第六話 『魔法学院で新たな高校生活を!・後編』
いやー、みなさんも心に思っていたかもしれませんが、この小説の題名には“エアガン”と入っているのに、今までエアガンが登場してきたのは、なんと一話目の冒頭と中盤だけでした。
はっきり言って、タイトル詐欺ですね。
けど、この話には、やっとエアガン先輩が登場したので、出来れば期待して見ていってください。 これからもこの小説をよろしくお願いします。
「ふぅー……」
男子寮の二〇三九号室の玄関までついたところで、思わずため息を吐く。
今日は疲れた……今日はいつも以上に疲れた。朝から猛ダッシュで男子寮から職員室まで走ったり、午後の授業では、模擬戦で負けた挙げ句に、自分の魔法師ランクがあんなにも残念。
しかし、この扉を開けたところで、お帰りやお疲れ様、と出迎えてくれる人はいなかった。
ミユルを置いて先に来てしまったので、今は一人。
風呂にでも浸かろう、などの、思いを抱きながらドアを開ける。そのまま、廊下を通り過ぎ、自分の部屋の扉を開けた瞬間だった――――
「すぴー」
……なんかいるんですけど。
「すぴぴぴぴー」
……なんか寝てるんですけど。
そこには、ルコラがベッドの上で寝ていた。
春樹の頭は混乱しきったままだが、窓の外から流れてきた風の音で理解した。
「不法侵入じゃねーかっ!」
扉を勢いよくバタンッと閉じ、軽く嘆息しながら近づく。
「ああっ……やめてくださいっ。榎木さん、松竹さん」
ルコラを揺り起こそうとしたときに、唐突に色っぽい声を出しながらベッドで悶える。
状況的には榎木と松竹とやらが、ルコラを襲っているようだけど。どこかで聞いたことのある名前だったような……
「や、やめてください。そんなー、二つの穴に、二人の棒が――――」
どんどん事態がヒートアップして、取り返しのつかないことになっていってる。
「ハルキさんの穴の中に」
え、俺!?
「そんなやめてください」
いいぞルコラ、その調子で止めるんだっ!
「やめてくださいっ! ハルキさんが受けなんて、あたりまえすぎて面白くありません」
止める理由がおかしいだろっ!
「はっ、あなたは枝凜技さん。もうハルキさんに残っている穴は無いんです、帰ってください」
なんか三人目が来た。嫌な予感がする……
「お、やりますね。同じ穴に二本挿そうというわけですか」
いや、絶対無理だから、止めてあげて。
静かに揺り起こそうと思ったが、春樹は拳の形をつくり、ルコラの頭部にぶつける。
「ふぇっ? ……ハルキさん穴は?」
「穴はじゃねぇよ」
ルコラは寝ぼけ眼で周囲を見回しながら、ベッドから起き上がる。
「おはようございます、ハルキしゃん」
「あぁ、おはよう。じゃねーよっ! 何で俺のベッドで寝てんだ」
いや、あまりにも笑顔が無垢で自然すぎるから、普通に返してしまった。
「それはですね、かくかくしかじか……」
ルコラはベッドに座りながら、ジキル学院長と春樹が消えた後の事を語る。
春樹達が消えたあとにワルプルギス魔法学院に行ったこと、その後にジキル学院長に会ったこと。
そして、この学院に入学が決まったこと、だけど今日は泊まる場所がなくて、たまたま春樹の寮室を見つけて、春樹のベッドで寝ていたこと――――
すべて聞き終えると、春樹は深くため息を吐いた。
「内容は全部分かった。ルコラ、このあとは何処で寝泊まりするつもりだ?」
「勿論、ハルキさんの部屋に決まってるじゃないですか。頭どうかしちゃったんですか?」
「いや、頭おかしいのお前だからね」
春樹は右肩の装甲からスマホを取り出し、昨日もらったジキル学院長のアドレスを開いて通話ボタンを押す。
『もしもし、ハルキ君』
「あの、ジキル学院長。ルコラが僕の部屋にいるんですけど、部屋ってないんですか?」
『なにを言っているんだい? ルコラの部屋ならちゃんと用意してあるりますよ。今からそっちに行くので切ります』
と、一方的にぶつりと切られる。
「おまたせ」
相変わらずの神出鬼没なテレポート。
「すまないハルキ君。彼女は方向音痴で、地図を見ても迷子になるんだ」
よく、それでゼウス様の護衛役が務まるな。
「今からルコラの部屋に行きます、ルコラ来てください」
ルコラはジキル学院長のところに移動する。
「それじゃ、失礼するよ」
「また明日よろしくです、ハルキさん」
ルコラは春樹に手を振りながら、ジキル学院長と共に姿を消す。
……一体何だったんだろう。
春樹は制服を脱ぎ、私服に着替えてから、制服をハンガーにかけてクローゼットにしまう。
「暇だな」
ミユルが戻ってこない間はやることが何も無い、ゲームは勿論、動画も見ることが出来ない。ネットが使えないことは、こんなにも退屈なことなのか。
自分の部屋のまわりを見渡し、何か面白い物でもないかと探していたところ、目にとまったのは。
「……エアガン」
すっかり忘れていた。魔法の印象が強くて、エアガンの存在を完全に忘れてた。
まさか、異世界に来て、初めてエアガンが暇つぶしに使えるなんて思いもしなかった。
春樹は袋の中に入っているエアガン全てを部屋中に広げた。
ラインナップは、ハンドガンが九挺、サブマシンガンが三挺、ライトマシンガンが二挺、ショットガンが二挺、アンチマテリアルライフルが一挺、二千発ほどBB弾が入っている袋が五袋。
「こうしてみると壮観だな」
諭吉先生を三枚消費しただけのことはある。
春樹は、全てのエアガンにBB弾を詰めると、鏡に向かって、自分なりの格好いいポーズを模索していた。
そして、春樹はあることに気が付く。
「これって使えるんじゃね?」
武器として使う分には文句なしにいいとは思うが、おそらく、少しの火力でも攻撃魔法に当たったら、木っ端みじんになるだろう。
「まぁ、そういうことは後で考えるとするか」
春樹はベッドの上に、的となりそうな箱を置いてから距離を取り、ハンドガンを構えながら箱を目で捉えながら撃った。
箱は当たった衝撃で後ろに飛び、BB弾が埋め込まれた痕が残されていた。
「いいぞ、これ使えるぞ」
春樹は、倒れた箱をもう一度ベッドの上に置き、また撃った。
それを繰り返す間に、はまっていった春樹は、いろいろな角度や物で試し打ちをする。
「ハルキさん、何をやっているんですか?」
「おお、ミユルか。おかえり」
「ええ、ただいま。……何ですか、それ?」
ミユルは初めてエアガンを見て、興味深そうに近づいてくる。
「おもちゃか何かですか?」
「まぁ、間違ってはいないけど。これは俺の武器だ」
「武器ですか? こんなに小さいのが」
ミユルは、手に取りながらエアガンを凝視する。
「ああ、エアガンって呼ぶんだ」
「えあがん? 初めて聞きました、その武器の名前」
それはそうだろう。多分、この世界にはない物だからな。
「格好いいですね、その武器」
「まぁな」
「夕飯の用意を今しますから、少し待っててくださいね」
ミユルは自分の部屋に戻って行き、制服から私服に着替えたあと、早速、夕飯の用意をしていた。
その間春樹は、エアガンの試し打ちをしていた。
「これもうまいな」
「ありがとうございます」
今朝の食事は少し冷めていて、ちゃんと味わえなかったけど、今回はちゃんとした出来たての状態だ、まずいはずが無い。
「あの、ハルキさん。今日の模擬戦のことなんですけど、ハルキさんって魔法使えないんですか?」
ミユルは真剣な表情で聞いてきた。
春樹は口の中に詰まった食べ物を水で流し込み、朗らかに言った。
「ああ、使えないよ。というか、魔法なんてつい最近あるってことも知らなかったんだからな」
「ええ!? 知らなかったんですか?」
やべっ、口が滑った。
春樹は焦った表情で席を立つが、ミユルはまたもやひたむきな表情で言う。
「ハルキさんのいたところって平和だったんですね。魔法が無くて、戦争も争いもない……」
ミユルは顔を下げながら、拳を強く固めた。
「そうでもないよ。俺のいたところじゃ、戦争なんてどっかで起きてるし、見えないところで人がたくさん死んでる。魔法がなくてもそういうのはどこでもあるんだよ」
そう、人の歴史には戦争が付きものだ。もし、争いの無い世界があったなら、住んでみたいものさ。
「さっき見せた武器あるだろ」
ミユルは小さく頷く。
「あれだって、俺のところじゃ、人を殺すために作られた戦争の武器さ。レプリカだけどな」
「あんなに小さいのに?」
「小さくたって、人を殺せれば何でも武器にはなる」
春樹は椅子に座り、腕を組む。
「でも、おれのいたところじゃ、治安も良いし、他と比べたら平和な国なんだぜ」
「いつか行ってみたいです。ハルキさんの故郷に……」
「それは分かんないけど、出来たら連れてってやるよ」
「本当ですか?」
「本当だ」
さっきまで暗い表情だったユミルは、いつもの笑顔に戻り、活気があふれたように立ち直る。
「約束ですよ」
「ああ、分かった」
小指同士を繋いで、約束の近いをして切り離す。
この小指一生洗わねぇ。
「なんか眠くなってきちゃいました。僕、もう寝ますね。おやすみなさい」
「ああ、お休み」
頬を少し染めながら、ポカンと口を開け、無意識に右手を振る。
ミユルは少しステップしながら、自分の部屋に戻る。
「あれ、なにこれ?」
これってギャルゲーでいわゆる、フラグってやつじゃね? いやいやいや、考えてみろ。相手は男だぞ、男なんだぞ。これはフラグって言っていいのだろうか? そうだ、これは男の約束だ。そうだ、そうしよう。決して変な期待はするなよ伊東春樹。
春樹はリビングと、ダイニングの明かりを消しから自分の部屋に戻っていった。
春樹はそのままベッドに潜り込み、バクバクと鼓動している胸元を押さえつけながら、深呼吸を繰り返し、落ち着くまで眠れなかった。
朝目を醒ますと、今回ミユルはいなかった。
窓を全開に開け、気持ちいい風を浴びながら、ついでに部屋の換気をする。
今朝は意外と早く起きたため、風呂に入っても時間は余っていた。
制服に着替え、右肩の装甲にはスマホ、両腰の装甲にはハンドガンを一挺ずつ入れた。
「ハルキさん、おはようございます。今朝は早いですね」
おかげさまで、昨日の夜はあまり寝れなかったよ。
「ああ、おはよう」
苦笑いを浮かべながら、頬を掻く。
「今、朝ご飯作りますね」
ミユルは、少し寝ぼけ眼で自分の部屋に戻って制服に着替える。
おそらく、昨日のことがあってミユルも眠れなかったのであろう。
「「いってきます」」
朝ご飯もしっかりと食べ、弁当も持った、今日こそはミヅチに勝つぞ。
「ハルキさん、今日はやる気ですね」
「登校二日目でへこたれられないからな」
昨日はドタバタとしていたが、今日はゆっくりと登校できそうだ。
――――教室――――
「おいハルキ、昨日は大丈夫だったかよ」
教室に入ってきたミヅチが心配そうに駆け寄ってきた。
「当たり前だろ。それより、今日は負けないからな覚悟しとけよ」
「おう、手加減しないからな」
と、横からクラスメイトが数人ほどよってくる。
「おっ、やっと本気かよ」
「特編の魔法見てみないな」
「きっと凄いわよ」
ミヅチと春樹は頬を掻きながら、苦笑いで誤魔化した。
「大変だ大変だ。みんな聞いてくれ、今日このクラスに編入生が二人も来るぞ」
廊下から駆け足で来たクラスメイトが、唐突にそのようなことを言う。
当然、教室は歓声と雄叫びに満ちた声で響き渡る。
「聞いたかよハルキ、昨日はお前が編入したばっかなのに、もう新しい特編の奴が来るぜ」
勿論知ってるいる、そのうちの一人はルコラと確定しているが、もう一人は一体誰なのだろう。
「しかも二人とも美少女だぜ」
ルコラが美少女とか、目が腐ってる。性格知ったら、絶対印象変わるぞ。これは、もう一人の美少女とやらに期待するしかないな。
「おい、お前ら席に着け! 今日は朗報だぞ」
クラスメイト(男性)はウキウキとしながら、フレイの言葉を待っていた。
「連続でこのクラスに編入生が二人も来る」
昨日とは比べて、随分と力のこもった声。
それを、昨日出して貰いたかったんですけど。
「入ってこい編入生」
そして、扉が開かれる。
まず、最初に現れたのはルコラだった。まぁ、これは予想していた通りだったが、問題は次の編入生である。出来れば、清楚でお淑やかな可愛い美少女でありますように。
そして、姿を見せた美少女は――――
「は!?」
春樹は間抜けな声を上げながら、椅子から転げ落ちた。
姿を見せた美少女とは、リヴェルのことである。
春樹は身を起こし、座り直す。
「今日編入してきた、ルコラ=マーガレットと、リヴェル=ノエルガ・バレンシュタインだ」
教室はまたもや歓声と雄叫びに包まれたが、フレイが黒板を叩き、それを見た生徒は一瞬で静かに席に着いた。
「自己紹介しろお前ら」
「はいっ、私はルコラ=マーガレットと言います。みなさんよろしくです」
ルコラは頭をぺこりと下げる。
「私はリヴェル=ノエルガ・バレンシュタインと言います。まだこの学校に来たばかりなので、出来れば仲良くしてください」
うさんくせぇ、絶対うわべだけのやつだ。
「そうだな、席は……めんどくさいし、ミヅチの後ろでいっか」
いつもの懶教師ぷっりが発揮され、ルコラとリヴェルはミヅチの後ろの席に座ることとなった。
「ねぇねぇ、リヴェルさん。前の学校では何をやっていたの?」
「私、お料理とか得意だったから、料理部だったわ」
絶対嘘だろ。
「リヴェルさん髪綺麗だね、どこのシャンプー使ってるの? 今度教えてよ」
「企業秘密」
危ない香りがめっさしてくる。
一方、ルコラは――――
「ルコラちゃん可愛いね、お菓子あげちゃう」
「ありがとうございます。はむはむ」
「きゃー、可愛い。もっとお菓子食べて」
餌付けされとるやん。
「ル、ルコラさん。この松竹のお菓子も食べてみない?」ハァハァ
おまわりさんこっちです!
「ねぇ、ハルキ」
リヴェルが腕を組みながら、近寄ってくる。
「何だよリヴェル」
と、春樹がリヴェルの名前を言った瞬間だった――――
「ねぇ、今の聞いた?」
「うん、聞いた聞いた。二人ってもしかして知り合いなのかな?」
「もしかして、彼氏彼女の関係だったりして」
「「キャー!!!!!」」
クラスの女子が輪になって固まりながら、こそこそと話しているのが、漏れて耳に入る。
そして、クラスの男子は、まるで親の仇でも見るような目で春樹に送りつけている。
頼むから、俺に平和な日常を返してくれっ!
と、春樹は心に思いながら、窓の向こうの空を見上げた。
はい、これでやっとエアガンも出たということで、これから春樹はエアガンをメインに戦っていきます。多分……
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