第一話 『扉を開くと、そこは異世界』
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「重い……」
涼しい真夏の夜に伊東春樹は一人でエアガンなどのサバゲーグッズが入った袋を持って、遊歩道を歩いていた。
今日は夏祭りがあるせいか、人がやたらと多い。特にカップル。
春樹は周りの視線をもろともせずに足を動かす。
「はぁ、帰りたい」
春樹は大きくため息を吐いて、駅のホームで電車を待つ。
そもそも、こんなにサバゲーグッズなんて欲しくて、わざわざ隣町まで来たわけじゃない。
数量限定の最新ゲーム機が欲しくて、ここまで来たのである。
「あの店主、絶対に詐欺師だ」
今思い返してみると、結構単純な話だったのかもしれない。
特賞にはゲーム機、その他の賞にはエアガンや子供が喜びそうな玩具がくじの数だけあった。つまり、あの店主は最初から特賞の最新ゲーム機などのある景品を取らせるきはなかった。
おかげで財布はほとんど空っぽだ。
周りからはガチ勢のような目で見られ、今でも二人の女子高生が春樹を見ながら引いている。
春樹は苦笑いをし、思わず宇宙を見上げる。
「はぁ、今夜はカップ麺か……」
タイミングよくむしの腹が鳴る。
「大トロとか食べてみたいな」
そんなことを考えている間に、気付いたら家の前に到着したいた。
あっという間に過ぎたこの時間で学んだことがひとつある。
「高校を卒業したら、もう家から一生でない!」
玄関の目の前で大声で言い切り、落ち着いた表情で玄関の扉を開けると――
暖かく爽やかな風が全身を包み込むように吹き抜けてきた。
優しくて、心地の良い風。都会にはない新鮮な風が自然と足を運ばせる。
まぶしい日差しに邪魔されながらも目を開けると、そこには一面の草原が広がっていた。
花畑が広がる草原はベッドのようにフカフカしていて、気持ちよさそうだ。
「ん? 草原、それに朝?」
周りを見渡し、状況確認をする。
服装や荷物は扉を入った時のまま、おかしいのは周りの風景である。
ゲームのやり過ぎかと考え目を擦るが見ている光景は変わらず、夢ではないかと思い頬を抓ってみるが、
「痛っ!」
痛みがある。
春樹は腫れた頬を押さえ、怪訝そうな顔で宇宙を見上げる。
「鳥、か?」
鳥とよぶにはあまりにも大きく、どちらかといえばコンドルや鷹に近い。
ファンタジーゲームとかでよく見る動植物が目に入るが、地球の最新ゲーム機でもこんなリアルには体感できない。
「おいおい、なんだここは? 夢か、それとも幻か?」
確信は持てないが出来ればそうであってほしい。夢なら覚めないでほしい。
「ファンタジーゲームのやりすぎでとうとう頭がおかしくなったのかな。だけど、こんな最高の夢楽しまなきゃ損だよな」
興奮で震えが止まらず、思わず草原を駆け抜けようとした瞬間――
「おい待てよ、まさか」
勢いよく後ろに振り向くと、そこにはサバゲーグッズの入った袋とバックしかなかった。
「嘘だろ」
慌てて元にいた場所に戻ると、春樹はきょろきょろと周りを見回したが、きれいな草原と自分の荷物しかなかった。
「帰り道がない」
咄嗟に頭を抱えしゃがみ込む。
せかっくの異世界だというのに、喜ぶどころかはしゃぐ余裕もない。
「いや、待てよ。これは夢だ、きっとそうだ、夢に違いない、夢じゃないと詰む」
目が虚ろになりかけている春樹は力が抜けたかのように仰向けに倒れる。
「俺、ここで死ぬのかな……」
お金どころか食料すらないこの状況、かなりまずい。
「こんなきれいな草原の中で死ぬのも悪くないかも」
暖かい風に包まれながら春樹はそっと目を閉じる。
冷たい夜風によって目を覚ました春樹は、ゆっくりと身を起こした。
辺りはすっかり暗闇に包まれ、夜空を見上げれば大きな月が二つある。
まだ夢の中か。
「夢じゃないわよ」
まるで心の中を読んでいたかのようなその台詞は、春樹を自然へ後ろに振り向かせた。
そこには椅子に座った少女がいた。
その姿は美少女というより女神に近いかもしれない。
胸はつつましやかだが、体の曲線は女性らしく、腰は驚くほど細い。双眸は青空のような透き通った目をしていて、腰にまで行き届いた長い髪の色は、白に近いクリーム色をしている。
手に持っている杖は先に水晶のような球体がくっついている珍しい物だった。
「起きないから、てっきり死んでいたかと思っていたわ」
その少女は足を組み替え、手元に持っていた分厚い本をすらすらとめくる。
「えっと、名前は――伊東春樹か……普通ね」
なんだろう、この子初対面の相手に。
それよりも俺、この子に名前いったか?
春樹は顎に手を当てながら考え込んでいる間に、その少女は春樹のプロフィールを読み進める。
「伊東春樹さん」
少女は本をバタッと勢いよく閉じ、立ち上がる。
「は、はい」
思わず息を飲み込む。
「単刀直入に言うと、死んでください」
え、今なんて言ったこの子!?
唐突にそのようなことを告げられ、春樹は唖然と少女を見た。