エピローグ ~四人~
ことが一段落して、彼は葉一のもとへ礼を言いに行った。
「いろいろとありがとうございました」
「いや、大したことしてない。あ、そうそう、温泉は?」
「誘えるわけないです」
制服から、チケットを取り出し、葉一に返す。
「ハードル高かったか」
彼は口元を緩ませ、受け取った。
「それで、今日、カフェにでも行きませんか」
「この近くにそんなのあったっけ。まあ、行こう」
真央の言った「二人分」の意味が解けずに、今日もカフェでコーヒーを飲んでいた。真央とはあの日以降も変わらない関係が続いている。
「おまちどう」
いつもの調子でコーヒーと、チョコレートパフェが出てくる。むしろ、いつもの調子でないと困る。
「ナナ、改めて報告を」
「メールでしたのに」
あの日の夜に、ナナはいち早くお礼とともにメールをした。
「いやぁ、いいじゃん」
冗談めかした会話を続けていると、がらりと入り口から二人の男性が入ってくるのが見えた。
「いらっしゃいませー」
「……あれっ」
見慣れた男性が二人、前に立っていた。
ひとまず、カウンター席へ案内した。
この時、雪人はこの前に見た「男性」は、制服を着た真央だと気づいた。ぶかぶかの制服では、遠目にそう見えるのも仕方ない。
「いや、お二人が知り合いとは」
真央は、葉一と雪人を見つめながら感心した。
「僕も驚きだよ、葉一さんと、真央が夜を共にしているとは」
「いや、語弊のある言い方しないで。ただのランニング仲間だから」
張り合うように、ナナも口を開く。
「私だって、真央と雪人くんが知り合いなんて……先越された気分」
耳を真っ赤にしながらコーヒーを飲み干す。
「別に何もしてないけど?」
「だよな、真央。そうだよ、上尾さん」
真央は微笑みながら、ナナのパフェを口に運ぶ。
「そんなに甘いものばかり食べてると――」
雪人が開いた口を閉じた。このフレーズをどこかで行ったことがあるような気がした。
――『そんなにお菓子食べてると彼氏できないよ』
――『彼氏、ほしいですし!』
――『クッキー、食べ損ねました』
はっとして、真央を見る。
「真央……」
今更、過ぎた。
「鈍感ですよ。それより、上尾さん、じゃなくてナナって呼んであげましょうよ。あ、そこだけ先を越しましたね、名前呼び」
どやっと冗談半分に笑う彼女の奥には悲しさが見えた。ナナもそのやり取りではっとした。二人分。彼を愛するのは、自分と彼女なのだと思った。
「ありがとう」
特別な空間も、特別な時間も必要ない。ただ、特別な人がいればおのずとそこが特別になる。
二人の一ページには日々の日常がただ書き綴られているのみだった。




