放課後 ~雪人~ ~ナナ~
弱弱しく、彼は写真部のドアを開けた。
「どったの、ゆっくん」
「僕は広角ゆえに、ものが歪んで見えるのかもしれません」
低いトーンに誘われて、部屋の奥に進む。
「中々詩的だけど何を言いたいのか、わからないよ」
いつもの軽いノリに重く答えた。
「昨日、こういうことがあって――」
昨日と今日を、定点的にとらえている葉一を雪人は写真のようだと思った。
「難題だね」
「感想はいいので、ほんと、助けてください」
うーんと、葉一は腕を組んでしばらく思いつめた表情でいた。
「時間が解決すること、かな。彼女が一日猶予をくれているんだから」
時間に任せろという。それがすべてだと、彼は付け加えた。
一日、濡れた心を乾かすつもりで夜、日曜日にあった公園に行く。
「真央、お待たせ」
「私も今来たところだよ」
その言葉を聞く度に土曜日のことを思い出す。彼が自分にはじめて言った言葉。
「真央、昨日、喧嘩しちゃって。だから今日は特にすることはないかも」
「ふぅん。ここじゃなんだから、私の家に来ない? 話、聞かせてほしいな」
月明かりに照らされて、真央はナナの手を優しく握った。
真央の部屋は今の心境に合わないほど賑やかといえた。漫画やDVDが部屋中にある。片隅にランニングシューズなどが異質的に置いてある。
真央はベッドに座ると、隣においで、とナナを優しく導いた。
「話、聞かせて」
「うん。私ね――」
ナナは話しているうちに涙があふれて止まらなかった。掛け布団に頬を伝って流れ落ちた。
「そっかぁ」
真央は優しく、ナナを抱きしめて耳元でささやいた。
「その人はきっと――」
ナナの事嫌いだと思う、そう言いかけてナナの横顔を一度見つめる。
「ナナの事、嫌ってないよ」
自分らしくない、回りくどいやり方だと真央は思った。
「そう、かな。だとしても、明日、謝れないよ。部活休むって言って――」
真央は眼鏡越しのナナの瞳を撫でた。
「じゃあ、もし会えるなら何て言いたい?」
「本を好きなのは知ってる、それはもう怒ってない」
「それから?」
少しだけ、強く彼女を抱きしめる
「本も、私も愛してほしい……です、って。私、ばかみたい、本に嫉妬してたのかも」
顔を赤くしながらナナは静かに涙を落とす。
「うん、よく言えたね」
母親のように、真央はナナの髪をなでる。真央も一つ、大粒の涙を流した。
「もらい泣き」
言い訳のように、笑う。
「夜も遅いし、帰る?」
「うん。そうする、話聞いてくれてありがと」
玄関に向かうナナを真央が引き留める。
「ナナ」
「何?」
「二人分、だからね」
ナナはその意味の言葉がよくわからずにいた。
――部屋に戻り、既読して返信をしていなかったメールの返信をする。
『明日でよければ、グッズ買うの、お付き合いしますよ。どうせ、お暇でしょ? 真央』
そのメールにのった淡い恋心は、だれにも気づかれそうにない。




