朝倉麗子
――だが、真夏の太陽が照り付ける本格的な夏を迎えても、朝倉麗子も高橋弥生も運転手の浅野武も見つからなかった。
『路地裏連続殺人事件』がなんの進展もしないため、加納と三宮は頭を抱えていた。
「永ちゃん、このまま手をこまねいていても仕方がないよ。どうする? あきらめるのか?」
「高橋弥生を探すことはあきらめるしかないのか……女は結婚すると姓が変わるから見つけにくい。10年も前だとその可能性が高くなる……クソッ! 絶対の自信があったのに!」
「おれたちは幻の女を捜しているんだな……」
「ああ。早く出てきてくれないかな……」
「あっ! いたいた! 先輩方! 広報から良い話が舞い込んできましたよ!」
考え込む2人のデスクへ、若狭が飛び込んできた。
「広報だ? なんだよ? ゆるきゃらの着ぐるみの仕事か? またかよ……おれの図体がデカイからって、あれは暑いからもう2度と……」
加納が強面をゆがませ、断ろうと口を開いた。
「違いますよ! テレビの公開捜査です! 朝倉麗子と浅野武を出してみないかって!」
「ええっ! テレビで呼び掛けるのか?」
「はい!」
「永ちゃん! 1分でもテレビに映してもらえば、知っている人間が連絡してくるはずだ! そうしよう!」
「そうか……そうだな! チャンスだ! テレビで探してもらおう! こうなったら、全国の市民に協力してもらうしかない!」
加納と三宮は広報へ行き、ただちに公開捜査の手続きをはじめた。オレオレ詐欺や殺人の話は伏せ、昔の知り合いが会いたがっているという設定にした。その日のうちにテレビ局と打ち合わせをした。夜の番組に急にキャンセルが出て、3分間だけ空きが出来たのだ。その穴埋めに朝倉麗子と浅野武の名前と顔写真を出してもらえることが決まった。2人の高校の卒業アルバムを取り寄せた。浅野武の妻とは連絡が取れなかったが、加納の独断で公開捜査を推し進めることにした。
夜になり、テレビの公開捜査がはじまった。朝倉麗子と浅野武の10代の頃の写真が大写しになった。続々と寄せられる電話や速報が流れる様子を、クーラーの効いたスタジオの片隅で加納と三宮はジッと見つめていた。どうか有力な情報が集まってくれますようにと祈りながら。
「永ちゃん、うまくいくといいな」
「ああ……あれ? 浅野武の妻も弥生というのか……そうだよな、女に多い名前だよな。高橋弥生も早く見つかってくれるといいのだが……」
放送は無事に終了した。たった3分間だったが、効果があったようだ。朝倉麗子に似た人物が九州に居るとの情報が多く寄せられた。
「永ちゃん、本人だといいな」
「ああ、九州か……思ってもみなかったな。てっきり、大学のあった東京に居るものと決め付けていたよ」
「九州は朝倉清司が自衛隊のときに駐屯していた土地だ。可能性はあるよな」
「そうだな。明日、詳しいことを確かめてみよう」
「永ちゃん、久しぶりに『ムーンマジック』へ行かないか?」
「おお、いいな。そうしよう!」
加納と三宮はテレビ局を離れ、『ムーンマジック』へ向かった。
「亜子ちゃん、こんばんはー。イノッチいるかな?」
加納が馴染みのバーテンダー見習い亜子に声を掛けながら、ドアを開けた。店からこぼれ出た冷たい空気が、熱帯夜に流れ出ていく。
「いらっしゃいませ! どうぞ、カウンターいます」
「ありがとう」
加納と三宮は猪熊のいる奥のスツールへと近づいていった。
「イノッチ! この前はどうもありがとう。あの写真を渡したら、容疑者が口を割ったんだ。感謝してるよ。今日は、おれにおごらせてくれ」
加納が猪熊にお礼を言った。さすがに今日はコートを着ていないが、探偵は今日もスーツ姿でキメテいる。自分と同じぐらいの背丈の男がよくもまあ、こんな気取った背広を見つけてくるものだと毎回、感心してしまう。
「永ちゃん! こっちこそ、この前はごちそうさま。おれにも1杯おごらせろよ。トラ猫が見つかって謝礼がいっぱいもらえたんだ」
「トラ猫? それで亜子ちゃんの愛想がいいのか……猫はどこに居たんだ?」
「メスのところだよ! オスはいつだって、メスのそばに逃げ込むもんだ! やれやれ、メス猫の居場所が特定できなくて大変だったよ」
「猫なんて、どれも一緒に見えるけどな……どうやって選別した?」
「どれも一緒じゃないぜ? 女の数だけ美はあるんだ。同じに見えても、ぜんぜん違う!」
「そんなもんかねえ……まあ、取りあえず、よかったな! おっ、ありがとう! 亜子ちゃん。この前、飲みそこねた赤のカクテルだな? なにかな……」
「永ちゃん、それ、すごくおいしかったぜ?」
「赤ワインをベースにした『カーディナル』です。軽めにしてあります」
亜子がカクテルの説明をして立ち去った。
「カクテルの意味は『やさしい嘘』だったな。今回の事件でやさしい嘘を吐いている人物は、果たしているのかな……」
「永ちゃん、その後、事件はどうなった?」
「ああ、イノッチ、実はな……」
加納は猪熊に『路地裏連続殺人事件』の経過を説明した。優秀な刑事だった猪熊の頭脳を、ときに加納は頼りにしている。
「ふーん……永ちゃん、もしも朝倉麗子が現れたら、朝倉清司の親戚と会わせるといいよ」
「朝倉清司のか? 麗子にとっても親戚だよな……わかった」
「あとは……」
「あとは?」
「鏑木右近の運転手、浅野武の妻にも聞き込みをするべきだ」
「そうか……そうだった! サンちゃん、見落としていたのはそこだよ!」
「そこって?」
三宮が不思議そうに加納に聞き返した。
「浅野武の妻に会っていない! 関係者には全員、会ったつもりでいたのに……」
「なら、藤原達也の妻子にも聞き込みをしていない。明日、行ってみるか?」
「そうだな! イノッチ、ありがとう! いいヒントになったよ!」
「そうか? 事件解決を祈ってるよ」
猪熊がギムレットのグラスを傾けた。相変わらずキザったらしい。
「ああ、ありがとう。乾杯しよう」
「『路地裏連続殺人事件』の解決を祈って、乾杯」
「「乾杯」」
本当に解決して欲しい。加納は『ムーンマジック』の天井に強面を仰向けながら、グラスを飲み干した。
翌日、加納と三宮のデスクに若狭が飛び込んできた!
「たいへんです! 朝倉麗子が現れました!」
「なんだって! 朝倉麗子が現れた? どこに!」
加納は思わず叫んだ。
「留置場の自称、佐藤和馬のところです!」
「なんだって! すぐに捕まえろ! 2人はグルに違いない!」
「永ちゃん……罪状がないよ」
三宮があきれて口を挟んだ。
「先輩! 朝倉麗子は本人に間違いないらしいのですが、おかしなことを言っているそうです」
「おかしなこと?」
「はい。自称、佐藤和馬が自分の実の兄、朝倉清司だと主張しているのです」
「なんだって! 朝倉麗子の兄? じゃあ、あの男は……朝倉清司なのか?」
「ええっ! 永ちゃん、朝倉清司はイラクで亡くなったはずだ!」
「いったい……どうなってんだ!」
加納は上の許可を得て、留置場へ自称、佐藤和馬に会いに来た朝倉麗子本人と会うことが出来た。
朝倉麗子は写真の通り、平凡だがやさしいまなざしの持ち主だった。
「朝倉麗子さん、いったい……いままでどこに居らしたのですか?」
加納が質問をした。
「すみません……借金に追われ、あちこちで水商売をしていました。偽名で働いて出来る限りお金は返していました……流れ流れて九州に。兄が自衛隊時代に駐屯していた地が懐かしくて。何度か遊びに行ったことがあったものですから……」
「どうしてこちらに?」
「昨夜の公開捜査を見た人たちからいろいろと聞かれて……決心して出てきました。テレビや新聞で見たとき、路地裏殺人事件の犯人が兄だとすぐにわかりました。偽名を名乗っているのは、何か理由があるのだろうと思っていました……兄をお許しください。両親の死はとてもショックでした。あの日から、わたしたちは転落していきました……」
「お兄さまはなんと?」
「わかりません。わたしに会おうとしてくれません……。兄は、家族想いで正義感溢れる人でした……自慢の兄だったのに……」
朝倉麗子は静かに泣きはじめた。兄とよく似ている。2人とも、ひっそりと声を出さずに泣く。ずっとくやしさを耐えて生きてきたのだ。あの日から。
だが、同情ばかりをしているわけにはいかない。
加納は基本に立ち返ることにした。そうだ。ことの発端は10年前のオレオレ詐欺だ。そのときのことを朝倉麗子に尋ねることにした。
「麗子さん……辛いことを思い出させてしまいますが、10年前に起きた事件の経緯を教えていただけますか?」
「はい。10年前のあの日……兄は九州から静岡にある自宅へ車で帰ってくる途中でした。高速道路が渋滞して遅れていたそうです。そのとき、1本の電話を母が受けました。弁護士と名乗る男からで、朝倉清司が妊婦のいる車と事故を起こし、話し合いの途中で逃げた。今から自衛隊に報告をする。被害者に500万円を即金で払えば示談にできる。相手の弁護士は兄の自衛隊の認識番号から車のナンバープレートまで、すべてを知っていました。焦った母は父と相談して、金庫にあった事業資金の500万円を用意して待ちました。すぐに連絡が来て、弁護士事務所の事務員が、たまたま近くにいるので取りに行かせると言われました。若い男がやってきて、500万円を証書も書かずに持ち去りました。すぐに弁護士から電話がきて、示談が成立したので安心するようにと言われました。その電話口で、相手の妊婦に両親は謝罪しています。そのあと高速のサービスエリアから兄の電話が入り、事件が発覚したのです。車で家に向かう途中、兄が何度も電話を掛けてきて……わたしたちは責められました。500万円が無ければうちの会社は倒産です。もうすぐ兄が到着する。追い詰められた両親はわたしのお茶に睡眠薬を入れ、練炭自殺をしたのです……兄の発見が早くて、わたしだけが助けられました」
「そうでしたか……辛い経験をされましたね……。それからも借金を……たった1人でたいへんでしたね……」
「兄はもっと辛かったと思います。家族を責めた自分が許せなかったのです……だから、傭兵に……。わたしたちは被害者だったのに……」
加納は静かに朝倉麗子の元を去った。
自分の無力さに、はがゆくなり強面を歪めて歯ぎしりをした。
留置場を出ると、加納の巨体を見つけた三宮が車から走り出てきた。
「永ちゃん、朝倉清司の伯母に連絡した。新幹線でこちらに向かっているそうだ」
「そうか……到着したら、朝倉麗子と一緒に自称、佐藤和馬と面会させるように手続きを取っておいてくれ。朝倉清司も、遂に観念するはずだ」
「朝倉清司だって? では……あの男は!」
「ああ、十中八九、朝倉清司だ。ヤツは佐藤和馬を追ってイラクへ行ったのだろう。そして今年の4月、やっと佐藤和馬を見つけ出した……そして……」
「……殺して成りすましたのか?」
「……可能性はある」
「永ちゃん。これから、どうする?」
「サンちゃん、昨夜の打ち合わせ通り、藤原達也と浅野武の妻子へ聞き込みをしよう」
「そうだな、何か情報が得られるかもしれない……とりあえず、帰りに藤原達也の家へ寄ろう。浅野武の妻の実家は、署に戻ってから調べよう」
「そうしよう。どちらにしても、ここでジッとしていても仕方がない。捜査あるのみだ!」
藤原達也の家は閑静な住宅地にある1軒屋だった。10年前、藤原達也はこの家のローンを払うためにオレオレ詐欺に加担して、静岡の朝倉家を一家心中に追いやった。10年経って、その報いがやってきたということなのか。残された妻と子に、罪はないはずだ。
真夏の太陽の下、三宮が玄関のチャイムを鳴らした。家の中から、疲れ切り蒼ざめた女が出てきた。加納の強面を見て一瞬ギョッとしたが、やさしそうな三宮の顔を見てホッとした表情を浮かべた。
「奥さん、お久しぶりです。亡くなられたご主人のことで、またお聴きしたいことが……」
「刑事さん……実は、わたしもお話があります。どうぞ、お上がりください」
「はなし……ですか?」
加納と三宮は居間に上がらせてもらい、真新しい仏壇に手を合わせた。遺影の藤原達也はとてもオレオレ詐欺などする男には見えない。評判がよかったのもうなずける。加納は再び、箕輪薫の家で感じた寒々しい想いにとらわれ強面をしかめた。人間の心の奥底は誰にもわからない。
「こちらを見てください……」
藤原達也の妻がプリントアウトした1枚のA4用紙を持ってきた。三宮が受け取り、加納と2人で覗き込んだ。ネット銀行の出金表のようだ。6月の初めに入金した500万円を、毎日順番に50万円ずつ出金している。時間帯から見て、会社帰りにコンビニで下ろしていたようだ。
「これは……」
紙を見ながら、三宮が尋ねた。
「実は……主人がわたし名義で口座を開いていたのです。遺品整理をしていて昨夜、発見しました。亡くなる前日まで、毎日50万円ずつ下ろしています」
「そうですね。合計で6回……土日も同じ時間帯に下ろしていますね……残りは200万円」
「はい」
「こちらで調べさせていただきます。この紙は、お預かりしても?」
「はい。構いません。刑事さん、どうか……真犯人を捕まえてください。お願いします!」
藤原達也の妻が深々と頭を下げてきた。加納と三宮は恐縮しながら、藤原達也の家をあとにした。
「サンちゃん、女占い師がなぜ1週間もあのスナックの前に座り続けていたのか、理由がわかったぞ!」
「ええ? どういうことだ?」
「藤原達也は頭がいいよ。定期の500万円をいったんは下ろしたが、妻名義にしてネット銀行に貯金しておいたんだよ。万が一、自分が亡くなったときのために……」
「だったら……自分名義にしておけばいいのに。そのほうがわかりやすいだろ?」
「だめだよ。亡くなると、その人の口座はすぐに手続きをしないと凍結されるんだ。それを見越して、妻の名義にしたんだ。口座番号と暗証番号を、どこかに書き残しておいたのだろう」
「でも、毎日50万円ずつとはどういうことだ?」
「引き伸ばしたんだよ、自分の寿命を! 分割払いにしたんだ! ATMの引き出し限度額が50万円だとかなんとか理由を付けてさ! だから、女占い師は1回で済むはずの500万円の受け取りを、1週間も行うはめになったんだ! でも、藤原達也は最後の1日、自分が殺される日は金を払わなかった。それで、夜中に呼び出されて殺された……」
「そうか! それが理由か!」
「金を払わなかったことだけが、殺された理由ではないかもしれないが……」
「でも、どうして藤原達也が殺された翌日も、女占い師は辻に座り続けたんだ?」
「警察の捜査を逸らすためかもしれないな。もしくは、偵察か? 刑事が聞き込みに来るから反対に捜査状況がわかる。共犯者に情報を流していたのかもしれない。だとすれば、本物の佐藤和馬と関連があるかもしれない……。いずれにしても、あそこを急に離れれば、おれたちは不審に思ってあの占い師をよく調べたはずだ。裏をかかれた! クソッ! 相手は1枚上手だ!」
「永ちゃん、いったん署に戻ろう。有力な情報が集まっているかもしれないよ」
「そうだな……あとは市民の協力に頼るしかない」
2人が署に戻ると、朗報が待っていた。
昨夜の放送を見た視聴者から、浅野武の情報が寄せられていたのだ。
なんと、ゲイバー『アネモネ』のマネージャーからだった。
浅野武の妻の実家の照会を署に頼むと、加納と三宮はすぐに車で『アネモネ』に向かった。
「マネージャーさん……浅野武こそが、佐藤和馬を垂れ込んだもう1人のマリリン・モンローの男だったとおっしゃるのですか?」
「ええ、そうですよ。昨日の公開捜査の男は間違いなく、化粧を落としたタケです。タケはゲイじゃありません。なんで聞き込みに来たとき、タケの写真を見せてくれなかったの? 1発でわかったのに! 刑事さんがこの前きたときは定休日でタケは居なかったけど、昨日まで働いてたよ? 昨夜のテレビを見て、いそいで逃げ出したんじゃない? 荷物は何も残ってないよ」
「灯台下暗しとはこのことか……こちらのミスです。おれのアネモネデビューも近いでしょう……」
「巨体に強面のオネエ……受けるかもよ?」
「ところで前回、浅野武は5月の初旬から働き出したとお聞きしましたが……定休日の月曜はいつもいなくなるのですか?」
「タケは月曜日はいつもいなくなるよ。どこに行っているのかは知らない。ちなみに合法ドラッグだけど、タケならヤッテるかも。恐怖心を失くすために外国で覚えたって言ってたことがある。話だけだけどね。素人だから、よくわからないけど?」
「……ありがとうございます。話だけでも充分です。浅野武と佐藤和馬と乙神八雲に関して、何か気がついた点はございませんか?」
「そうねえ……タケと和馬は全く親しくなかったよ。タケと八雲は……噂があったけど……」
「噂ですか? どのような!」
「タケが八雲を恐喝してるって……」
「恐喝? どんな?」
「ぼくもよくわからないんだけど……あっ! よっちゃん! ちょっと!」
マネージャーが通りがかったニューハーフを呼び止めた。ロングヘアに黄色の水着みたいなワンピースを着ていた。まるで女と変わらない、背の高い若者だ。こんな格好でガンガンにクーラーの効いた店内にいられるなんて、さすが男だと加納は感心した。
「はーい! うわっ! すっごい強面! マネージャー、宗旨替えした?」
「なわけねえだろ! こちら新宿署の刑事さん。タケと八雲のことで聞きたいそうだ」
「ああ、どおりで……んっ? タケ? あいつどこ行った! 借金、踏み倒しやがって!」
「借金? 浅野武も借金を?」
加納が、よっちゃんと呼ばれているニューハーフに聞いた。
「え? 浅野武……タケのこと? そういえば、昨夜テレビでやってたよね。タケには金は貸してない。八雲に10万円貸してたんだよ。なのに八雲ってば、タケに日給をぜんぶ渡してたんだ! わたし、その現場を見ちゃってさ! すぐに2人に詰め寄ったんだけど、八雲がヤケにタケを庇うんだよ! タケには前に、大金を借りてるんだとかなんとか言い訳してた。あれは絶対に嘘だね! 八雲はタケに、何か弱みを握られていたんだよ!」
「そのことを警察には?」
「言うわけないでしょ? 聞かれてないもん。八雲が死んじゃったから、10万円は返ってこないし……」
「乙神八雲が脅されていた内容に、心当たりは?」
「あるわけないじゃん! 知ってたら、金を取り返してるよ!」
「わかりました……捜査に御協力どうもありがとうございました」
加納は三宮と『アネモネ』を出た。
「サンちゃん、すぐに署の者を来させてくれ。何か証拠が残っているかもしれない」
「ああ、さっき連絡しておいたよ。あれ? 電話だ! 永ちゃん、留置場からだ! 自称、佐藤和馬が話したいことがあるってさ!」
「本当か? すぐに行こう!」




