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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
勇者召喚編

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勇者召喚編  焼き鳥祭り?

 軽い振動が伝わってきてから『怪鳥アビスパーを倒しました』というアナウンスが聞こえた。わたしはたまごアームを伸ばすとアビスパーのくちばしをこじ開けて外に出た。


「ふう、二丁あがり」


 たまごボックスの中に怪鳥をしまっていると、ミランディアの騎士たちが駆け寄ってきた。


「リカ、大丈夫か!?」


「ケガはないか!?」


「無傷だよ、心配ないよ」


 わたしはふたりに向かってひらひらとアームを振って、元気アピールをした。たまごには顔がないから、にっこり笑って見せられないんだよ。


「自ら怪鳥の口の中に飛び込むとは!」


「なんという無茶な戦い方をするのだ!」


「我らは肝を冷やしたぞ!」


「女性が自分を粗末に扱うものではない! 若い女性が、身体に傷でもついたらどうするのだ!?」


 大変だよ、心配をかけてしまった騎士たちにお説教をくらっちゃったよ。


「殻にひびなど入っていないだろうな?」


 たまごの周りを回って、チェックされてしまう。


「痛いところはないか?」


「ないよ……あの……ありがとう……」


 たまご、なんだか照れくさくなってもじもじしちゃう。

 この姿で女の子扱いをしてくれる人がいるとは思わなかったよ。


「心配かけてごめんね。わたしはすごく強い、愛のたまご戦士だから大丈夫なんだよ」


「……うむ、ひびはない」


「己の強さを過信してはいけないぞ。ともあれ、無事で良かった」


「助けてもらって感謝するが、次からは我らを頼るのだぞ」


 うわあ、ふたりでたまごの頭をぽんと撫でてくれたよ!

 ダブル撫でポだよ、これはぐっときちゃうね!

 照れちゃう! たまご、照れちゃう!


「ああ、まだ名前を名乗っていなかったな。わたしはミランディア国騎士団のレオン」


「同じくクルトだ。今回、聖女シルビアさまの護衛の任務についている」


 たまごの薬でケガも治り、体力も回復した騎士たちは、結構イケメンであった。体型もがっちりしていて、これは女性にモテそうだね。

 ……ライルお兄ちゃん、なんかごめんね。


「レオンとクルトだね。よろしく」


 わたしたちは、改めて固い握手をした。


「じゃあ、急いで聖女の所に戻ろうよ。あの三人はかなり離れた所にあるたまごの結界の中にいるんだ。馬はいないみたいだから、レオンとクルトはたまごが運ばせてもらうよ」


「運ぶ?」


「どうやって?」


「たまごが抱えて走るよ。乗り物に慣れてないとたまご酔いするからね、まずは薬を食べてもらうよ」


 わたしは薬草と毒消し草を取り出して「たまご酔いしなくなる薬をふたり分、あとわたしのおやつ分を『調合』!」と叫んだ。


「さあ、この『すごいたまごアイス』を食べてよ」


 レオンとクルトは『すごいたまごアイス』を受け取ったが「これが薬なのか?」「……よくわからないが、さっきの回復薬も美味しい飲み物だったしな」「そうだな、しかも効き目は抜群だった」と首を傾げ、しゃくっとかじった。


「おお!」


「なんたる美味!」


「たまごの薬はすごく美味しくて、元気な人のおやつにもいいんだ。遠慮なく食べてよ」


 わたしもたまごの中でしゃくしゃくアイスを食べ、怪鳥アビスパーとの戦いの疲れを吹っ飛ばした。






「ただいまー」


 たまごアームにレオンとクルトを抱えたわたしは、馬より早いくらいの速度で走ってたまごの結界の所に一気に戻った。

 うっかりマッハの速度なんか出しちゃったら、騎士たちがつぶれちゃうからね。こんなに性格のいいイケメン騎士を葬っちゃうわけにはいかないからね。


「ほら、着いたよ」


「驚いた。まったくもって、驚いた」


「我らを抱えてこのスピードで走り続けるとは……」


「たまご戦士とは、大変な実力を持つ種族なのだな」


 あらかじめ食べた『すごいたまごアイス』のおかげでたまご酔いする事もなく、滑らかなたまごの走りを楽しんだレオンとクルトは、感心しながら言った。


「ありがとう、リカ」


「いいってことよ。あ、聖女が出てきたよ」


「シルビアさま! ミーリアとガンクも無事か!」


 「リカさん、お疲れさま」と言うライルお兄ちゃんを先頭に、聖女のシルビアさんとお付きのミーリアさん、護衛のガンクさんがやってくる。


「レオンさま、クルトさま、よくぞご無事で!」


 聖女のシルビアさんも、ミーリアさんも、おまけにガンクさんも目を潤ませている。たまごが行かなかったら、このふたりは間違いなく名誉の戦死をしていたからね。


「すべてはたまご戦士のリカのおかげだ」


「不思議な薬でケガもすべて治してもらった」


「まあ……まさに聖なるたまごですわ……」


 シルビアさんは、わたしに向かって「たまご戦士さま、ありがとうございました」とお礼を言った。


「いいってことよ! わたしは正義の味方、愛のたまご戦士だからね。困っている人を助けるのが仕事なんだ」


 そして、評判をあげてミランディアのアイドルになることと、お金になる魔物を倒して大儲けするのも仕事だけどね、うひひ。


「怪鳥アビスパーを追い払ったのですね。今のうちに王都に逃げましょう」


「シルビアさま、そのことですが」


 レオンが言った。


「『帰還の陣』で、このふたりを連れて戻ってください」


「我らは後から戻りますゆえ」


「……そうでしたわ。『帰還の陣』は、5人しか運べませんね……」


 わたしとライルお兄ちゃんは、顔を見合わせた。


「お兄ちゃん、『帰還の陣』って」


「王都まで転移する魔導具でしょうね。ところで、怪鳥アビスパーとやらは……惨」


「さくっとヤりました!」


 慌てて答えるたまごだよ。


「そうですか」


 ライルお兄ちゃんに撫でられたので、いい気分になり、それからさっきのダブル撫でポを思い出して少し後ろめたくなるたまごだよ。


「聖女のシルビアさん、わたしとライルお兄ちゃんのことは気にしないで戻りなよ。あとから王都に行くからさ」


「そんな、一般の方を危険な目にあわせるわけにはいきませんわ! いつまた怪鳥アビスパーが襲ってくるか……」


「襲ってこないから」


「え?」


「鳥はやっつけちゃったから、安心してよ。あとは食べるだけだよ」


 そうそう、鳥祭りを開かなくちゃね!

 醤油をベースにタレを作って、焼き鳥も作りたいなあ。炭火焼き鳥は美味しいよね。


「たまご戦士さま、いったいなにを……」


「たまごのリカ、俺は神殿の護衛を務めるガンクという。やっつけたとはどういう意味か、教えて貰えるか?」


「どういうって……倒してたまごボックスにしまってあるよ?」


「倒し……たのか? ええっ? 怪鳥アビスパーを?」


「ガンク、信じられないだろうが……」


「リカは怪鳥アビスパーを二羽、ひとりで倒してしまったのだ」


 ガンクさんは、ぽかんと口を開けた。

 シルビアさんとお付きのミーリアさんも、ぽかんと口を開けた。


「シルビアさんたちは、なんのために王都から来たの?」


「あ……し、失礼いたしました。はい、魔物の森から出てきた怪鳥を、神力で戻すために来たのですが……予想以上に困難で……」


 どうやら、アビスパーは本来平原には来ない魔物のようだ。ここでも聖女の力に異変が起きているらしい。わたしはまた、ライルお兄ちゃんと顔を見合わせた。


「とりあえず、怪鳥はリカさんが倒したそうなので、シルビアさんたちの仕事は終了ですね。どうぞ5人で王都へお帰りください」


 お兄ちゃんが穏やかに言ったが、騎士たちは退かなかった。女性を残して戻るわけには行かない、とか考えているのだろう。


「いや、我々が残る」


「ねえ、わたしたちのことは気にしないで帰ってよ。王都で報告とか、レオンとクルトも仕事がいろいろあるんでしょ? わたしとお兄ちゃんは、のんびり旅を楽しみながら行くからさ、気にしなくていいよ」


 わたしはレオンとクルトの肩をポンポン叩きながら言った。


「王都に着いたら遊びに行くよ。一緒にアビスパーを食べよう。鳥祭りをしようよ、たまごは料理も上手いんだよ」


「とっ、鳥祭り!?」


 シルビアさんたちは、目を丸くして言った。


「レオンさん、クルトさん、リカさんの強さをその目で見たでしょう? 僕たちのことは心配無用ですよ」


「そうだよ。このライルお兄ちゃんも、かなり強いよ」


「常識内ですが」


 人間、自分のことは客観視できないものだよね。

 ヤマタノオロチの頭を八つ落としたライルお兄ちゃんが、常識内なわけないじゃんね。


「そう……だな、確かにそうだ」


「怪鳥アビスパーの口に飛び込んで、平然としている戦士を心配するなど、おこがましいかもしれないな」


 レオンとクルトが言った。

 ライルお兄ちゃんが「口の中に? 飛び込んだ?」と言った。

 あ、なんかヤバいな。


「さあさあ、そうと決まればさっさと撤収だよ! シルビアさん、その『帰還の陣』とやらを用意して、とっとと帰りなよ。仕事の報告を早くしなくちゃ!」


「あ、はい」


 わたしにつつかれて、シルビアさんは首にかけてあったメダルを外した。


「それでは、お言葉に甘えて、お先に王都で向かわせていただきます」


「リカ、王都で会おう!」


「必ず来るのだぞ?」


「おっけー、約束するよ!」


 たまごがアームをひらひらすると、シルビアさんはメダルを握ってなにやら祈りの文句らしきものを唱えた。

 すると、メダルが光り出し、5人の身体を光が包んだ。


「ばいばーい、あとでねー、おつかれー」


 わたしがアームを振ると、5人も手を上げたり会釈したりして応じ、そして姿が消えた。


「転移したね」


「そうですね」


「わたしたちも行こうよ。あ、念のために『すごいたまごアイス』をもう一本食べておく?」


「いえ、その前に」


 ライルお兄ちゃんがにっこり笑って「怪鳥アビスパーを見せてもらっていいですか?」と言ったので、わたしは小さな声で「惨殺してないよ?」と答えたのであった。

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