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絶対に無理ゲーと思うエアガンで異世界攻略を!  作者: イカのなっちゃん
第一章 学生編
8/8

第八話 『魔法学院で普通な部活に入部を!』

 あれから編入して一ヶ月が経っただろうか。

 クラスメイトとも仲良くなってきたし、魔法の方も少しずつではあるが、上達してきた。授業も真面目に受けている方だとも思う。


「……入りたくねぇ」


 春樹は全身から変な汗をだらだらと掻きながら、職員室前に立っていた。

 それはSHRショートホームルームが終わった直後の出来事である。


 春樹はいつも通りに荷物から教科書を取り出そうとした時に、ものぐさ教師こと、フレイ=カトスピラーヌが珍しく気合いの入った服装で春樹に近寄り、「後で職員室に来なさい、大事な話があるわ」とだけ告げ、きびすを返すように職員室に戻ったことが事の始まりである。


 話を戻すと、春樹は今危機的状況にせまられているかもしれない。

 フレイの気合いの入った服装といい、真剣な表情で言われたあの台詞といい、そして、さっきから騒がしい職員室。

 十中八九、俺の処分に違いない。もしかしたら、退学処分という可能性も……

 だが、職員室が騒ぎになるほどの大事をしでかした心当たりがない。

 授業は真面目に受けている方だし、模擬戦の成績も悪くない。他に何が……


 春樹が職員室前で難儀していると、目の前の扉がスライドし、そこにはフレイが立っていた。


「なにやってるのよハルキ。さっさと、職員室に入りなさい」

「先生」

「何泣きそうになってるのよ」


 春樹は目を潤わせながら、フレイを見る。


「……俺、何かやったんですか?」


 緊張と不安のあまり、春樹は手を戦慄わなかせる。


「何言ってんのよ? いいから、早く職員室に入りなさい。すぐに話は終わるから」


 フレイは右手で前髪を持ち上げながら、面倒くさそうな態度で職員室に戻っていく。

 それについて行くように、春樹も職員室に入る。

 職員室の数百人の教員が一斉に春樹に向けて、睨みつけるような目で視線を送っていた。


「……先生、なんか俺注目されてませんか?」

「そりゃそうでしょ、だって私が呼んだ理由ってのは……」


 フレイはふかふかそうな背もたれ付きの椅子に座り、少し間を置いてから春樹に一枚の紙を渡す。


「部活の申込書よ」

「えっ!?」


 部活の申込書? 退学処分とかじゃなくて?


「退学処分とか懲戒ちょうかい処分のことじゃないんですか?」

「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ? それとも、あんた教師に内緒でなんかやらかしたの?」

「んなわけないでしょ! え、じゃ、だったら、先生のその気合いの入った格好は何ですか?」

「合コン」


 躊躇ためらいも無く、堂々と言い切った。


「あんた教師のくせに何やってんだよ!」


 ほんとうにこの懶教師は教員の仕事をさぼって何をやってるんだか。


「それじゃ、真剣だった表情の理由は?」

「合コン」

「……」

「……」


 しばらくの間、二人からは静かな空間が生まれる。先にこの空気を断ち切るためにフレイは口を開き、


「合コン」

「それはさっきも聞いた。他の言葉を待ってるんだよ!」


 ついタメ口で言ってしまった。まさか、同じ言葉が来るとは思っていなかったから、つい突っ込んでしまった。

 フレイは嘆息たんそくしながら、短いスカートで足を組み始める。


「じゃ、他になんて言えばよかったのよ?」

「合コン以外なら何でも」

「合コンはゆずらないわよ。今日が勝負どころなんだから、今回は本気出していかなきゃ、良い相手はゲット出来ないわ!」


 フレイは椅子いすから立ち上がり、拳を天井に突き上げながら机に片足を乗っける。露出度ろしゅつどがかなり高めの服装なので、周りの男性教師は息を荒くし、もじもじと足下を動かしながら、背もたれ付きの椅子で体を縮こまらせていた。


「どうぞ、ご勝手にしてください。俺は教室に戻りますよ」

「ちなみに、これ今日提出だからよろしくね」

「よろしくじゃないですよ! なんで今日中なんですか? 選ばせる時間くらいくださいよ」

「ピーピーうるさいわね、だったら適当な部活に加入でもしなさいよ」

「嫌ですよ。あんた生徒のこと何だと思ってるんですか」

「別にどうも思ってないわよ」


……まったくこの懶教師は。

 これ以上話が進まないから諦めよう。

 春樹は嘆息しながら手に持っている紙を確認する。

 サッカーや野球などといった地球のスポーツはなかったが、異世界ならではのスポーツや部活があった。

 

 例えば、スカイボード部という、魔力を使って浮き上がるボードの上に乗り、魔法を駆使くしして全長五キロメートルほどのコースで勝者を競うスポーツ。


「お、特別編入生、スカイボード部に興味があるのか? 俺は顧問こもんのハビレイだ。入部したくなったら、いつでも俺を声に声を掛けてくれよな。いつでも歓迎してるぞ!」

「は、はぁ。考えときますね」


 スカイボード部のパンフレットを貰おうとしたときに、横から白衣を着た別の教師が入り込んでくる。


「いや、そんな部活よりも、私が顧問を務める魔法実験部なんてどうかね? フレイ先生に聞いたところ、君は成績が優秀らしいじゃないか。そんな君には泥臭いスカイボード部よりも、頭を使った僕たちの部活に来るべきだ」

「なにが泥臭い部活だと、スカイボード部は貴様の貧相な部活と違って、ちゃんとした成績を残しているんだ。どうせ、自分達の部活が功績を挙げていないから、特編の生徒を使って部費を稼ごうとしているだけだろ」


……ああ、そういうことか。

 その後も互いに皮肉を言い合いながら、言い切るまで十分程かかった。


「そろそろ授業があるので、僕はこれで……」


 春樹はそっと職員室から抜け出そうとした瞬間、後ろから紙が散らばる音が耳に入る。


「あら、いけない落としちゃいました。誰か一緒に拾ってくれないかしら?」


 めっちゃわざとらしい口調だな。

 とはいえ、困っている女性を放置するという罪悪感がわいたので、仕方なく散らばった紙を一緒に拾い上げる。


「ありがとうございます。何かお礼をさせてください」

「いや、別にいいですよ」


 と、帰ろうとした瞬間、女教師が腕を掴んでくる。


「ま、少し待ってください。お茶でも飲みながらこの部活申込書に名前の記入を」

「結構です」

「いや、そんなこと言わずにサインだけでも」

「いい加減に放してくれませんかね? もうすぐで授業が始まるんで」


 だが、そのおんな教師は春樹の右手を掴んだまま放そうとはしなかった。


「……は、放せこいつ!」


 春樹は腰の装甲からエアガンを取り出し、女教師の手首に向かって弾を当てる。女教師は反射的に手首を押さえながら春樹の手を放すと、春樹は全速力で職員室から逃げた。

 おいおい、何だったんだ今のは? ここの教師怖すぎだろ。


それから春樹は、チャイムが鳴る前に教室にたどり着き、疲れたように自分の席でうつ伏せになる。


「どうかしたのハルキさん?」

「い、いや……何でもない」


 さっきの出来事は出来れば思い出したくもない。春樹は苦笑いで返すと、一時間目の支度したくをする。



――――休み時間――――



「おいハルキ、フレイ先生になんか呼ばれてたみたいだったけど、何かやらかしたのか?」

「そうじゃねーよ。今日中に何処かの部活に入れって言われたんだよ」


 春樹はミヅチの机に部活の申込書の紙を置く。


「なるほどな、さっきの慌て用はこいつのせいだったのか」

「そういうこと。まさか俺がどの部活に入るかによって、教師達があんなに勧誘かんゆうしてくるとは思わなかった」

「そりゃそうだろ。特編の生徒が入れば部費や人気が上がるだけじゃない、特編が入った運動部なんかは毎年のように優勝をかっさらっているわけだし、この機を逃すわけはないわけだが……お前さんの場合は名前や部費目当ての教師や生徒の勧誘が多いだろうな」

「なるほどな」


 これで確定した。さっきの勧誘してきた教師達は春樹が欲しいわけではないことを。

 なんとなくそんな予感はしていたが、改めて考えてみると、なんだか胸の辺りがムズムズする。


「なぁ、ミヅチ。俺帰宅部にするよ」


 よし、勝ったぞ。おそらく昼休みや放課後になると、勧誘してくる生徒や教師も少なからずいるはず。だが、帰宅部に入ってしまえば、「帰ったら今日授業で勉強したところの復習があるので」などの言い訳をして、その場から逃げることが出来る。この方法を使えば、大半の生徒は諦めてくれるはず。

 春樹は勝ちほこった顔でガッツポーズをするが、ミヅチは首をかしげながら部活動一覧表の紙を渡す。


「何言ってんだハルキ、そんな部活動この学院にはないぜ」

「今なんて言ったミヅチ?」

「だから、キタク部なんて部活ねーぜ」

「無所属とかは?」

「おまえさん、学生証と一緒に付いてきた学校説明書の紙見なかったのか、三年生になるまでは必ずどこかの部活に所属してきゃいけないんだぜ」


 そういえば、そんなこと書いてあった分厚い冊子があったような、無かったような。

 だとしてでも、この学院に帰宅部がなかったことは誤算だった。日本の学校の部活動には帰宅部があったのだが、こちらの方ではそれが無いとは。


「とは言っても、中にはあまり活動もしていない部活があるんだぜ。そうだな、例えば……」


 ミヅチは部活動一覧表の紙に一つずつ記しをつけていく。その記しの横には部活名が記載きさいされており、ミヅチが印をつけ終わる頃には百十個余りの部活がチェックされていた。


「これが今のところの活動していない部活だな。まぁ、中には活動しているのもあるが、大半はお遊びとかだろうな」


 なるほど、さすがは新聞部、詳しいな。


「そういう奴は部室棟なんかで活動しているぜ。あとで行ってみるか、今日は俺も暇だし案内してやるけど」


 帰宅部には入れなくても、活動していない部活動に入部してしまえばおなじこと。行く価値は十分にあるな。

 春樹は首を縦に振る。


「よしっ、決まりだな。ちなみにハルキはどんな部活に入りたいんだ」

「そうだな、特に決めてはいないけど……楽な部活がいいな」

「なんとなく分かったけど……ハルキ!」


 ミヅチは春樹に顔を近づけさせながら席を立ち上がる。


「な、なんだよミヅチ?」

「新聞部に入るつもりはないか?」

「絶対に嫌だ」


 即答だった。

 ミヅチは少し落ち込んだように席に座る。


「ま、だよな」

「悪いなミヅチ、俺そういうの向いてないからさ」

「だが、他にもリヴェルさんやルコラちゃんもいるから、チャンスはまだある」

「それはないな」


 あの二人に関しては面倒くさそうな部活に入ったりはしないだろうな。特にリヴェル。

 そういえば、あの二人はどこの部活に所属するんだろうな。おそらく、ルコラは運動部のマスコット的な存在で、リヴェルは……どうせくだらない部活にでも入るだろう。


「ハルキくん、アルメリア先生が呼んでるよ」


 クラスの委員長が手を振りながらこっちを見る。

 アルメリア? ……聞いたことのない名前だが、誰だったけな。

 この学院の教師は千人以上いるため、全員の名前を覚えられないのは仕方ない。

 春樹は席を立ち、ドアの方へと足を運びながら、委員長の背後に立つ一人の影を見て驚愕した。

 それは、さっき職員室で手を掴んで放さなかった女教師だった。思わず、げっ、という音が口からこぼれる。


「あの、ハルキ=レイ=アルケギニアさんですよね?」

「いえ、人違いです」


 華麗にスルーして、春樹は自分の席に戻っていた。


「そんなわけないでしょ。ハルキ=レイ=アルケギニアはあなたしかいないでしょ?」

「いや、本当に人違いなんじゃないですか? この学校の生徒数一万人ぐらいなんですよね? 名前が被るのも必然じゃないんですか?」

「二年生でこの名前なのはあなただけですから」


 春樹は舌打ちしながら、仕方なくアルメリアの方を向く。


「何のようですか?」


 と言っても、部活の勧誘しかないだろうな。


「私たちの美術部に入りませんか?」


 案の定だった。

 まぁ、絵を描くのは好きな方だし悪くは無いが、別に絵を描くために異世界こっちに来たわけじゃないし、ここは断って、とっとと諦めてもらおう。


「やめておきます」

「入部だけでもいいんですよ。部活動をやらずに帰っていただいても構いませんから」


 それはおいしい話だが、別に部活動をしたくないとかではなくて、自分が入りたいと思えるような部活に入りたいだけである。


「嫌です」

「何でですか?」


 アルメリアはねばり強く食い下がるが、タイミング良く予鈴よれいのチャイムが鳴り出す。


「時間ですか……あとでまた来ます、そのときまでには考えておいてくださいね」


 と、踵を返すように、アルメリアは廊下から三階へと上る階段へ移動する。

 春樹も自分の席に戻り、にっこりと笑みを浮かべるミヅチを見ながら、ため息をこぼして着席した。


「モテモテだな」

「喧嘩売ってんのか?」

「ちげーよ。どうせこの後もあの先生来るんだろう?」

「そうだけど」

「やっぱりか。多分だが、さっきの先生以外にも勧誘してくる教師がこの後の休み時間に来るぜ」

「まじか」


 いや、それはまずい、というか面倒くさい。アルメリアもこの後また来るのに、これ以上来たらかなり面倒くさいことになる。

 だとしたら、やることは一つしかない。



――――二時間目の休み時間――――



「ハルキ=レイ=アルケギニアくんいますか?」


 早速、アルメリアが授業が終わったと同時に春樹のいる教室にけつけるが、


「彼なら教室にいませんよ」

「何処に行ったんですか?」

「分かりません」

「はい?」


 アルメリアは間の抜けた声で小首を傾げる。


「どういう事ですか?」

「教室の窓から飛び降りました」

「はい!?」


 驚愕きょうがくした顔で女生徒を手でどかし、教室の窓を確認する。

 そこには、開けられた窓とその周囲で窓の外を見ている生徒が半数以上。アルメリアは急いで駆け寄り窓の外を見たが、春樹の姿はすでになかった。

 

「逃げられたか」


 親指をみしめながら、アルメリアは眉間みけんにしわを寄せる。


 その頃春樹は――――


「これぐらい離れてれば、さすがにバレないだろ」


 教室から少し離れた男子トイレに隠れていた。

 今頃、あの教師は俺を追って探しに来てるだろうが、さすがにここには来ることはないはず。

 休み時間が終わるのにあと十五分、発信器のたぐいが付けられていない限りは逃げ切るのは容易たやすいこと。


「予鈴が鳴ったら教室に戻るか」


 予鈴が鳴るまでの間はここを離れることは出来ない。つまり、この場を一歩たりとも出ることは出来ない。

 一分一秒が長く感じる。早く予鈴が鳴ってくれないかと焦燥感しょうそうかんが駆り立ててくる。

 そんな気持ちを留めて、春樹は右肩の装甲からスマホを取り出す。

 とくにすることもないが、スマホをいじっているだけで不思議と心が落ち着く。


「あと二分……」


 スマホに表示されている時間を見ながら、頭をいた。


「あと一分」


 あともう少しで予鈴が鳴る。


「時間だ!」


 予鈴が学院中に響き渡ると、春樹は男子トイレを出て、教室に向かった。

 周りにアルメリアがいない事を確認しながら教室に入り、急いで二時間目の授業の支度をする。


「ハルキ、お前何処行ってたんだよ」

「ちょっと男子トイレまでな」

「なるほどな」

「ところでミヅチ、アルメリア先生の方はどうだった?」

「次の休み時間になったら覚えておきなさいよ、絶対に捕まえてやる、って言ってたな」


 怖すぎだろ。ここの教員はこういう人ばかりなのか?

 ともあれ、無事に逃げ切ったということだが、次の休み時間も来るのか。これは面倒くさいことになるかもな。今のうちに、トイレ以外に逃げる場所を考えておかなきゃな。

 これ以上、二階から飛び降りるのは体への負担が大きすぎる。次はあまり体に負担をかけない方法で逃げよう。


 それから春樹は休み時間になる度に、アルメリアから逃げるため、三時間目の休み時間は、窓の外の隙間すきまに隠れ、四時間目の休み時間には、掃除道具入れの中に隠れてやり過ごした。


 さて、昼休みはどうやって逃げようか。

 四時間目が終わる鐘が教室中に響きだす。

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