表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人の愛読書  作者: 雪川 白
15/18

放課後 ~雪人~ ~ナナ~

弱弱しく、彼は写真部のドアを開けた。

「どったの、ゆっくん」

「僕は広角ゆえに、ものが歪んで見えるのかもしれません」

 低いトーンに誘われて、部屋の奥に進む。

「中々詩的だけど何を言いたいのか、わからないよ」

 いつもの軽いノリに重く答えた。

「昨日、こういうことがあって――」

 昨日と今日を、定点的にとらえている葉一を雪人は写真のようだと思った。

「難題だね」

「感想はいいので、ほんと、助けてください」

 うーんと、葉一は腕を組んでしばらく思いつめた表情でいた。

「時間が解決すること、かな。彼女が一日猶予をくれているんだから」

 時間に任せろという。それがすべてだと、彼は付け加えた。


一日、濡れた心を乾かすつもりで夜、日曜日にあった公園に行く。

「真央、お待たせ」

「私も今来たところだよ」

 その言葉を聞く度に土曜日のことを思い出す。彼が自分にはじめて言った言葉。

「真央、昨日、喧嘩しちゃって。だから今日は特にすることはないかも」

「ふぅん。ここじゃなんだから、私の家に来ない? 話、聞かせてほしいな」

 月明かりに照らされて、真央はナナの手を優しく握った。

 真央の部屋は今の心境に合わないほど賑やかといえた。漫画やDVDが部屋中にある。片隅にランニングシューズなどが異質的に置いてある。

 真央はベッドに座ると、隣においで、とナナを優しく導いた。

「話、聞かせて」

「うん。私ね――」

 ナナは話しているうちに涙があふれて止まらなかった。掛け布団に頬を伝って流れ落ちた。

「そっかぁ」

 真央は優しく、ナナを抱きしめて耳元でささやいた。

「その人はきっと――」

 ナナの事嫌いだと思う、そう言いかけてナナの横顔を一度見つめる。

「ナナの事、嫌ってないよ」

 自分らしくない、回りくどいやり方だと真央は思った。

「そう、かな。だとしても、明日、謝れないよ。部活休むって言って――」

 真央は眼鏡越しのナナの瞳を撫でた。

「じゃあ、もし会えるなら何て言いたい?」

「本を好きなのは知ってる、それはもう怒ってない」

「それから?」

 少しだけ、強く彼女を抱きしめる

「本も、私も愛してほしい……です、って。私、ばかみたい、本に嫉妬してたのかも」

 顔を赤くしながらナナは静かに涙を落とす。

「うん、よく言えたね」

 母親のように、真央はナナの髪をなでる。真央も一つ、大粒の涙を流した。

「もらい泣き」

 言い訳のように、笑う。

「夜も遅いし、帰る?」

「うん。そうする、話聞いてくれてありがと」

 玄関に向かうナナを真央が引き留める。

「ナナ」

「何?」

「二人分、だからね」

 ナナはその意味の言葉がよくわからずにいた。

――部屋に戻り、既読して返信をしていなかったメールの返信をする。

『明日でよければ、グッズ買うの、お付き合いしますよ。どうせ、お暇でしょ? 真央』

 そのメールにのった淡い恋心は、だれにも気づかれそうにない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ