3年前の殺人
「なんだって! 3年前の殺人事件の手口が、キャバ嬢と田崎吉隆の殺しと一緒だと言うのか?」
翌日、出勤してきた加納は三宮から意外な事実を聞かされた。
「ああ、そうらしいぞ。殺害方法は『顔のない死体殺人事件』と同じだった」
「どんな事件だったっけ?」
「賃貸マンションで女が殺されていた。死因は窒息死。今回と同じように、首にタオルを巻きつけ棒で固定して絞めあげている。酔って寝ているところを殺されたと見られている。顔は焼かれ両手足の指紋はぜんぶ剥がされていた。一緒に暮らしていた男はいまだに行方知れずだ」
「あのときの犯人が再び暴れはじめたっていうのか?」
「わからない……だが、あの殺しは独特だった。どうする? 永ちゃん?」
「そうだな……たしか『顔のない死体殺人事件』も新宿だったな。3年前に殺しの現場となった、賃貸マンションへ行ってみるか」
「ああ、そうしよう」
加納と三宮はセダンに乗り、3年前ワイドショーを大いに賑わした未解決事件の現場へ直行した。そこは大手不動産会社が経営する賃貸マンションで建物の様子は当時となんら変わっていなかった。そのときの管理人が今も居て加納と三宮を部屋の中へ案内してくれた。殺された女は偽名を使っていた。いまだに身元は特定できていない。管理人も殺された女の顔は薄っすらとしか覚えていなかった。化粧っけのない地味な女性だったそうだ。監視カメラの映像にも、ハッキリとした顔は映っていない。女が終始うつむいていたからだ。コソコソと人目を避けながら生きている様子だった。女は身体を売って生活をしていたと見られている。彼女の特徴といえば、小柄だったことぐらいだ。
「サンちゃん、密室だったんだろ? 合鍵を持っている同居中の男が疑われた。死亡推定時刻の夜中の3時に小柄な男がマンションを出ていく様子が監視カメラに映し出されている……そうか! そのときの映像と『キャバ嬢ラブホ殺人事件』のラブホの監視カメラの映像を照らし合わせてみよう!」
「そうだな! 同じ人物かもしれない!」
2人は署に戻り、2つの監視カメラの映像を比べてみた。どちらの映像にも映っている華奢で帽子を被った小柄な男。どう見ても同じ人物に思える。
「永ちゃん、やはり……」
「ああ。同一犯による連続殺人事件だ! 犯人の目的は、怨恨だけではなさそうだな」
加納は念のため『顔のない死体殺人事件』の遺留品をチェックした。典型的な女の持ち物ばかりだった。理由はわからないが、加納はなぜかそれらに違和感を覚えた。
午後から田崎吉隆の告別式へ向かった。
繭子にあいさつをしてから式へ出て、念のため従業員に話しを聞いてみた。住み込みのお手伝いが3人。看護師が1人。庭師が1人。執事が1人。雑用係の男が1人。前回と同じメンバーだ。全員が小柄。田崎吉隆は自分の背丈ひどく気にしていた。自分より背の高い人間は雇わなかった。加納も過去に田崎吉隆から、ウドの大木だの背が高くても意味がないだの散々なことを言われた記憶がある。
従業員は全員が30代から60代で、住み込みのお手伝いと看護士以外は若いころから勤めている者ばかりだった。加納とも面識があり、当時の話をされて辟易してしまった。特に庭師の大田豪造は加納を中学のときから知っていて、繭子に渡すバラの花束などを調達してくれた男だった。当時もだが、今回もまた茶化された。
事件の第一発見者は看護師だった。1年前に田崎吉隆の病状が悪化した際に彼が病院でスカウトした女性で平河美鈴という女性だった。男っぽくハキハキとした32歳。事件当日の翌朝、田崎吉隆に薬を飲ませようと部屋を訪れると施錠されていた。ノックをして呼び掛けたが返事がない。女中頭の45歳の大田えり子を呼びに行き、彼女の持つ合鍵で一緒に部屋へ侵入した際、寝台に横たわる田崎吉隆の遺体を発見した。
1人1人に話を聞いたが、供述どおりで変わった点は見られなかった。つまり、生前の田崎吉隆に最期に会って話したのは繭子だった。繭子は田崎吉隆と言い争ったあと『ムーンマジック』へ行き、加納と出会いベッドを共にした。
「繭子も立派な容疑者の1人か……」
加納は独り言を言いながら、セダンに乗り田崎邸をあとにした。




