勇者召喚編 神殿なう
お金がたんまり手に入った!
買った!
食った!
買った!
食った!
買った!
食った!
「さあ、神殿に着きましたよ」
「わあ」
串に刺さったモチモチしたお団子を食べていたら、神殿の前に着いていた。
無一文の時に目をつけていた屋台の食べ物を楽しく買い食いしているうちに、いつの間にか目的地に誘導されていたよ。
さすがはライルお兄ちゃん、伊達に『たまご取り扱い主任者』を名乗ってないね。
たまごは買い食いに夢中だったから他には無駄遣いができなかったし、見知らぬ旅行者にいちゃもんをつけてくる悪いやつにも気づかなかったから、リザンの頭を出す機会もなかったよ。
「あっ、聖なるたまごさまご一行だ!」
神殿の入り口に、なぜだかたくさんの人が集まっている。
もしかして、わたしたちのお出迎えなの?
「おお、あれが聖なるたまごさま!」
「すごい、本当にたまごそのものだ」
「なんてご立派なたまごさまなのでしょう」
「いや、確かにたまごではある。だが、たまごを超える存在感を放つたまごだな!」
「殻の艶が普通のたまごとは違うな、うん、わたしにはわかる」
え、ちょっと待って!
聖なるたまごってなに?
そして、そんなに面と向かって誉められると、たまご、照れちゃうの。
わたしはライルお兄ちゃんの陰に身体を隠そうとしたが、なにしろ巨大なたまごなので全然隠れない。
「リカさま、ようこそ神殿へ! お待ち申し上げておりました」
顔馴染みのミーリアさんが近寄ってきたのでほっとする。わたしはたまごの中で残りのお団子を素早く食べて、残った串はたまごに「これ、捨てておいて」と引き取ってもらう。
そして、気の利くたまごが出したぬるめのお茶を飲んで落ち着いてから、ミーリアさんに言った。
「お待たせ。で、なんの騒ぎなの? こんなにたまごを歓迎してくれるなんて。まさか、ずっとここでわたしたちを待っていたわけじゃないよね?」
ミーリアさんは「うふふ」と可愛らしく笑った。
「もちろん違いますわ。リカさま、ここへ来る途中で果物屋さんでお買い物をされましたでしょう?」
「果物屋さん……うん、したよ」
そう、赤くて瑞々しい、プラムをもっと甘くしたような美味しい果物を買って食べたよ。果物屋のおかみさんが、ナイフですぱぱぱぱぱんと食べやすく切って剥いてくれて、おまけに黄色くてねっとりしたやっぱりすごく甘い、パパイヤみたいな果物を盛り合わせて器にたっぷりくれたんだ。
さらに、「せっかくだからこれも味見しなよ」と緑色をしたメロンみたいな果物までくれたから、それはたまごボックスにしまって、お礼に思わずたまごアイスを食べさせちゃったら、目を丸くしてしゃくしゃくかじってたよ。
で、ずーっとにこにこしてる上機嫌のおかみさんが剥いてくれた果物は最高に美味しくて、ライルお兄ちゃんと夢中になって食べちゃったんだよね。
でも、その果物屋さんがどうしたんだろうね?
「そのお家、聖女シルビアさまのご実家なんですよ」
「……ええっ!? 聖女って、一般人なの!?」
「はい。普通の市井の人で、神託があって決まるんです。たいていは独身の若い女性で、結婚しても続けることができるし、引退して次の聖女に引き継ぎ、もっと楽な神殿の業務に就くこともできます。聖女の仕事は結構大変なので、子育てと両立させるには家族の協力がかなり必要ですしね。ゆっくり子育てに専念したくて引退する方の方が多いです」
「へええ」
今回の聖女シルビアみたいに出張なんかもあるし、命がけの仕事もあるだろうから、子育てしながらだと難しいんだね。
それにしても、聖女がキャリアウーマンだったなんて、知らなかったね!
「わたしたちがたまご戦士のリカさまたちのおかげで無事に戻れたことは、シルビアさまのお母さんにも伝えられましたからね。果物屋さんに立ち寄ったことは、興奮したおかみさんから神殿へ連絡が来てます」
だからあんなに上機嫌で、たっぷりおまけをしてくれたんだね。
「それで、わたしたちが到着するのがわかったんだ」
「はい。怪鳥アビスパーを倒されたリカさまに早くお会いしようと、このように皆で待ち構えていた次第です。お騒がせして申し訳ございません」
「いいってことよ!」
わたしは頭を下げるミーリアさんにアームを振り、ついでにお迎えの皆さんにも振っておいた。これもアイドルとしての大切な仕事だからね。
「なあんだ、そんなことならおかみさんも言ってくれれば良かったのにさ」
「怪鳥アビスパーのことはまだ公表されていませんので、おかみさんもたまごさまに直接お礼を言いたくても言えなかったのですよ」
だから、気持ちをおまけで現してくれたのか。
「お疲れのところ申し訳ございませんが、神官長のところへご案内してもよろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
わたしとライルお兄ちゃん(やっぱりミスリルの鎧が噂になっている。あのね、お兄ちゃんはフツメンだけどね、すごく強い人なんだよ? 中身も噂してあげてよ)は、ミーリアさんの案内で、神殿の中へと向かった。
「あ、グラントさんだ」
神殿の中の応接室は、装飾のない素朴な造りの部屋だった。神殿自体も落ち着いた荘厳な雰囲気にデザインされたしっかりした建物だけど決して華美ではなく、まあ、お金の使い方をまちがってない感じだね。
そこに、門まで迎えに来てくれた、フツメンだけど地位の高そうなおっさんがいたので声をかける。
「グラントさん、お待たせー」
「お疲れさまでした。町は楽しめましたか?」
グラントさんは、にこやかに言った。
「うん、美味しかったよ。あとね、冒険者ギルドにも顔を出してきた。他の冒険者には手強くて、できればいいお金になりそうな魔物がいたら、遠慮なくたまごに任せなよ。さくっとやっつけてきてあげるからさ」
主に味覚で楽しんだわたしは答え、ついでに商売アピールもしておいた。
部屋には、グラントさんの隣にもう少し年上らしいおっさんと、聖女のシルビアさん、そして、女性が二人いた。
あれ? 年上っぽい女性はちょっと顔色が悪いね。病気なのかな?
「こんにちは。わたしは神官長を務めておりますクールガと申します。この度は聖女シルビアとその一行の命を救ってくださり、怪鳥アビスパーを退治してくださいまして、ありがとうございました」
「あ、ども」
「さらには大量の魔物を引き取り所に納めてくださったとのこと、重ね重ねありがとうございました。おかげさまで、食肉不足が解消されます」
知らないおっさんは、神官長だった。わたしが「いいってことよ! わたしは愛のたまご戦士だからさ!」と爽やかに答えると、ライルお兄ちゃんが補足してくれた。
「おそれいります。僕は旅の冒険者ライル、そして、愛のたまご戦士はたまご族のリカです。腕がたち、非常識に強く、意表をついた行動をしますが気のいいたまごです。僕たちは、魔力の暴走に巻き込まれたらしく、このミランディア国に飛ばされて来ました」
「魔力の暴走、ですか……」
神官長は微妙な微笑みを浮かべた。
「そうです、魔力の暴走です」
接客用の笑顔で、お兄ちゃんは言った。
「……水龍ウォルタガンダ、ご存じですね」
「まあ、成り行きで相対しましたが」
「水龍ウォルタガンダより聖女に言付けが来ました。ミスリルの勇者と類い希なるたまごが、ミランディア国の力になるだろう、と」
「……地味に『調査員』にしてくれと言ったのに……」
「その前には、救いを求めて神に祈っていたわれわれに神託があったのです。『輝ける鎧の勇者と聖なるたまごが、ミランディア国で救うであろう』と」
「ああ、そんなことを……神々というのは派手好きなのが困りものですね、鎧を脱いで来るべきでした……って、たまごはどうにもなりませんでしたね」
勇者なのがバレバレだったのでがっくりと肩を落とすライルお兄ちゃん、ドンマイ!
「勇者ライルさま、聖なるたまごリカさま、どうかこの国をお救いください」
一同が頭を下げた。
「どうか……」
「あっ、エマさま!?」
「しっかりなさってください!」
わあ、大変!
顔色が悪い女性が倒れちゃったよ!




