第五章 愛情の裏返し
深夜に雨が降ったせいで、道路にはところどころに水たまりがみられた。
やけに昼頃から体が重い。
部室までの道のりも、いつもよりきつい気がした。
「はぁ」
ナナに嫌われたこともため息の原因だが、邪な気持ちを持ってしまった自分に嫌気がさした。
静かにドアを開ける。誰もいなかった。
「そりゃ、そうか」
部屋の中に入るにつれ、違和感を覚えた。
「窓、開けっ放しか」
まあいい、どうせここにいるんだから、閉める必要もない。
最近読んでいないラノベを読もうかとカバンをあさる。
「あっ」
目的の本以外の文庫サイズのものが手に引っかかった。
「まじかよ」
昨日、ないと思っていた本がカバンの底に入っていた。昨日、わざわざ入れた覚えはない。
ガチャっと音がして、ナナが部室に入ってくる。
「遅かったね」
「この前の課題を提出してました、部長さん」
彼女の顔を凝視した。いつもより会話に距離がある。昨日の今日だから、当たり前かもしれないが、近そうで遠い言葉の距離だった。
「あの上尾さん」
「はい、なんですか?」
彼女は何事もないかのように座ると、昨日に対するあてつけのようにコーヒーのにおいが残る本を広げた。
「昨日の件、ほんと、ごめんなさい」
「……それは、何に対する『ごめんなさい』ですか?」
コーヒーをと言いかけて違うと気づく。コーヒーがこぼれたことではない。
「昨日、私、濡れたページを乾かすのでこの本、読めなかったんですよ」
本をめくる手を止めてナナはそう切り出す。
「好きなものから距離を置くと改めてそれが好きなんだってわかりました」
一文ずつ、彼女は呼吸を置いて口を開く。
「私、確かにコーヒーについても怒ってるけれど、それ以上に本を、愛してないんだなって思いました」
言葉が止まる。しばらくしてナナは明日は部活、お休みします、と告げた。
「それではまた明日」
別れの言葉を告げた後、彼女は再び本を広げる。雪人はカバンを持って、外に出た。




