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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
勇者召喚編

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勇者召喚編  水龍はなぜ?

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」


 わたしは、大粒ダイヤをもらった女子のようにキラキラの虹色の鱗をきらめかせて、今や気持ちを隠そうともせずに喜んでいる水龍ウォルタガンダに言った。


『ふうむ、よいな。なかなかよいではないか……おお、なんだ?』


 話しかけても反応が鈍い。

 もうっ、水龍ったら、ハートは新しい鱗に釘付けなんだね!

 そこまで喜んでもらえると、たまごは嬉しいよ。そして、鱗をむしっちゃったことも、このままうやむやになりそうで嬉しいよ。


 わたしはご機嫌な水龍に言った。


「わたしたちがなんでここまでやってきたのかって話だよ。ここは、キシテルの村の泉の、水源なんでしょ? あんたはここでなんの役割をしてるの? で、泉の水を減らしたのはどうして?」


『ああ、水か』


 水龍は、しっぽを振って鱗を光らせるのをやめて話しだした。


『いかにも、わしが泉の水を減らした。わしは普段からここに住んでいるわけではないが、いざという時に水に関して司る存在であるからな、今回は問題があったのでここに来て、各泉の水量を減らして対応しておるのだ』


「なるほど、水龍は水関係をまとめて管理しているんだね」


 どうやら水龍は自分のお仕事をしていただけで、意地悪をして水を減らしたわけではなさそうだ。


「問題とは、水源になにかあったのですか?」


 どんなときでも冷静で、水龍とわたしの様子を見守ってたライルお兄ちゃんが言った。

 水龍は頷いた。


『そうなのだ。ここまでたどり着いたお前たちなら、もしかしてこの事態をなんとかできるかもしれんから話すが……』


「ごめん、うちらは魔法の暴走でこの国に来たから、ここのことをなーんにも知らないんだ。そのつもりで説明をよろしく!」


『たまご……偉そうに偉くないことを言うやつだな』


 胸を張るわたしを、あきれたような水龍がしっぽの先で小突いた。


 てへっ。






 このミランディアの国では、魔力の強い龍たちがいろいろな力を司り、国全体のバランスをとっている。特に【エレメンツ】と呼ばれる龍が5匹いて、それぞれ水、火、空気、土、植物に関する事象に関わっている。


 しかし、龍の実質の役割はほとんど見守りで、実際に力を行使してコントロールするのはミランディアの国に3人いる聖女なのだ。


 聖女たちには特に属性はなく、3人で分担して『祝福』という特別な力を用いて、例えば降水や水の流れなどが災害を起こしたり不足したりしないように調節している。


 このシステムは何百年も続いていて、今まで困ったことはなかった。

 しかし、近頃聖女たちによるコントロールが不調なのだという。


『明らかに降水量が減少したのにも関わらず、泉の水量が変わらぬ。本来ならば聖女がそこも制御するはずなのだが。そして、このまま雨が降らなければ、地底湖の水量も減っていく。泉がひとつやふたつならともかく、ここはミランディア中のかなりの数の泉の水をまかなっているから、放置しておくとやがて泉の水が枯れ果ててしまう。となると、大きな被害が出るだろう』


「泉が完全に枯れたら飲み水は川まで汲みに行かなければならないし、雨が降らないからその川の水量も減少していくわけか……」


 村の代表でここまで来たカーボンさんは、青い顔をして言った。

 事態の深刻さに、今の非常識な状況に対する戸惑いは吹っ飛んだようだ。


「水は人の生存に不可欠なものですからね。これは大変な問題です」


 お兄ちゃんも、なにやら考え込んでいる。


『今は水量を減らして降水を待っている。王都の者たちも、この状況に気づいているから、現在対策を練っているはずだ。だが、どうにもできなかったとしたら……最悪の場合はわしが雨を降らせるしかない。しかし、聖女に仕事任せていることからもわかるだろうが、わしの力はいささか強すぎてな。豪雨を引き起こしてしまい、下手をすると村をいくつか流してしまうかもしれんのだ。わしとて、大災害を起こした凶龍などと思われたくないからな』


「わかります、非常識に力があるのも考えものですよね」


 お兄ちゃん、こっちをちらっと見ないでよ!


「ねえウォルタガンダ、他には困ったことは起きてないの? 他の龍たちからは連絡は?」


『いや、特にない。我らは精神の一部がつながっているから、必要とあらば即座に連絡を取り合うことができるのだ。今日のこともすでに伝わっている』


「そっかー。……あ、あんた、もしかして、そのキラキラの鱗自慢なんて送ってないよね?」


 水龍の目が泳いだ。


『いや、そんな自慢など送ったりはせんわ。個人的な用事など……事態の説明のため、画像をひとつ送ったが』


 インスタグラムかよ!


「それだけだ」


 まあ、動画じゃないだけよしとしてやるか。


「結局、事の原因は王都の聖女なわけだね。じゃあ、王都に行ってそこんとこを調べてくるよ! さあ帰るか」


「待てたまご!」


 帰ろうとしてくるんと方向転換したわたしのたまごアームを、カーボンさんがつかんだ。


「ちょっとカーボンさん、かっくんってなっちゃうじゃん!」


「勝手に帰るな」

 

「まだなんか用事が……あ、半透明の壁に穴を開けちゃったんだけど、あんた、直せる?」


『ああ』


「じゃ、雨が降るまで引き続き水量の管理をよろしく」


『ああ』


「終わり」


「ちょっと待てったら!」


 ずいぶん引き止める男だね。


「王都に行って、すぐに調べられるものではないぞ! よそ者の冒険者が国の重鎮にそう簡単には会えん」


「……可愛いたまごでもダメ?」


「無理だな」


「ううん、それは困るな……いろんな手柄を立てて顔を売って、なんてやってたら、水が干上がっちゃうよ」


 確かに、今すぐにどうという問題ではないけどね。不便な状態だし、もしかすると畑の方が雨不足で大変なことになるかもしれないし。食糧難は困るよ。


『では、わしが王都の聖女に連絡を送ろう。ミスリルの鎧に身を包む冒険者と……ううむ、たまごが、ミランディアを救いにやってきたので迎えるがいい、と』


 おお、『勇者誕生!』的な感じだね!

 ばばーんと、鳴り物入りで宮殿の扉を開けちゃったりするかな!

 登場するときのセリフを考えておかなくちゃね。


「いえ、もっと地味に出迎えてもらえますか? 調査員が来るので便宜をはかるように、程度で」


 うわー、さすが堅実なギルド職員、全然華々しくない紹介を頼んじゃってるよ!


 不満げなたまごに、お兄ちゃんが言った。


「リカさん、こういう時は目立たないように動くのが得策です。王都の人たちがどんな人間なのか、僕たちは全くわかりません。権力の中枢には、利権を求めて暗躍する者たちがいないとも限りませんからね」


「わかるけど……わたしのアイドルとしての魂は、それじゃあ満足できないの」


「秘密のある女スパイ的なアイドルはどうですか?」


 お兄ちゃんがにこやかに言った。


「鮮やかに事件を解決して、最後に美味しいところを持っていくのは」


「なるほど、いいね! その感じ、なかなかかっこいいよ」


 マンガでよくあるどんでん返し的なやつだね!


「最後にみんなをびっくりさせましょう」


「させましょう、させましょう」


 ワクワクしてステップを踏むたまごだよ。


「というわけなので、その線で連絡をよろしくお願いします」


『お、おう、わかった。そのように伝えておくぞ』


「さすがは『たまご取り扱い主任者』、鮮やかな手並みだな!」


 カーボンさんが感心して言った。

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