表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対に無理ゲーと思うエアガンで異世界攻略を!  作者: イカのなっちゃん
第一章 学生編
7/8

第七話 『異世界で調子に乗った駄女神に鉄槌を!』

「ねぇ、ハルキ、聞いてるの?」

「ああ、聞いてるよ」

「じゃ、こっち見なさいよ」


 嫌に決まってるだろう。今、そっち振り向いたら、俺はクラスの男子全員のにらんだ目を浴びなきゃいけないんだぞ。頼むから、これ以上事態を悪化させないでくれ。


 春樹はかたくなに、顔をリヴェルの方へとは向けなかった。


「何のようだよ」

「春樹のことだから、どうせ、登校初日でも友達作れなかったんでしょ? だから、こうして私が話しに来てあげたの」


 余計なお世話だ。


「おっと、リヴェルさん。ハルキなら俺という友達がもう出来てるぜ」


 ミヅチが後ろから手帳とペンを手に持って、割り込んでくる。


「そうなの?」


 リヴェルは怪訝けげんそうな顔で春樹を見る。


「まぁ、上出来ね。もりにしてはやるじゃない」


 何で上から目線なわけ? あと、引き籠もりじゃねーよ。ただ、友達作りに失敗しただけだし。家に帰ってパソコン開けば、千人ぐらい友達いたし。


 恥ずかしくて言葉に出来なかった春樹は、顔を伏せながら、小声でブツブツと呟いていた。


「そんなことよりもね、ハルキ。私ってこの世界じゃ最強になれるかもしれないの」


 何言ってんだこいつ、ワープの反動がまだ残っているんじゃないか? というか、そんなことって何だよ、友達作れただけで俺すごい嬉しいんだからな。


「とうとう、頭でもおかしくなったのか? 保健室ならここから近いから、送っててやるよ」

「違うわよ、私の血液検査から発覚した、魔法師ランクの情報よ。あなた血抜いたで……そうだ、あの時ハルキ寝ていたんだったわよね」

「おい、ちょっと待て。最後なんて言った?」


 いつだ、いつ俺は血を抜かれたんだ? 確か、ジキルさんから貰った茶封筒には既に学生証が入っていたから、俺が寝ていた時は、確か――――


「おい、リヴェル。俺が最初にお前と会った時に、どうも右手が痛かったんだよな」

「あれ、ハルキ、きゅ、急に何よ。中二病なんて今時はやらないわよ。……おかしいな、確かに痛みは消したはずなのに」


 勿論、嘘である。だが、リヴェルの動揺した言動と、時々()れている言葉で納得した。俺が寝ている間に絶対何かされた。血を抜かれたこと以外に、ときどき頭に入ってくる、知らないはずの言葉や知識も、リヴェルの仕業に違いない。


「なぁ、ミヅチ。模擬戦は明日でも構わないか?」

「お、おう。いいぜ」


 ミヅチは、冷や汗を少し掻いて後退る。


「リヴェル、今日の午後の授業に模擬戦の依頼をするけど、いいか?」


 笑っているようで、笑っていない春樹の顔に気圧けおされ、リヴェルは思わず首を縦に振った。




――――昼休み――――


「ねぇ、春樹。模擬戦をする前に、あなたに見せておく物があったわ」


 授業が終わって早々、リヴェルは茶封筒の紙を、春樹に渡す。


「なんだ、俺に情報を教えてもいいのか?」

「ハンデよハンデ。私の魔法師ランクを見て、精々、この昼休みに対策でもすることね」


 なんか言葉が一々ムカつくんだよな。

 春樹は茶封筒を開け、中身の紙と学生証を取り出す。


 封筒には、編入おめでとうと書かれた紙と、編入試験の筆記テストの紙があった。


 最初に学生証は確認せず、まず、リヴェルの知識がどれほどのものか見ることにした。

 そして、春樹はテストの点数を見て驚愕する。



 21点――――。


 こいつバカかよ。


 春樹は視線を右にずらし、リヴェルを見て、一つだけ質問する。


「おい、リヴェル。お前この封筒の中身見たか?」

「学生証だけ見たわよ」


 やっぱりか。

 春樹はリヴェルに答案用紙を見せる。



 受験番号 235436   名前 大魔王ザビエル       得点 21点


 問一 『五百年前に死んだ魔王を答えなさい。』  回答 『勇者が来てくれなかった寂しさにより死亡。』……




……リヴェル、もとい、大魔王ザビエルは口をパカッと開けながら、凍結していた。


「そう、気を落とすなってザビエル」

「その名前で呼ばないでよ!」


 リヴェルは春樹の耳元で大声を出して、取り乱す。


 名前を書き忘れて、回答ずれてるとか、どんなけおっちょこちょいなんだよ。採点者の人もこれを見て驚いていただろうな。 というか、魔王の死因が勇者が来てくれなかった寂しさで死亡とか、どんなけメンタル低いんだよ、ウサギかよ。


 落ち込んだリヴェルを見て、ルコラが頭を撫でている。相当ショックだったんだろうな。


 春樹はリヴェルから視線を外し、学生証の方を見る。


「まじか……」


 春樹はポトッ、とリヴェルの学生証を落とし、凍結する。



――――リヴェルの魔法師ランク――――



 攻撃力 S


 防御力 S


 俊敏性 S


 体力 S


 運 C


 魔力量 S


 魔力制御 S



 魔法師ランク S




「はは、理不尽すぎだろ」


 もう笑うしかなかった。

 圧倒的なステータスの差、もはや化け物だろ。

 何だよ、運以外のステータス値が全部Sって、俺より主人公してんじゃねーか。


「ね、見て分かったでしょ。これが私の実力なのよ」


 急に開き直ったリヴェルは学生証を拾い上げ、答案用紙と一緒に茶封筒の中に入れる。


「ねぇ、ハルキ。今なら模擬戦取り消してあげてもいいわよ。魔法師ランクSの私に挑むなんて、百年も千年も早いわ。プーハッハハハ」


 ムカッ。


「いいぜ、魔法師ランクSだか知らないけど、男に二言はない、やるって言った勝負は最後までやってやる」


 春樹は向きになり、リヴェルのわざとらしい挑発に乗った。


「よし、決定ね。私負けるつもりないから」

「俺もな」


 二人は体を背けあいながら席に着くと、春樹はバスケットをからサンドイッチ手に、リヴェルはお菓子を手に昼食をとった。



――――午後の授業――――



「よく逃げなかったわね、褒めてあげるわ」

「いや、模擬戦も授業の一貫だから、受けなきゃだめだろ」


 春樹とリヴェルは、一定の距離を取りながら、身構えていた。

 リヴェルは腰の装甲から、茶色のコインのような物を取り出す。


「今から、この十円玉を上に飛ばすわよ。地面に落ちたらスタートね」

「おう、いいぜ」


 リヴェルは十円玉を親指に乗せ、


「3、2、1――――」


 カキーン、と鳴りながら、親指に乗っていた十円玉が弾かれる、が――――


「痛っ! 目に十円玉が当たった」


 リヴェルは自分で弾いた十円玉を自分の眼で食らってしまい、眼を手で押さえながら悶絶もんぜつしていた。


 ダサっ!

 その姿はあわれすぎて、何も言えなかった。


 とっくに、十円玉は地面に落ちてはいるが、クラスメイトが見ているわけだし、そこは空気を読むことにして、リヴェルの方に向かって歩いた。


「おいおい、大丈夫かよリヴェル」


 無事かどうかを確かめようとした、その時――――


「そこだっ!」


 リヴェルは右手で右目を押さえながら、右手からファイアボールを放つ。

 春樹はそれをギリギリのところでかわす。


「きたねーぞ! 今の卑怯ひきょうじゃないのかリヴェル?」

「ふん、これも作戦のうちよ。コインが落ちた瞬間から勝負は始まってるのよ」

「「なるほど」」


 クラスメイトの半分以上が納得したように頷く。

 絶対嘘だから、みんなだまされんなよ。


「右目も治ってきたことだし、ここからは真剣勝負よ」


 つまり、さっきのは真剣じゃなかったってことだな。


「食らいなさいっ!」


 リヴェルは右手から、数発のファイアボールを出し、春樹はそれを自慢のスピードで右回りにかわしていく。


「これじゃ、近づけないな。……そっか、こいつがあった」


 春樹は何かを思い出したのか、腰の装甲から()()()を取り出す。


「おい、ハルキが装甲から何か取り出したぜ」

「何かしら、あれ?」

「武器か?」


 クラスメイトの大半は困惑した顔で難儀なんぎしていたが、ミユルはそれを見て思い出し、小さく呟く。


「エアガンだ……」


 そう、ハルキが腰の装甲から取り出したのは、ハンドガンタイプのエアガンだった。


「そんなおもちゃで私に勝てるとでも思っているの?」


 春樹は小さく笑った。


「いいや、勝てるね」

「その根拠は?」

「こいつ以外に秘策があるからさ」

「その減らず口、いつまで言っていられるかしらっ!」


 リヴェルは、両手から先ほどよりも多くファイアボールを放つが、春樹はそれを見切りながらファイアボールの嵐を縦横無尽にかわしていく。

 春樹はファイアボールをかわしながら、時々、リヴェルに向かって弾を射出するが、一発も当たらないまま、戦闘は長引く。


「ご自慢のエイム力じゃ、私に当てることも出来ないようね」

「勝手に言ってろ。俺は別に()()()()()()()わけじゃないからな」


 マガジンが切れ終わると、春樹は足を止める。


「お前にエアガンの弾を当てたぐらいじゃ、勝てるわけがない。そんなの分かってるよ」

「ならなんで使ってるのよ」

「それはな。俺が地面に撃った、弾をよく見てみろ」


 リヴェルは腰を下ろし、地面にまった弾を確認する。


「何これ、透き通ったBB弾?」

「違うぜ。それは昨日俺が徹夜して作った、俺特製の油の弾だ」


 昨日春樹は、ミユルのおかげで夜は眠れずにいたが、一度心を落ち着かせるために一日の反省をしていたところ、ミヅチに負けたことを思い出し、次にミヅチに勝つ策を練っていて試行錯誤しこうさくごを繰り返した結果、この戦い方に行き着いた。

 ジキル学院長から貰った『誰でも魔法が覚えられる本・初級編』を参考にしていたら、液状を個体のように固く、自由自在に形を作れる魔法を見つけ。台所にあった油を今日の模擬戦のために、BB弾並のサイズまで小さく、丸く加工するという作業を約二時間で終わらせた。

 

 本当なら、ミヅチに勝つために使う予定の作戦だったが、仕方ない。丁度、試しに使ってみたかったから、結果オーライとしよう。



「これで終わりだぜ、ミユル。俺の全ての魔力を込めたファイアボールに、油の火力が加わったら、さすがのお前でも、無事じゃないはずだぜ」

「や、やめなさいよ。私がそのファイアボールを受けちゃったら、しゃれにならないわよ?」

「そのときはそのときだ」


 春樹は右手を前に差し出し、リヴェルに向かって構える。


「はい、終了」


 春樹の横から突然現れた、軽く拍手している声の主は。


「パ、ジキル学院長」

「え、まじで……」


 そっと顔を後ろに振り向かせると、


「やぁ、ハルキ君」

「こんにちは、ジキル学院長」


 春樹は伸ばした手を引っ込め、脂汗あぶらあせきながら背筋を伸ばしていた。


「さすが、特編同士の戦い、見ていてハラハラしたよ」

「は、はぁ、ありがとうございます」

「それよりもハルキ君。君は今、自分の魔力を全てを使い切る勢いで、魔法を使おうとしなかったか?」

「え、ま、はい。ジキル学院長が止めていなかったら、俺の魔力を全てリヴェルに当てるとこ――――」

「魔力を全て使い切らない方がいい、死ぬぞ」


 ジキルは真面目な顔で春樹の耳元でそうささやき、春樹から離れたときにはいつもの笑顔を浮かべている表情に戻る。

 一体、さっきの言葉はどういう意味なのだろう?


「君は高位魔法を使わない方がいい。すぐにれて散るだけだ」

「それって、どういう意味なんですか?」

「人の体に流れる魔力は、言わば生命力の一種なんだよ。本来、小学生の一年生から習うことなんだが、君には伝え忘れていたよ」

「え、魔力が生命力?」


 春樹は困惑した顔で首をかしげげる。


「まぁ、一気に使わなければいいだけのことさ。魔力が切れかかると、魔力限界マジックダウンというのが発動する。人の体力にも限界があるように、魔法は自分の一日分の生命力を削りながら魔法を使うため、限界が近づいてきたら脳が体を通じて、魔力を使わせないよう完全にシャットダウンさせてしまう」


 なるほど、少量の魔力で魔法を使う分には問題ないんだな。


「そして、先ほどのハルキ君がしようとしていた事は魔力を一気に消費し、魔力限界を超えてしまうと全魔力放出リミットアウトといって、生命力を体から全て使い果たした状態。つまり死を意味する事なんだ」


 春樹は神経を逆なでされたように体を震わせる。

 つまり俺は、たかが模擬戦に勝つために、死のうとしていたってことか。あの時、ジキル学院長が止めていなかったら死んでいたのか俺?


「次からは魔力を使い過ぎないように、戦い方を考えることだね。だけど、エアガンで戦う発想はなかなか良いと僕は思うよ」


 ジキル学院長は、上着を振り払うようにこの場から立ち去ると、まるでかすみのように消えてしまった。


「ハルキ、あなた体大丈夫なの? どこもおかしくない?」


 後ろからリヴェルが心配そうな顔で近づく。


「今のところは何も問題ないぞ」


 むしろ、何か問題があるとしたらリヴェルの方である。態度がいきなり、手のひらを返したように変わっている。

 心配してくれるのは嬉しいんだけど、なんかリヴェルらしくないというか、調子が狂うというか。リヴェルもこうして見ると、普通の女の子なのかもしれない。最初の出会いは印象最悪から始まったが、今はただの優しい美少女じゃないか。


「なら、よかった。もし、これでハルキが死んじゃったら、私ゼウス様に合わせる顔がなくなっちゃうしね。はぁ、本当によかった」


 お前はどこの心配してんだよ。さっきのは撤回てっかい、やっぱ、ただのムカつく女だった。

 リヴェルはいつもの表情と態度に戻る。


「リヴェル、まだ勝負は終わってないよな?」


 春樹は少し後退りながら、右手からファイアボールを手のひらに出現させる。


「ハルキさん、顔が笑ってないんですけど。そこは、ね、ほら、ちゃんと笑いましょう」

「アハハハハハハ」


 春樹は無表情で笑いながら、ファイアボールをリヴェルに向かって放った。


「ひっ……」


 少しの衝撃と爆音が春樹を包み込み、気絶したリヴェルとともに横で倒れた。


キーン、コーン、カーン、コーン――――


…………………。


「とりあえず授業終わったし戻るか」

「そうね、この後の授業に遅れるわけにもいかないしね」

「俺、トイレ行ってくるわ」

「あ、俺も」


 少しの沈黙の後、気まずそうにこの場からクラスメイトがグラウンドから立ち去る。


 その後は、ミユルとミヅチが保健室の先生を呼び、春樹とリヴェルは保健室のベッドの上で半日寝ていた。


 それから二人は、あれ以来、模擬戦の授業は真面目に受けるようになった。

感想や訂正以外にも、意見なども待っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ