナはペンを置いて、
「じゃ、じゃあ、これから本屋さんにでも行きましょう!」
机の上に置かれた課題を見て、口が閉じる。
「あ、明日いこうか」
彼は静かに立ち上がると、窓を開け涼しい風を室内に取り入れる。遠くの方から運動部の掛け声が風に乗ってくる。
「今日、結構涼しいですね」
「まあな」
ナナの髪が風の調律に合わせてなびいた。
「きれいだな」
雪人の独り言に思わず彼の目を見つめた。数秒もしないうちに、目線が合う。
「あ、いや、字が……」
「あ、ええ、そうですよね」
また、言葉が途切れてしまった。帰宅時間を知らせるチャイムが鳴るまで、穏やかな雰囲気が漂っていた。




