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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
勇者召喚編

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勇者召喚編  リザンダヨ

「ひいッ」


 後ろの方で、誰かが息を飲む変な音がした。


「いったいなにが現れたの!? いやだわ、わたし、全身が震えて立っているのがやっとよ」


「あ、あれはなに? 金色に輝いて美しいのに、素晴らしく澄みきった音が響くのに、なのに……なぜあんなにも禍々しいの!?」


 見ると、ミリーちゃんをきつく抱きしめたエマさん以外の聖女ふたりが、お互いを支えるようにつかまり合っている。リザンの頭を見せて、もう一度しゃんと軽く振って見せたら「いやああああああっ!」と仲良く叫び、震えあがってしまった。


「くっ、なぜこんなにもこの身がすくむのだ!?」


 悔しげに言い、剣を支えにしてなんとか立っているのはレオンだ。


「怪鳥アビスパーに対峙した時ですら、恐れを覚えずに動けたというのに、なんだこのていたらくは! 我ながら情けない……」


「毎日厳しい鍛錬をし、常に勇猛であろうと精神修行もしているミランディア国の騎士の身であるのに……なぜだ……俺の足が、一歩も前に出ないッ!」


 槍を構えたまま崩れ落ちそうなのはクルトだ。


「皆さん、落ち着いてください。その場を動かず身体を低くして、倒れて頭を打つのを防いでください」


 声を震わせるミランディア国のみんなに、ライルお兄ちゃんが指示を出している。


 でも、なんで倒れて頭を打つ心配をしているの?

 リザンの踊りは心を打つ芸術だよ?

 不本意ながら『恐怖の』たまご踊りってなってるけどさ、あなたのハートをぶるぶる震わせるっていう意味だと思うんだよね、たまご的には。


「お母さん、怖い! 怖いよ!」


「大丈夫よ、ミリー。お母さんもセルもいますよ」


 おやおや、アゴに対してはあんなに勇敢だったミリーちゃんなのに、お母さんの胸に顔をうずめているよ。

 急に甘えんぼさんになっちゃったのかな?

 よしよし、リカお姉ちゃんがあのアゴをちゃちゃっと料理してやるからね、わたしは優しい女の子にはうんと優しくしちゃう正義の味方のたまごだよ。


 セルときたら、めでたく神獣に出世したのにさっきから『ぐるるるるるるるる』ってうなりっぱなしだよ。

 あれれ、ふさふさの銀色しっぽはくるんてなっちゃってるし。

 神獣になったというのにそれはおかしいね。怯えた犬みたいだよ。

 たまごがかっこよく伸ばしてあげようか?


 ライルお兄ちゃんが「ふうっ」と息を吐いて言った。


「皆すでに『すごいシュークリーム』を食べて、精神力を底上げしてあるというのに、このこみ上げる恐怖心と肌が粟立つ戦慄ときたら……リカさん、さてはパワーアップしましたね?」


 さすがはお兄ちゃんだね!

 そうなんだよ、さっき『ウルトラスーパー恐怖のたまご踊り』って言ってたもんね。この世界に来て冒険をしているうちに、たまご、レベルアップしちゃったんだね、てへ。


 わたしはもう一度リザンの頭を振り、しゃりーん。と言わせた。

 そのとたん、皆が一斉に地面に這いつくばり、頭をかばった。


「なにも飛んでいかないよ、そういう演出のない踊りだからさ。さて、アゴ」


 わたしがみんなに声をかけてから向き直ると、黒いもやもや状の巨大な顔を作った異世界魔物のアゴなんとかは、黒くてでっかい顔を酷く歪めて言った。

 なぜか全体がぶるぶる震えている。


 もしかしたら、『地獄の番人』の頭が気に入ったのかな?

 アゴの故郷は地獄っぽい所かもしれないね。


「なに、これがうらやましいの? ダメだよ、あげないよ」


 わたしはアゴに向かってエビルリザンの頭を見せびらかすようにしゃんしゃんしゃんと振った。

 アゴは『ふしゅうッ!』と変な声を出した。


『アゴではないと、さっきから……ううっ、ぐぬう、貴様、その手に持つそれはなんだ? いったいなにをするつもりだ!? まさか暗黒の凶神である我よりも禍々しい気を放つ存在がいるとは……』


 凶神を名乗るやつに自慢のリザンの頭を『禍々しい』とか言われてしまい、わたしはムカッとして言った。


「あんた、失礼な魔物だね! これはたまごのお気に入りの頭だよ! 見なよ、リザンの目にはめた赤い魔石の光具合を。キラッキラしてすごく綺麗じゃん。アゴ、芸術ってもんを理解できないあんたのその歪んだ根性を、わたしの素晴らしい踊りで直線定規よりも真っ直ぐ素直に直してやるよ!」


 すかさずお兄ちゃんが言った。


「いやいや、まず直りませんからね。リカさんはいろいろ間違ってますからね。赤く血が滴るような色で底光りする魔石は、綺麗と言うよりも見ていると背筋がぞっとする代物ですからね。ところで神官長、大丈夫ですか?」


「す、すまない。身体の震えが止まらないなどとは初めての体験だ。わたしも修業が足りていないな、はは、は」


 神官長のクールガさんは唇を紫にして言った。そんな神官長に、引きつった笑顔のお兄ちゃんが優しく声をかけた。


「ご無理をなさらないように。仕方がありませんよ、これは修業がどうとかいうレベルの事態ではありませんから」


 あ、そういえば、神官長と副神官長、その他の神殿の人は『すごいシュークリーム』を食べていないからね、たまごの踊りは衝撃的かもしれないや。心にズキューンと来ちゃうかもね。


「わたしたちは一応、神力で精神的な攻撃から身を守るブロックを作り出せますから……どこまで通用するかわかりませんが」


 副神官長のグラントさんが言った。


「そうですか。それでは心をひとつにしてブロックを作り出し……あとはひたすら耐えてください」


「わかりました」






 なんか後ろでごちゃごちゃ話していたけれど、わたしはとにかく、物理攻撃が効かない始末の悪い魔物を何とかすることに集中した。


 しゃりーん。しゃりーん。しゃん しゃん しゃらん。


「……さあアゴ、悪い魔物にお仕置きだよ」


 わたしはたまごアームに持ったエビルリザンの頭を振った。鱗がこすれて軽やかな音が響く。


 しゃん しゃん しゃりーん しゃん しゃりーん。


「リザンダヨー リザンダヨー ジゴクノソコカラ リザンダヨー」


 リザンの口をパクパクさせながら、わたしはアゴの周りを踊った。

 『地獄の番人』の頭からは、振るたびに金の光が溢れ出し、黒くてもやもやしたアゴに向かって伸びて行く。


『なっ、こんな虚仮威こけおどし、この凶神アゴレイヤ様には通用せんわ!』


 そういいながらも、もやもや動いて避けようとするアゴ。


 しゃんしゃん しゃらりん しゃらりん しゃん。


「リザンダヨー リザンダヨー ジゴクノリザンガ オシオキダー」


 しゃりーん しゃりーん しゃん しゃん しゃん。


「コンジョウマガッタ ワルイヤツー ジゴクノソコマデ ツレテイケー」


『くっ、こんなもの! ……なんだと!?』


 金の光を避けようとしたアゴは、それが実体のないアゴのもやもやに絡みついて離れなくなるのを見てうろたえた。


『な、なんだコレは!?』


 よく見ると、金の光の先には小さなリザンの頭がついていて、『ダヨー』『ダヨー』と言いながらアゴに噛みついている。


「リザンダヨー」『ダヨー』「リザンダヨー」『ダヨー』


「ジゴクノソコカラ リザンダヨー」『ダ』『ダ』『ダ』


 小さなリザンが次々とアゴに向かって飛んでいく。


『くっ、来るな! 来るなーッ!』


『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』「リザンダヨー」『ダ』『ダ』『ダ』


「ジゴクノオムカエ」『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』『ダ』


 アゴの身体中にたくさんの小さなリザンが噛みつき、絡みついている。ちょっとクリスマスツリーっぽいね。地獄のクリスマスだね。


 しゃりーん。しゃりーん。しゃん しゃん しゃらん。


「アハハハハハハハ タノシイネー ジゴクノオドリヲ オドロウヨー」


『やめろ! やめろ、もうやめろーッ! がぎゃああああああああああーッ!』


 奇妙な叫び声を上げながら、アゴは地面にずぶずぶと沈みこんで行く。


『離せ、いやだ、地獄へ行くのはいやだああああああああーッ!』


「酷い……リカさん、なんて恐ろしいスキルを手に入れてしまったんですか!?」


 ライルお兄ちゃんが、絶叫するアゴから目をそらしながら言った。


「パックン パックン オシオキダー ジゴクノソコマデ オシオキダー」


『いやだ、いやだ、地獄はいやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだい』


 アゴの全身が地面に潜り込み、見えなくなった。

 どうやら無数に現れた小さなリザンが、アゴを地獄へご案内してくれたらしいね。さすがは『地獄の番人』だけあって、いい仕事をするね!


 しゃんしゃん しゃりーん。


「リザンダヨー…… はい、たまごの踊りでした! どう、みんな? 楽しかったでしょ?」


 わたしがたまごボックスにリザンの頭をしまって振り向くと、観客たちは皆地面にうずくまっていた。


「うわあああああああああん、お母さーん!」


「大丈夫よ、ミリー。もう終わり。終わったからね」


「うわあああああああああん!」


 号泣するミリーちゃんを、エマさんが慰めていた。


 ありゃ、そんなにアゴのことが怖かったんだね、かわいそうに。


 と、たまごの殻をツンツンする手があった。


「リカさん……ちょっと、リカさん、すみません」


 ライルお兄ちゃんだ。

 お兄ちゃんもかなり顔色が悪いや。やっとのことで立っているよ。


「お兄ちゃん、たまご、悪い魔物をやっつけたよ!」


「そうですね、やっつけましたね……ははは……僕たちもやっつけられちゃいましたが……ははは」


 なぜか弱々しく笑うお兄ちゃんだよ。


「お疲れのところを申し訳ありませんが、みんなのダメージがことのほか大きくて……薬を調合してもらえますか?」


「うん、お安いご用だよ、たまごにお任せ!」


 わたしはたまごボックスから薬草と毒消し草を取り出して「みんなが元気になる薬を『調合』!」と唱えた。



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