アイアンゴーレムは固かった
たくさんの方に読んでいただけて、嬉しいです!
わたしはアイアンゴーレムを派手にガンガン鳴らしながら鉱山を駆け抜け、広々とした草原に出た。
障害物も、巻き込んでしまいそうな人影もなく、ここなら思いきり戦えそうである。
なんか大きな音を立てながら走っていてすごく楽しかったよ。
爆音鳴らしたバイクで走る人たちの気持ちが少しわかった気がする。
誰もいない山道を走るから、迷惑にならないのもいい。
たまごヤンキーって言われたら嫌だからもうやらないけどね。わたしはアイドル志望のたまご戦士ガールだよ。
わたしは止まるとアイアンゴーレムから手を離して向かい合い、ジョイスティックを操作して後ろに下がって距離をおく。。
アイアンゴーレムは何事もなかったように起き上がり、赤い目でわたしを見た。
さすが、タフだね。脳震盪を起こしてないね。だいたい脳みそあるのかな?
相手にとって不足はないね。
「行くぞ、アイアンゴーレム! 覚悟するがいい!」
たまごアームでびしっと指さし、気分を盛り上げる。
まわりに誰もいないから、中ニ的なポーズをつけつつかっこよく戦うよ!
そう思った時期もありました。
「だから、固すぎだよ!」
お互いに何度もぶつかり合い、あたりにごーんごーんという音が響き渡っているのだけれど、一向に決着がつかない。
思いきりたまごアタックをするとアイアンゴーレムは倒れるんだけど、何事もなかったように起き上がって殴りかかってくるのだ。
こんなにごんごんいってたら、日本だったら「除夜の鐘かよ!」って突っ込まれちゃうよ。
「たまご、そろそろレベルアップしない? Bボタンを押す親指が痛くなったんだけど」
コントローラーを使いすぎて疲れたよ。
でも、こんなに手ごわい魔物をここに放置して逃げるわけにもいかない。
「もうやだ! ウルトラスーパーエクセレントたまごアターック!」
とりあえず、強そうな名前を叫びながらアイアンゴーレムに体当たりをする。
音を立てて、吹っ飛んだ。
でもあまり効果がないんだよね。
わたしは痛む指でBボタンを押して、助走をつけられる距離まで下がったのだが。
小さな画面が出てきて、音声案内が聞こえた。
『たまごホーンを覚えました』
キターーーーー!
……ホーンって、何だっけ?
どういう技かわからないので、画面のホーンの文字を長押ししてみた。
『たまごホーン〈固い角。これを付けて頭突きをすると、固いものにもよく刺さる。 を覚えました』
わかった、頭に凶器が生えるってことだね。
次の必殺技は、頭突きか。
……なんかカッコ悪いぞおい!
「まあいいや。とりあえず使ってみるか。『たまごホーン』!」
角が付いたかな。
たまごアームで探ってみると、確かに額の上に長い角が生えてるよ。
「よし。アイアンゴーレムよ、新必殺技を受けてみよ! 行くぞ、たまごホーーーーーーン!」
あ、エクセレントな名前にするのを忘れたよ。
わたしは思いきり加速して、アイアンゴーレムの弱点である左胸を狙って頭突きをかました。
さくっ。
あ、刺さった。
あんなにも固くて手こずったアイアンゴーレムの体に、角がさっくりと刺さった。何と言うあっけなさであろう。
わたしがたまごアームでアイアンゴーレムの身体を押すと、手強い敵は無抵抗で後ろに倒れ、重い地響きがした。
その目からはすでに光は失われている。
『アイアンゴーレムを倒しました』
わたしは無数のへこみがあるゴーレムをたまごボックスにしまい、指を揉んだ。
「ふっ、終わったな……あー、お茶飲みたい」
わたしは左手でジョイスティックを前に倒しながら、右手で湯呑みを持ってお茶を飲む。
程よく冷めたお茶が美味しい。ずっと戦っていたから、喉が渇いていたんだよね。
「お代わりお願いしまーす」
テーブルに乗せると、新しいのに交換された。
お茶請けに、たまごぼうろが添えられている。
わたしはお茶を飲み飲み鉱山に向かっていた。
閉じ込められていた人が全員無事に脱出したことを確認してから、ビルテンの町に戻って報告しようと思ったのだ。
わたしが一番早く移動できるからね、アフターサービスも万全な親切なたまごだよ。
「おーい、大丈夫? アイアンゴーレムは倒したよー」
わたしは誰にともなく大きな声で叫びながら、人が集まっているところに行った。
「あっ、あれがたまごの冒険者だ」
「アイアンゴーレムをひとりで倒したのか! ありがとう!」
「ありがとう、たまごさん」
いやいや、わたしの名前はリカだからね。
「みんな無事に出てこれたの?」
わたしはなんとなく皆を仕切っているっぽい人に聞いた。
「おかげで大ケガするものもなく、全員無事だ。こんなに早く来て対処してもらえて本当に助かったよ、たま」
「たまごじゃなくって、リ、カ!」
「……リカ」
「うん、よし」
わたしは代表者っぽい人に頷いた。
「わたしはもう町に帰るけど、なにか冒険者ギルドに頼むこととかある? 助けがいるとか、物が足りないとか」
「いや、リカがアイアンゴーレムを引きずり出してくれたから、坑道の被害は少なくて済んで、修理もすぐできそうだし……特に人手もいらないな。俺たちでなんとかなる」
「わかったよ。あと、ガウスって人はいるかな? わたし、彼の息子のエドの友達で、そっちつながりで来たんだよ」
わたしに注目していたまわりの男の人たちが、一斉にガウスー、ガウスー、と呼び始めた。
猫を呼んでるんじゃないんだから。
「なんだ?」
「このたま……リカさんは、エドの友達だってさ」
「エドの?」
現れた30歳くらいの男の人がわたしの顔をまじまじと見た。
どこが顔だかわかってる?
「エドのお父さんだね、こんにちは。エルザとララとも知り合いになったよ。エルザは家事ができるくらいに元気になったから、安心して帰ってきなよ」
「なんだって!? 起き上がれるようになったのか?」
「そうだよ。完治するまであとちょっとってところだね。エドとララが超がんばったおかげだから、いっぱい褒めてあげなよ、あんな可愛い奥さんと子どもたちがいて、幸せ者じゃん! 気をつけて帰ってくるんだよ。じゃあね」
無事を確認したらあとは用がないので、わたしは鉱山を後にした。
「えっと、ただいま」
門の前で仁王立ちして、全身から『俺は怒っているんだぞ』というオーラを出したバザックさんにびびってます。
怖いよ、パパ。
「……ちょっと入ーれてっ」
「入れてじゃない! リカ、俺がどうして怒っているか、わかるか? ギルドを通さずに仕事を受けるということがどういうことか、わかっているのか?」
「……わかってる。身の程知らずだっていうんでしょ」
「その通りだ! いいか、冒険者の仕事は常に大怪我や命を落とす危険のある仕事なんだ。その危険を少しでも減らすために冒険者ギルドがある。その指示に従わないとは何事だ!」
わーん、パパが怒鳴るよ。
「ごめんなさいもうしません」
「なんだその棒読みは! お前、絶対またやるだろ!」
ちっ、ばれたか。
「そんなことないよぉ、反省してるよぉ、怒んないでよぉ……そこどいて」
「リカ!」
「心配してくれて嬉しいけどさ、わたしは本当に大丈夫なんだよ? パパが思うほど子どもじゃないの」
「なっ、誰がパパだっ!」
おっとうっかり心の声が混ざってしまったよ。
「わたしは無傷で単独でアイアンゴーレムを倒しました! そこは認めてよ。ほら、見て見て。これがその証拠」
わたしはたまごボックスをだし、バザックさんの前にアイアンゴーレムを出して見せた。
「結構固くて時間がかかったけど、ちゃんととどめを刺したよ」
全身がぼこぼこになった黒い金属の塊を見て、バザックさんは顔を強張らせた。ヤバい、手こずったのがばれたかな。
「……リカ、これはどうやって倒したんだ?」
「えっ、あの、それは聞かないお約束?」
「魔法を使ってないのか? 物理的攻撃で倒したのか? 剣も使ってないな」
「まだ魔法は使えないんだよ……あっ、でも、これから覚える予定! まだまだ伸びしろのある15歳だよ」
「……ライルにも見せとけ」
なにか問題があるのかな?
「一度お前の戦うところをきちんと見ておきたいものだな」
そう言うと、バザックさんはわたしを町に入れてくれた。
アイアンゴーレムをしまって、ギルドに向かおうとする。
「……なんか怒ってる?」
「いや、怒ってはいない。がんばったな」
最後にバザックパパが頭を撫でてくれたので、わたしは深く考えないことにした。
「ただいまー」
わたしがギルドの厚い木の扉を開けると、ずっとそこで待っていたのか、鉱山の人が椅子に座っていた。
「早いな! どうだったか? どのくらいの人数で行けばアイアンゴーレムは倒せる?」
「いやもう倒して来たよ。閉じ込められていた人は全員無事だからね」
おじさんはぽかんと口を開けている。
わたしはライルさんとチアさんに報告した。
「アイアンゴーレムは一体だったよ。倒して持って帰ってきた。けが人もいないし、坑道の崩れも向こうの人達で直せるレベルだから、あとは特に助けはいらないって言われたよ。あーわたしライルさんにタメ口で喋ってる! ごめんなさい」
「そんなことかまいませんよ、リカさんにけがは?」
「全然ない、です」
Bボタンを押してた親指が痛いだけだよ。
「無理言って悪かったねです、別にギルドの顔を潰そうとした訳じゃないんだよ。本当に自信があったんだよー、です」
「リカちゃんに悪気はないことくらいわかってるわよ。それから、変な敬語になってるからやめなさいね」
チアさんがハーブティーを入れてくれたので、たまごボックスにいったんしまって飲ませてもらう。
「ライルさん、いいの?」
「いいですよ」
「じゃあライルお兄ちゃんって呼んででもいい? あっうそうそ、今のはお茶目なたまごジョークだよーん」
たまごの妹分なんてびっくりだよね。
「アイアンゴーレムは引き取り所に持って行けばいい?」
「……僕も一緒にアイアンゴーレムの状態を見せてもらっていいですか?」
「もちろんだよ! わたし、すごくがんばって倒したんだよ、もう固くて固くて最後は腹がたったくらい固かったんだから」
というわけで、チアさんにカウンターを頼んで、ライルさんと引き取り所に行った。
引き取り所の馴染みのおじさん、ケイグさんって言うんだけど、アイアンゴーレムを持ってきたと言ったら建物の外の広いスペースに案内された。
「アイアンゴーレムが持ち込まれるのは久しぶりだな」
「珍しい魔物なの?」
「ああ。あの鉱山は魔物が出なくて安全でいい鉱山なんだ。これでミスリルでも取れりゃ最高なんだけどな」
おお、ファンタジーでお馴染みのミスリルだね!
軽くて丈夫で魔力を通しやすい素敵金属だ。
「じゃあ、出すよ」
わたしはたまごアームを操って、アイアンゴーレムを地面に横たえた。
「ねえねえ、高く売れる?」
特に使うあてはなくても、お金が儲かるのは嬉しいのだうひひ。
「これは……」
「どうしたの?」
ライルさんとケイグさんはしゃがみこんで、へこみや胸の傷を調べている。
「あ、倒すのにちょっと時間はかかったけど、わたしは無傷だからね、そんなに無理な戦いじゃなかったよ……って、なんでそんな目で見るの?」
もっと「偉かったね」っていう顔をしようよ!
「リカさん、どうやって倒したのかは教えてもらえませんか?」
ライルさんの顔色が悪いような気がするんだけど。
「ええと、その、肉弾戦?」
「……なあ、リカ。俺もいろいろな状態の魔物を見てきたが……これはどう見ても、惨殺された魔物の死骸だ」
ケイグさんがため息をつきながら言う。
「へ?」
「全身をめった打ち……散々いたぶられた後に……いたぶり尽くして飽きてから……心臓をひと突き……」
呟くライルさんの顔に浮かぶのは恐怖の表情だね!
「違うよ、わたしは残酷な殺人鬼じゃないよ! 固いからなかなかとどめがさせなくて、すごいがんばって攻撃してたら新しい必殺技が生み出されたんだよ! シリアルキラーなたまごじゃないよ、わたしは愛のたまご戦士の女の子だよ、嘘じゃないよ、この澄んだ瞳を見て!ってたまごだから目がないじゃん!」
うろたえるたまご。
やだよう、アイドルじゃなくて狂った殺人鬼にされちゃうよ。
「……いや、一瞬肝が冷えましたが、リカさんがそんな酷いことをするとは思えませんからね、たまごとして特殊な戦い方をしてこうなったのでしょう」
そうだよ、その通りだよ、分かってるじゃんライルさん。
「でも、どうやらリカさんが僕の思っていたよりもずっと強いらしい事がわかりました。どうですか、ランクをひとつ飛ばして、Dになる試験を受けてみる気はありませんか?」
え? いきなりDに行っちゃいますか?