勇者召喚編 たまごのパーティーだ!
「魔物がとりついている……なるほど」
エマさんの結界から出て、ミスリルの剣を構えたライルお兄ちゃんが、わたしの隣に来て言った。ミスリルの鎧は魔法攻撃にはめっぽう強いのだ。簡単な魔法なら無効化する力もある。特に今はライルお兄ちゃんが自分の魔力を鎧に注いでいるので、魔法攻撃を受けてもダメージはほぼゼロだろう。
たまごの活躍で影が薄いけどさ、ライルお兄ちゃんは本当にマジすごい冒険者なんだからね、フツメンだけど!
そのライルお兄ちゃんが言った。
「それならば、とりつかれている魔法使いたちから魔物を引き離さないといけませんね」
「そうそう、めんどくさいからって、みんなまとめてたまごアームで上下にまっぷたつにしたり、体当たりして肉塊にしたらダメなんだよね! ……えーと、ダメ、なんだよね?」
「……ダメです」
ライルお兄ちゃん、たまごはものすごく人道的な見解を述べているのに、なんでそんな目で見るの?
「リカさん、具体的な例をあげないでください。そういうことを考えてはいけません、特にめんどくさいからっていう理由では」
「あ」
しまった、またたまごの黒さが漏れ出ちゃってたね、てへ。
「たまご、天使のように真っ白な気持ちだから、絶対にそんなことをしないよーん」
わたしはくねくねしながら、たまごアームで飛んできた氷の槍をかここここここんと跳ね返した。飛んで戻った槍は魔法使いたちのローブを床に縫い止めた。
「はい、皆さん、無駄な攻撃はやめましょう! そして、ゲラル、前に出なさい!」
わたしは『どうせ言うことをきかないだろうなー』と思ったので、感じの悪いゲラルのおっさんをたまごアームで捕まえて、引き寄せた。
「ゲラルにとりついてる魔物、ちょっと外に出なさい」
おっさんを逆さにして、コショウの瓶を振るように振ってみた。
なにも出てこなかった。
「出ない」
隣りでライルお兄ちゃんが頭を抱えた。
「出てこないと、ゲラルごとヤっちゃうよ?」
隣りで頭を抱えていたライルお兄ちゃんが、はっとしたように顔をあげて「ダメ!」と叫んだ。
「……なーんちゃって!」
急いでごまかすたまごだよ。
『……ククク……この人間を殺したら、別の者にとりつくだけだ。この世界の人間は、阿呆で馬鹿でお人好しだが、少しは黒い心も持っているからな』
ゲラルのおっさんがニヤリと笑った。
『そら、ヤってみろ。代わりはいくらでもいる』
「むかつくおっさんだね!」
わたしはゲラルをポイッと捨てた。
「阿呆で馬鹿でお人好しって、やっぱりいい人たちばかりなんじゃん。たまごはね、正義の味方だからそういう人たちが大好きだし、この世界のためにがんばっちゃうよ! んで、あんたみたいなのは大嫌いだからさ……楽しく遊んであげるよ」
『遊ぶ……だと?』
ゲラルの中の魔物が、立ち上がりながら言った。
「そ。ちょっと支度するから待ってなね」
わたしは広間にあった祭壇のような立派な台に近づくと、たまごボックスから水龍の洞窟で拾ってきた結晶を出した。
透明で、赤青黄色緑ピンク、その他様々に淡く色づいていて綺麗な結晶を、台にグリグリとねじ込むと、台が削れて結晶が刺さった。
「お、なかなかいい感じ」
わたしはたくさんの結晶を台に差した。オブジェのようになった。
「見て見てお兄ちゃん、綺麗でしょ?」
「はい、確かにとても素晴らしいですが……」
『たまご、なんの真似だ?』
わたしがどんな攻撃がするのかと身構えていたゲラルの中の魔物が、警戒しながら尋ねた。
「楽しく遊ぶって言ったじゃん。さあ、エマさんたち、この部屋の照明を落として暗くして!」
「は、はい」
3人の聖女たちが、神力を使って灯りを消した。
『ふっ、闇は我らの力の糧となる。愚かなたまごめ』
「そうだね。そして、聖なる光はあんたたちを滅ぼすんだ」
わたしは、真っ暗になった広い部屋の真ん中で、結晶をたまごアームで叩いた。
こーん。
結晶からグリーンの光が放たれた。
『ぐふっ』
ゲラルが膝をつく。
「思った通りだ。あの洞窟でもさ、」
きーん。
「この光を浴びて、洞窟にいたアンデッドたちが苦しんでたんだよね」
かーん。
「邪悪なる者には毒になる光、という訳ですね」
ライルお兄ちゃんが、床に倒れたゲラルを見て言った。
「うん。わたしたちには綺麗なだけの光だけどね」
かかんこきん。
ゲラル以外の魔法使いたちも、みんな床に伸びている。
ききんこかんこんこかんこきん。
リズムに合わせて巻き起こる光が広間を明るく照らした。
誰かが「まあ、なんて美しいのかしら……」「素敵なリズムにまばゆい光、さすがは聖なるたまごさまです!」と言った。
『ぐああああああ、やめろーッ!』
美しい光は魔物の身を焼く聖なる光のようだ。魔法使いたちは苦しんで、その身体から黒い靄のようなものが立ち上ってきた。
わたしはのたうち回る魔法使いたちを見ながら言った。
「さあ、たまごのダンスパーティーだよ!」
『やめ、やめろと言って……』
親玉のゲラルの中の魔物が言ったけれど、もちろんやめるわけがない。
かんかんかかんこかこんここん♪
きんこんここんこかんこんきん♪
「オーイエー!」
かかんここかんこきんきんきん♪
きんここかんここきんきんきん♪
七色の光がまばゆく放たれ、生き物のように部屋中を巡って明るく照らした。
「ああ、なんだか踊りたくなってきたわ」
「これは楽しいな!」
「おお、楽しいな!」
我慢できなくなったレオン&クルトが、前に飛び出して踊り出した。
アイドルグループも真っ青なかっこいいダンスパフォーマンスだよ! さすがは騎士団ユニット、レオン&クルト!
日頃の苦しい訓練が、今実を結んだね!
いやいや、神殿の聖女ーズも負けちゃいない。
白い巫女服を翻して、素晴らしく華やかな踊りを見せてくれるよ。
いや、魅せてくれるよ!
あっ、そこに加わるのは神官ズ。
揃いの衣装で見事なウェーブパフォーマンスだ!
『お……のれ、おのれエエエエエエエエーッ!』
とうとう堪えきれなくなったのか、魔法使いたちの身体からぶわーっと黒い靄が立ち上ってひとつにまとまった。
『我はそのくらいの……ぐああああああ!』
すかさず斬りかかったのは、ミスリルの剣を抜いたお兄ちゃんだ。見事な剣舞を舞いながら、触手のようなものを伸ばしてみんなに攻撃をしかけようとする魔物を、しゅばっ、しゅばっ、と斬っている。
「観念して元の世界に戻るがいい」
きゃああああ、ライルお兄ちゃんがキメゼリフを言っちゃってるよ、かっこいいね!
思わずくねくねしちゃうたまごだよ。
しかし、そのくねくねした隙に、結晶を叩く手がお留守になった時に、魔物がぶわああああっと膨らんで神殿の天井を破って外に出てしまった!
「あー、逃げるとは卑怯なり、だよ!」
わたしは、聖女ーズの結界が上から降ってくる瓦礫からみんなを守ってるのを確認してから、魔物の後を追った。




