おまけ話『魔剣・紅蓮の神影』その4
さあ、これで準備は万端だ!
たまごはいつだって無敵だし(武器がいらないからね。全裸で最強だよ)ゼノには伝説級の籠手を装着させたので、もうあとはパンツ一丁でも構わないくらいに防御力が高い状態だ。
むしろ『パンツ一丁じゃないと使えない』くらいの設定にしておけば面白かったのにな。
「おいたまご」
「サーセン」
まったく、勘のいいイケメンだな!
どうしてこっそり失礼なことを考えているとわかるんだろう?
「なんで謝るんだ?」
しまった、たまごの心を読まれたんじゃなかったよ!
たまごは内心で冷や汗をかきながら、そっとゼノの表情をうかがうよ。
「まさか……たまご、またおまえは……」
わあ、めっちゃ眉間にしわを寄せてるじゃん。ゼノがなにかを疑ってしまったようだね。
こういう時は、強気に出たほうがいいんだ。わたしはたまごアームを高速で振りながら言った。
「ち、違うよ、勘違いしないで! ゼノがすぐにたまごを叱るから、反射的に謝っちゃったんじゃない。ゼノがいけないんだからね、もう、可愛くて気弱なたまごをいじめたらダメだよ」
「どこが気弱だ、気弱に謝れ」
「サーセン……って、無駄に謝らせないでよ! もう! ゼノったら、もう!」
たまごアームにさらに回転を加えてバタバタしながらゼノに訴えると、彼は面白そうに笑った。
なんだ、たまごをからかって遊んだだけか。
もうもう、ゼノのくせに、生意気だよ!
そこが『邪神の洞窟』へ向かう道だったので、通りすがりの冒険者から「おい、ゼノ副団長が楽しそうに笑ってるぞ」「まさか、たまごとデートなのか?」「『邪神の洞窟』への道がデートコースとは、ゼノらしいぜ」「まったく、毎日毎日デートして、とんだ仲良しカップルだな」と噂されちゃったよ。
えっ、そうなの?
わたしたちは毎日デートしていたの?
ゼノ副団長らしいデートコースを歩けて、たまご幸せ♡……なわけないよ!
まったく、つくづく女性の扱いがなってない男だよね。
『邪神の洞窟』に続く、どこか禍々しい荒れた道をデートコースに選ぶなんてさ、デリカシーのかけらもないよね!
ゼノはせっかくイケメンなのに、いろいろ間違ってるよ、もう少し女心というものを考えた方が……。
あ、いや、間違っているのはたまごの方だ。
今日「も」デートじゃなくて、監視者のゼノと一緒に『邪神の洞窟』を攻略しに行くんだったよ。今や危険地帯と化した洞窟の魔物を一掃するのがたまごのお仕事で、ロマンス成分なんて全くない状況だったね!
わたしはたまごアームを天に突き上げて、気合いを入れた。
「さあ、気を引き締めて行くぞー」
「なんだ、突然」
「ゼノの命を落とさないようにするぞー」
「あ、それには全力で同意するぞ」
ゼノは装着している『無駄に無敵な籠手』を構え、虹色のドームを出して「本気で気を引き締めて行くぞ!」と気合いを入れた。
「わあ、本当に明るいや! 洞窟なのに変な感じだね。遊園地みたいだよ」
「遊園地というのがなんだかよくわからないが……いや、説明しなくていい。そのタマゴーランドってやつの話はいらん。とにかく、洞窟内はいつも夕暮れ時くらいの明るさがあるから、戦闘に支障はないだろう」
洞窟に入った途端に襲ってくる魔物たちを、たまごアームをさくっと刺して片づけながら進んだ。その後を、虹色の球に入ったゼノがついてくる。
魔物がたびたび虹色の光にぶつかるけれど、すかーん、とまぬけな音を立てて弾かれている。もちろん、ゼノはノーダメージだ。
最初は剣を抜いて構えていたゼノも、今は軽い散歩でもしているようにリラックスして歩いている。
このダンジョンに現れる魔物は、地上のものよりも魔力寄りな存在なので、倒すと魔石を残して消え去ってしまうのがちょっとゲームっぽくて面白いけれど、美味しい肉が手に入らないのが残念だ。
でも、片手でやっつけて片手で魔石を拾うという能率的なやり方で進むことができるので、かなりスピードを上げることができる。
「ねえ、あんまり手応えがないね」
「……そんなことを言うのは、たまごくらいのものだぞ」
念のために、入り口からずっと『無駄に無敵な籠手』の防護ドームを出しているゼノが言った。
「俺だって、これがなかったらひとりで来ようとは思わない」
「そうなの? なんだかさ、王都に来てから一段とたまごアームの斬れ味が上がった気がするんだよね。戦闘経験を積んだからかなあ」
わたしは「ほら、このとおり」と言いながら、魔物をまとめて10匹くらい串刺しにして手元に引き寄せた。メザシみたいにぷらーんとぶら下がっているヤギくらいの大きさのコウモリっぽい魔物は、ぐったりした身体から魔力のもやを放出すると、それぞれが魔石に変わった。地面に落ちる前に反対のアームで素早く魔石を回収してたまごボックスに入れた。
「おい、果実を収穫してるんじゃないんだからな。他の冒険者が命がけで狩る、タチの悪い魔物なんだからな」
「もしかして、吸血コウモリなの? それはタチが……あっ、強そうなのがいる!」
前方に巨大なアルマジロみたいな魔物がいた。
ほら、背中に甲羅を背負ってるでっかいモグラだよ。
え?
アルマジロって言わないっけ?
そいつはわたしたちに気づいて雄叫びをあげると、くるんとまるまり、こっちに向かってごろごろ転がって攻撃してきた。
「ふふん、負けないよ!」
たまごもアルマジロもどきに向かって勢いよくダッシュした。
「たまごアターック!」
出会ったところで強烈に体当たりをすると、魔物は身体をみしっといわせて吹っ飛び、地面に大の字に伸びた。そして、魔石に変わる。
「わーい、たまごの勝ちー」
「……ガルヘルイヤを一撃で倒すとか、他の冒険者が見たら非常識すぎて脱力するほどの強さなんだが。慣れてしまったのか、何も感じなくなってきた自分が怖いな」
開き直って防御のみに徹するゼノが言った。
「慣れって大切だよね。あっ、見て見て、この魔石は綺麗な青でゼノの目の色に似ているよ、ほら!」
うずらのたまごくらいの大きな魔石をゼノの顔に近づけると、彼はため息をついた。
「たまご……見て見てって、お花摘みに来てるんじゃないんだが……」
「やっぱりそっくり! じゃあさ、これはゼノにあげるよ。いつか恋人ができたら『俺の瞳と同じ色の魔石を捧げよう』とかカッコいいこと言いながらあげるといいよ」
「な、おまえ、突然何を言いだすんだ、こんな魔石、どれだけの値段がすると……」
「いいのいいの。毎日たまごに良くしてくれるお礼だよ。たまごの気持ち、受け取って」
「たまご……いや、リカ、おまえは何も考えずに紛らわしいことを……一番タチが悪いのはたまごだと思うぞ……」
照れているのか、ちょっぴり顔を染めるゼノに、そっと魔石を握らせる親切なたまごだよ。
その時、洞窟が放つ光が薄れて、あたりは闇に包まれた。暗い中に、ガントレットが放つ虹色の光が浮かび上がる。
「なに? なんなの? イベント的なものが始まるの?」
「地図を見てみろ。持っているんだろう?」
「あ、忘れてた。魔物が弱いから、適当に進んでたよ」
「たまご……」
呆れるゼノに「てへっ」と笑ってから、たまごのスクリーンを確認する。
「うわ、さすがはたまごだよ。この洞窟のボスに続く最短距離を進んでたよ! で、この先でボスの魔物が待ってるの」
さあさあ、たまごははりきっちゃうよ!




