【第十二章】ー終焉ー
体内のキャスターと人格が入れ替わった天野宮詩帆。
その状態で強敵・ヒエンと対峙するが、防戦一方に。
そんな中、波木秋透が軍の歴史を塗り替えた。
不完全と云われていた《憑依型》の完全型、《結合型》となった秋透。
そしてその後現れた人物とは……!?
コネクターになってからあった、何とも言い表せない違和感。
自分の中に誰かが居るという、慣れない感覚。
それはアキトが傍に居るという、証明だった。
けど、今はそれが、なくなった。
全身が軽くて、視界が明るい。
でも同時に、少し寂しい気もする。
今までは意識せずとも感じられたアキトの存在が、分からない。
けれどそれはアキトが居なくなった訳ではなくて。
『行ける? 秋透』
秋透とアキトの存在が、混じり合ったからだ。
「ああ。行こう、アキト」
互いの存在は変わらず在る。
トン、トンと爪先で地面を軽く叩くと、次の瞬間、秋透は思い切り地面を蹴った。
向かう先はヒエンの下。
シホが応戦している、ヒエンに斬り掛かる。
「秋透!?」
耳を塞ぎたくなる程の、轟音が響く。
甲高い金属音が大気を揺らし、その勢いは土埃を上げる程だ。
シホが目を見開いて声を上げると、秋透は刀でヒエンを突き飛ばし、シホに向き直る。
「! 貴方、キャスター?」
秋透の気配から何かを感じたらしいシホがそう訊いてくる。
が、しかし、
「いや、俺はコネクターだよ。ちょっと、タイプが変わったかもしれないけどな」
「……ああ。そういう事か」
シホは知っていたのだろうか。
《憑依型》の完成形、《結合型》の事を。
いや、だが今は考えるべきではない。
そう思って、秋透は再びヒエンを見た。
するとヒエンは、眉間に皺を寄せて、鋭い眼光を秋透に向けていた。
「チッ、面倒臭ぇのが出てきやがったか、こりゃ。……んじゃ、良いや」
気だるげにそう言うと、ヒエンは槍を持ち直し、
「もうお前、先に死んどけ」
一言告げて、シホに向かってきた。
当然シホと秋透は反応した。
けれどヒエンの動きが速すぎて、シホは反応し切れなかった。
秋透が刀を構えた、その時。
「おいおい。俺の可愛い妹を、あんま傷付けんでくれよ」
「「「!?」」」
不意に聞こえた、聞き覚えのない声。
その声に、その場の全員が目を見開いた。
そして次の瞬間、ヒエンの姿が消えた。
いや、消えたのではない。
吹き飛ばされたのだ。
突然現れた、新たな人物によって。
遠くで鳴り響いた衝撃音。
ヒエンが崖に衝突したのだ。
しかし秋透とシホは、それを見ていなかった。
別の、すぐ近くに現れた、一人の青年に気を取られていて。
「貴方は……っ」
赤が混じったような、癖で跳ねた黒髪。
切れ長の赤い瞳。
限りなく整った容姿。
シホは、詩帆は、その人を知っていた。
「季覇…兄様……」
シホの、いや、詩帆の声に、季覇はふっ、と微笑んだ。
「おう。久し振り、詩帆」
ニカッ、と白い歯を見せて笑う季覇の姿に、優しく髪を撫でられるその温もりに、詩帆は目の縁に涙を溜めた。
「兄様…季覇兄様……っ。よくぞ、ご無事で……っ」
「……心配掛けてごめんな、詩帆」
哀しげに微笑む季覇。
詩帆は頬を濡らしながらも、何度も季覇の名を呼んだ。
「! ……詩帆、お前……」
「? 兄様……?」
不意に真剣な表情になった季覇。
詩帆の、普段より濁った瞳を見て、思わず目を見開いた。
「詩帆、ちょっとごめんな」
「?」
瞳を伏せると謝り、季覇は詩帆の肩に手を乗せた。
そして一瞬にして、詩帆の首裏を叩いた。
か細く声を漏らすと、詩帆は脱力し、季覇の腕の中に倒れ込んだ。
「詩帆っ!?」
「大丈夫、気絶させただけだから。こいつ、入れ替わりしてたでしょ?」
「!?」
季覇は、一目で気付いたのだ。
詩帆がシホと入れ替わっていると。
「入れ替わりって、鏡界では稀によく起こるんだ。元々キャスターの生存域だからかね。けど入れ替わりは、起きない方が良い」
「元の人格に、戻れなくなるからですか?」
淡々と話す季覇に、秋透は訊いた。
「んー、まぁそれもあるけど……。あんまり長時間入れ替わってると、戻れたとしても、《力》が使えなくなる場合があるんだよ」
「!?」
それは、初耳だった。
恐らく、アキトも知らなかったのだろう。
「見た所、それなりに長く入れ替わってるでしょ、詩帆。だからちょっと、寝て貰った。結構疲労してるみたいだったし」
「ああ……」
季覇は、恐らくかなり強い。
来たばかりだというのに、もう大体の状況を把握している。
流石は天野宮。詩帆の実兄なだけはあると思う。
「さて、と」
詩帆を抱え直すと、季覇は秋透に向き直った。
全身をまじまじと見られ、そして不意に季覇は首を傾げた。
「あれ? 君、自力で《結合》しちゃったの? 凄いね」
などと言う季覇に、秋透は呆気に取られて呆然とした。
「え、あの、貴方も《結合型》に……?」
秋透が訊くと、
「ん? ああ、いや。知識として知ってるだけだよ。そもそも俺は《捕食型》だし。長く鏡界に居ると、キャスターと関わる機会もあってね。上位キャスターに教えて貰ったんだよ」
「ああ、成る程……」
ニッ、と笑うと、季覇は秋透から視線を外し、遠くに居るヒエンを見た。
先程までとは別人な、鋭い眼光を宿して。
「さっさと掛かって来いよ、キャスター。すぐに終わらせてやるからよ」
挑発するように言う季覇に、
「チッ、舐めやがって……。ぶっ潰してやる」
「はっは~。出来るもんならな、ガキんちょ」
「殺す」
「だからやってみろって」
挑発に挑発を重ね、ヒエンを煽る季覇。
怒りを露にして一気に距離を詰めてくるヒエン。
対して季覇は落ち着いたまま、むしろ楽しげに、右手を掲げた。
「《霧縄》」
季覇が言うと、その手の中に一本の鎖が現れる。
季覇の《力》である、黒い鎖、《霧縄》。
そして、
「変化しろ、《霧縄》」
そう言うと、《霧縄》を《波動》が包み、形が変わる。
まるで、詩帆の黒鎌のように。
黒の鎖の両端に、鋭く尖った、磨き上げられた刃が出現した。
「それ……」
秋透が声を漏らすと、
「ん? ああ、これか。《波動》の応用だよ。コントロールの上手い奴なら誰でも出来る」
「へ、へぇ……」
(じゃあ俺は向かないな)
何て内心で思いながら、秋透も《護鬼》を持ち直した。
「随分と久々だなぁ、ヒエン? 俺の事覚えてっか?」
軽薄な笑みを浮かべ、ヒエンと応戦しながらも言う季覇。
余裕の表情で攻撃をかわす季覇に、ヒエンは鋭い眼光で睨み付ける。
「忘れるかよ、天野宮季覇! この死に損ないがぁ!!」
今までにない程の速さで放たれた突き。
しかし季覇は詩帆を抱えたまま、片手でそれをいなす。
「そりゃ良かった。あん時は世話んなったなぁ。まさか”俺等”を殺す為にあんな軍勢を連れてくるとは思ってなかったもんでな? けどまぁ……」
攻防の最中、季覇は不意に遠くに倒れている悠を見遣り、薄く笑う。
「アイツがちゃんと生きて帰っててくれて、良かったよ。それだけで、俺がここに残った意味があったしな」
などと、言う。
それは、十数年前の出来事。
「なら今すぐにその意味を無くしてやろうかっ!?」
そう吐き捨てるように言うと、ヒエンは季覇ではなく、意識のない悠に向かって走った。
が、その前に秋透が立ち塞がる。
「お前の相手は俺等だろ」
「テメェ……ッ」
槍を弾かれ舌打ちをするヒエン。
そしてその後ろから、季覇が鎖を伸ばす。
「良く出来ました、少年君。意識のない悠に攻撃なんて、させる訳ないだろ?」
「クソがっ!!」
「ははっ、何とでも」
ヒエンの首に鎖を巻き付けると、季覇はそれを力の限り引っ張った。
ギャリン、という金属音が鳴り響き、同時に、ヒエンの声が漏れる。
「あ、そうだ。ねぇ、君。名前何ての?」
全く緊張感のない声音でそう訊いてくる季覇に、秋透は毒気を抜かれてしまう。
「えっと、波木秋透ですけど……?」
「! 波木か……ふぅん」
季覇は秋透の父、明峰元帥を知っている。
だから、一瞬目を見開いたのだろう。
「ペラペラ喋ってんじゃねぇよ!!」
激昂した様子で鎖を千切ろうとするヒエン。
鎖に槍を突き立て、目の前の秋透を蹴り飛ばす。
「ガ……ッ!!」
「ありゃりゃ、痛ったそぉ~。けど君、丈夫そうだね?」
血を吐きつつも何とか堪えて立つ秋透に、季覇は笑ってそう言う。
「……何か、あんまり似てないですね、詩帆と」
呆れたように言うと、
「ははっ、まぁね。けど実の兄妹だよ。正真正銘ね」
不意に、季覇の瞳が鋭くなった。
その変化に気付いた秋透は背筋に寒気が走り、ヒエンも目を見開いた。
「はい、プレゼント」
そう言いながら、季覇はヒエンの前に札を投げた。
数十枚もの呪符の束を投げつけて、
「爆」
一言呟いた。
同時に自身はもう数枚の札を取り出し、目の前で発生した爆発を防ぐ。
「スゲェ……」
ただ、圧巻の一言だった。
キャスターと入れ替わった詩帆でさえ、勝てなかった。
《結合型》になった秋透でさえ、きっと敵わない。
何故ならヒエンは、今までの戦闘で本気を出していなかったから。
にも関わらず、季覇は鮮やかに、手際よく、遊ぶように、ヒエンを圧倒した。
視界に映る、全身を焼かれて倒れるヒエンの姿。
魔槍にも傷が入っている。
(これが、天野宮元時期当主候補の実力……)
秀静や悠と同じ、いや、恐らくそれ以上に、強い。
秋透も参戦しようと刀を強く握って一歩踏み出すと、しかし季覇がそれを制した。
「あー、ごめん、秋透君。君はここで詩帆抱えて見ててくんない?」
「は……」
見てる、だけ?
「けど……」
「大丈夫、大丈夫。俺強いから」
それは、分かるが。
しかしすぐに納得出来るものでもなかった。
「ほい、詩帆。宜しくね」
「わっ、と……」
「ははっ。ナイスキャッチ♪」
不意に詩帆を投げて寄越され、反射的にそれを抱き止めた。
すると季覇は秋透に背を向け、
「じゃ、ホント宜しくね。で、出来るだけ離れてて」
「はぁ……」
季覇の意図が読めない。
二対一に持ち込めるのならば、その方が楽に勝てるだろうに。
いくら秋透が季覇の足元にも及ばないといっても、居ないよりはと思うのだが。
「あ、別に秋透君が足手まといだとか、そんなんじゃないから」
「……?」
本当に、読めない。
先程までと変わらぬ軽い口振りなのだが、それでいて何処か真剣みを帯びているのだ。
「ただ、俺加減苦手でさ。それに、ちょっと苛ついてるから。近くに居たら危ないよって事」
「危ない……?」
「うん。っと」
会話を遮って、再び金属音が鳴る。
「だからうるせぇって言ってんだろうがっ! まだ俺は生きてんだよ!!」
満身創痍ながらも迫力の衰えないヒエンの攻撃。
不意を付かれた攻撃でありながら、季覇はそれを難なく防いでしまう。
「あれ、怒った? 怖~い♪」
「ぶっ殺す!!」
「ははっ。それ、もう聞き飽きたわ」
笑みから一転、冷ややかな表情でヒエンを見据える季覇。
先程まで詩帆を抱えていた左手で、また呪符の束を投げ付ける。
「んじゃ次は、三種で」
「!?」
三つの束を、ヒエンを囲むように投げる。
「呪縛、雷、爆」
言った順に、札がその姿を変えていく。
「……っ!? クソ……ッ!!」
一種目が拘束し、二種目がその雷撃で芯を焼き焦がし、三種目で仕留める。
中々にエグい戦い方をすると思う。
脱力して倒れ込むヒエン。
その姿を見下ろして、季覇はゆっくりと歩を進める。
「カハッ。……やろうと思えば一撃で仕留められただろうに……。悪魔みてぇな奴だな、相変わらずムカつくやろうだぜ、天野宮季覇……」
もう立ち上がれないで居るヒエンを見下ろし、
「お前は俺の大切な妹と、親友を半殺しにしてくれたんだ。これくらい痛め付けねぇと気が済まねぇんだよ。それに、悪魔はお互い様だろ?」
鎖を持ち直すと、季覇はその鎖をヒエンに突き立てた。
頭部を貫いた刃。
吹き出る赤い血液が、辺りを染め上げる。
「これで俺とお前の勝負も終わりだな、ヒエン」
《武器化》を解くと、季覇は秋透に向き直り、言った。
「お待たせ、秋透君。詩帆、ありがとうね」
「あ、いえ……」
詩帆を受け取ると、言う。
「そうだ。もうそろそろ遠くで雑魚を抑えてた第一・三部隊と俺の仲間もこっち来れると思うよ。一件落着だね」
「そう…ですか……。良かった……」
仲間の大量殉職が懸念されていたが、第一部隊と第三部隊は生き残っているのだ。
それだけでも、良かったと思えた。
「君も、よく生き残ったよ。後はもう、ゆっくり休んで」
「え……?」
季覇にそう言われた瞬間、突然睡魔に襲われた。
張り詰めていた緊張が解けた訳ではない。
ようやくそこで、《幻術》が使われているのだと分かった。
しかし分かった所で抵抗する事も、その術もなかった。
ただただ、薄らいでいく意識の中で、「お疲れ様」と、一言そう言った季覇の声が聞こえた。
* * *
音が聞こえる。
規則的に鳴る機械音ではなく、人の声。
女性の歌だろうか。
聞いた事はないが、とても落ち着く歌。
しかしその声には、覚えがあった。
「ん……っ」
不意に届いた眩しい程の光に、顔をしかめる。
薄く瞳を開くと、そこに居たのは……
「詩帆…ちゃん……?」
「!」
言うと歌はピタリと止み、次いでその女性、詩帆が言う。
「ハルちゃん! 良かった、目を覚ましてくれて……。もう十日は眠っていたんですよ?」
瞳を潤ませて、それでも本当に嬉しそうに口元を綻ばせる詩帆。
そんな詩帆に、悠も微笑み掛けた。
「心配掛けてごめんね、詩帆ちゃん。もう、大丈夫だから」
詩帆の頭を撫でると、詩帆は一層明るく微笑んだ。
「寝過ぎだ、馬鹿が」
詩帆の涙を拭っていると、入り口の方から声が届いた。
「あ、秀静? 君はもう大丈夫? 胸刺されてたけど」
「当たり前だ。軟弱なお前と同じと思われたら困る」
「ははっ、確かに。君はタフだもんね」
悪態を吐く秀静に、悠も詩帆も笑った。
「あれ、悠さん! 目覚めたんですね、良かった」
「おお、起きたのか。全員無事で何よりだな」
続いて秋透と和真も現れ、いつものメンバーが揃った。
「お、悠様も起きられましたか。傷はもう治ってますので、一安心といった所でしょうかねぇ」
「ああ、羽取」
「はい。お元気そうで何よりですよ、皆さんね」
相変わらずの張り付いたような胡散臭い笑みを浮かべてそう言う羽取。
が、しかし不意に冷めた視線を、秀静に向ける。
「所で、秀静様? 点滴と包帯は、どうなさいました?」
「…………」
冷ややかに言う羽取に、秀静は視線を絡ませたまま無言を貫いた。
既に諦めの境地なのか、一つ溜め息を吐くと、言う。
「悠様も、もうご自身の部屋にお戻り下さっても大丈夫ですよ。念の為点滴は持ち込ませて貰いますがね」
「うん。ありがとうね、羽取。それじゃ、僕ももう行くよ」
「ええ。では皆さんお大事に」
揃って歩いて向かったのは食堂だった。
する事もなく、時刻が夕方の六時前だったのも理由の一つだろう。
とすると、
「あっれ、悠?」
何処かから放たれた、陽気な男の声。
その声に、一同の視線がそちらを向く。
そして、
「季…覇……?」
目を見開いて立ち尽くす悠。
そこに居たのは、亡くなった筈の悠の同期であり、親友であった季覇だったから。
「よっ、悠。久し振りだな?」
未だ驚きの覚めない様子で立ち尽くす悠。
そんな彼に苦笑して、
「いやぁ、懐かしいなぁ。十二年振りかぁ」
明るく笑う季覇と、微笑んで見守る詩帆。
その二人が並んでいるのを見るのは、初めてだった。
何故なら悠は、季覇を……
「悠?」
「……っ」
不意に呼ばれた季覇の声に、思わず表情が強張った。
その様子に、詩帆も気付いて怪訝な表情で首を傾げる。
「ハルちゃん……?」
心配そうに眉を垂らして、悠の袖を掴む詩帆。
(……ごめんね、詩帆ちゃん。僕は君に心配される資格なんて、本当はないんだ……)
少し力の入った詩帆の手に触れると、言う。
「大丈夫だよ、詩帆ちゃん。ちょっと、驚いちゃって。本当久し振りだね、季覇」
「おう。俺が居なくなってから、ここも随分と変わったなぁ」
言いながら詩帆を見遣ると、季覇は微笑んだ。
「前々から決まってた事だけど、詩帆と悠がそうやって並んでんの見るのは初めてだから、何か不思議だな」
季覇は、詩帆と悠が出会う直前に鏡界での任務に出て、不帰投のまま十二年の月日が流れていた。
もっとも、鏡界に居た季覇からすれば、もっと短い期間に感じていた筈だが。
「丁度良いや。皆で飯食わね? なぁ、秀静? あと和真と、秋透君も一緒にさ」
変わらないと、思う。
以前もこのように、季覇を中心に全員が笑っていた。
その光景が、今、ここにある。
「ハ~ルカ君。早くおいでよ」
「あ、うん。ん?」
季覇に呼ばれて答えると、遠くで秋透が見ているのに気が付いた。
「秋透君も。皆待ってるよ?」
悠が言うと、
「あー……はい。けど、俺は……」
「? どうかした?」
訊くが、秋透は居心地が悪そうに苦笑した。
「俺、何か置いてかれてる気がして……。皆さんは、昔からの知り合いだから仲も良くて、俺なんか最近入ったばっかで……」
「あ……」
その気持ちは、分かる気がしたのだ。
理由は違うが、悠も少なからず、居心地が悪いと感じているから。
「今更何を言っているんですか、貴方は!」
「!」
不意に背中を殴られ、目を見開く秋透。
そこに居たのは、既に見慣れた同期達三人だった。
「朱羽」
「三大名家相手にタメ口使えるくせに、変な所を気にするねぇ、秋透君は」
「真面目なのか不真面目なのか……。よく分からない人」
「吉良、美怜まで……」
「そうだぞぉ、秋透。んなの気にし過ぎだっての。なぁ、清華?」
突然背後から頭を掴まれ、反射的に目を瞑った秋透。
「貴方は気にしなさ過ぎだけれどね、勝史」
「勝史さんのざっくばらんは今に始まった事ではないですけどね」
「まぁ、そこが勝史さんの良い所でしょうからね。ね、京真もそう思うでしょ?」
「時々面倒だけどな」
ようやく解放されて回りを見回すと、そこに居たのは第一部隊の五人、勝史、清華、沙菜、蒼、京真だった。
「うっわ、これまた超久々~! 勝史さん達、チッス」
「相変わらずだなぁ、季覇ぁ。もう死んでると思ってたわ」
「いやいや、俺かなりしぶといっすからねぇ」
本当、誰とでも明るく話す季覇。
そんな彼が、少し羨ましいと思うし、
「ほら、秋透。早く行きましょう?」
「詩帆……」
同時に、そうなりたいと思った。
仲間を全員、自分も無事に助けられる程強く、誰もが笑える環境を作れる、季覇のような存在に、なりたいと思ったのだ。
仲間を全員、この手で、守りたいと改めて思ったのだ。
ある日突然崩れ去った『日常』。
信じられないような出来事が続いて、そして人間さえも辞めてしまった。
滅茶苦茶な世界。
けれどいつの間にか、そんな世界が自分の『日常』になって、そんな世界で、仲間を見付けた。
人間誰しも大切な人は居るだろう。
家族。
友人。
恋人。
しかしその存在が消えた時、人はどうするのだろうか。
どうなってしまうのだろうか。
身の回りに理解出来ない事が起きた時。
もしも、何か一つを失わなければならない状況に陥った時、果たして正気でいられるのだろうか。
例えそれが、作り話だと、お伽噺だと思いたくなるような、そんな出来事だったとしても……生きていけるんだ。
この世界に、人間程不器用で、弱い存在は居ないと思う。
けれど、だからこそ、強くなろうとするのだ。
僅かな希望であっても、それを見失わないように。
その希望を、守り通せるように。
それを、この場所で知った。
だから最後まで、この世界で生きて見せるよ。
そう、決めたんだ。
相対する鏡界世界ーENDー
皆さんこんにちは、巫ホタルです。
私の初作品である『相対する鏡界世界』、ついに完結となります!
ここまでお付き合い下さった読者の皆さん、本当にありがとうございます。
よく聞く言葉ですが、この作品は読み続けてくださった皆さんが居てくださったから出来上がったものであると本当に心から思います。
今の所は二期のようなものを投稿する予定はありませんが、誰か一人でも希望してくださるなら、どのキャラの番外編でも書きます!
秋透を初めとする、相当な人数のキャラクターが出てきたと思います。
中には一話だけでも、主人公と同じような立ち位置で登場していたキャラも居たかと思うのですが、実は書かれなかっただけで、細かな設定があったキャラも少なからず居ります。
まだまだ書き足りなかったキャラも居りますので、是非是非感想とともに気に入っていたキャラなどを教えてくださったらとても嬉しいです。
長々としたあとがきで申し訳ないのですが、最後に一つだけ言わせてください。
私はこの『相対する鏡界世界』を生み出せた事。皆さんと電波越しにでも関われました事、本当に本当に嬉しく思います。
では最後に皆さんへ、最大級の感謝を込めて、ありがとうございました!!
巫ホタル