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二人の愛読書  作者: 雪川 白
7/18

放課後 ~ナナ~

 遠い星空を眺めるように、実感がわいてこない。空っぽのコーヒーカップがカウンターを埋めていく。

「真央、コーヒー」

「胃がやられるよ」

 友人としての忠告も、客と店員の関係の前ではそれほど役に立たない。静かに、真央はからのカップを回収した。

「おまちどう」

 いつもの店主がコーヒーカップをカウンターに差し出した。

 スプーンをおもりに一枚のメモが挟まっていた。

「真央さんから」

 店主が彼女の表情を察して一言付け加えた。ナナは彼が、彼女の名前を知っていたようには思えない。メモを開き、コーヒーを一口、口に含む。

『明日、よければ使ってね。真央』

 メモの裏を見ると、明日開催する上映会のチケットだった。時刻は昼すぎ。早めにランチをここで食べておけば、十分に間に合う。真央が直接渡さないのは、陰で応援していることを暗示しているのだと思った。ナナは少し不安になった。彼が午後に予定を入れていたらどうしようか。彼が学校にまだいれば、確認できる。飲みかけのコーヒーを置き去りにして会計を済ませる。

「お手数ですが、できたらさっきのメモの件、ありがとうと、お伝えください」

 そう言い残して、店を後にした。

 小走りで学校まで走る。胸のせいで前方が見にくい。時々すれ違う人の目線が気になる。恥ずかしさより不快感が先行する。胸が大きくなり始めたころ、友人に好きな子を一コロだねと言われたが、そんな男とは付き合いたくはない。それに、逆にそうだとしても今その役割を果たせないなら、胸部に実った果実は今すぐもぎ取ってしまいたい。

 学校につき、部室に駆け込む。カバンがあるからまだ学校にいるはずだ。汗をぬぐいながら彼を待つことにした。

 十分もたたないうちに雪人が部室に入ってきた。

「あれ、帰ったんじゃなかった? 忘れ物?」

「帰ったんですが、えっと、聞き忘れたことがあって」

 ワイシャツのポケットに入れてあったチケットを一枚、彼に手渡す。まだ、ナナの体温を帯びている。

「どうかな」

 その一言にすべてを託す。

「うん、いいよ。好きだし」

「その映画?」

「え、ああ。うん」

 その質問をしなければ、自分の好きなように解釈できたのに。ナナは後悔した。

「あ、そうそう。それで、時間は大丈夫ですか?お昼、過ぎるみたいですが、予定とかは入ってませんか?」

 彼の口が開く。そこから出る言葉を聞くために、ナナは走ってきた。

「ああ、開いているよ」

「よかった」

 その言葉を聞きたくて、ここまで走ってきた。

「上尾さんって、おっちょこちょいなところあるよね。僕が学校にいなかったらどうするつもりだったんだよ」

 はっとした。もしいなかったら、一人でとぼとぼと帰路についている。今、少なくともここにはいない。

「上尾さん、帰ろっか」

「はいっ、帰りましょう」

 彼の笑顔に導かれるように部屋を出た。その部屋にはまだ、二人の熱気が残っていた。


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