出発原点
―二日後の夜―
時空列車にギリギリで乗り込み、一段落と一息着いたカオルと山海の二人。
機内でカメラの整備をしながら山海は編集長の言葉と姿を思い出す。
「良いか、危険だと感じたらすぐ帰ってきて良い。安全と安心が最優先だ。
特にカオル君!君は形振りかまわず突っ走る癖がある。
山海君は少々天然の気はあるが監視役にはもってこいだろう。」
「モノを見つける天才とそのストッパー、君達はチームだからな!忘れるんじゃないぞ」
そう言われても…この人なんか冷たいし…
山海は曇る先行きへの心配か、母からの形見のペンをいじり始める。
ペンに視線が行くと、
更にもうひとつ編集長からの餞別を思い出す。
「そうそう、これはお守りだ。持っていきたまえ」
そう手渡されたのは、ペンライトだった。
「…着かないですよ」
「なんですか!電池はこっち持ちですか?ケチですか!?」
「いや点っとるわ!電池もたっぷり入れとるわ!
肉眼ではほぼ見えないんだと。」
「それはブラックライトに近い性質の品らしい。
なんでもオカルティックな場面で効力を発揮するとか。」
「通常のライトと合わせてそれの真偽を試してもみてほしいんだ」
―――物思い、もとい思いだしに耽っていると
カオルが山海に話しかける。
「君は、なぜこの仕事を受けたんだ」
山海は突然の質問にやや驚くが、一考えして、答える。
「食べ物の…」
直後にカオルは首を振る。
「違う。君は編集長持ちの食事を楽しむ為ではない、取材をしたいからこの仕事を受けたんだ」
目を丸くする山海に対してカオルは話を続ける。
「ジャーナリストの一員として。
あくまで記者の誇りにかけて、君はこの依頼を いや、この仕事に就いた」
目が転がる。
まだ殆ど言葉を交わしていないのに彼はなぜここまで分かったのだろうか。
「そんな顔をしたってことは図星である?それともかなり近いかな」
気心はまだ交わしていないのに彼女の志望動機まで当てるとは。
彼には隠し事が通用しないのではないだろうか。と眉をひそめていると
まるでシャーロックホームズになったかのように得意気な態度でカオルは話を続ける。
「簡単な事だよ。君のカメラ」
「君が選んだにしてはベルトが厚い。
ウチの備品は体型に合わせて調整しても良いことになってるのに」
「そのペンにしたって。
ドイツ製。白金の彫金加工、それはオーダーメイドじゃあなきゃ出来ない代物だ。そちらはお母さんのものかな。
「おそらく君の両親は著名なライターで、
君はその記事を夢見て眺めて育ち、ここに就いた。
その後長らく下積みを経てようやくこの依頼を受けた。
どうだい、当たってるかな?」
「引くぐらい当たってます!」
目を輝かせて山海はそう言った。
続けてこうも言う。
「正直怪しい人かと思ってましたが、いやはやすごいです!探偵みたいで胡散臭い気もしますけど、とにかく凄まじい推理力で…あ、カオルさんって意外とおしゃべりなんですね!」
「君は正直で良いやつだ、だがその真っ直ぐさは彼女に…、いや 何でもない」
「どうしたんですか?泣いてるんですか?」
山海に差し出されたハンカチを頬にカオルは呟く
「君に心を抉られてね」
夜行列車はまだ進む。