表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/89

美味しい薬と美味しいお土産

「たまごおはよう。朝はアメリカンブレックファースト的なやつが食べたいな。たまごはスクランブルでジューシーなソーセージをつけて、ジュースはグレープフルーツ」


 起きるなりベッド上で朝メニューをリクエストするのはいかがなものかと思ったけど、洗面所で顔を洗って戻ったら『お食事の用意ができました』と早速テーブルに朝食ができていた。


 いやあ、朝から食が進むね!


 厚切りこんがりふんわりトーストにバターをたっぷり塗って、今日も美味しいごはんを堪能した。


 そして、部屋着をクリーンボックスに放り込んで昨日買ったチュニックとズボンに着替える。

 あ、そういえば靴がないね。

 たまごの中は裸足だし、外に出ることもないからすっかり忘れていたけど、万一に備えて一足欲しいなあ。異世界は何があるかわからないからね。


 わたしは装備をたまごに戻して、門へ行った。今日はバザックさんがいた。


「あっ、バザックさんだ、一日ぶりだね。おはようございまーす」


「おはよう、リカ。困ったことはないか?」


「大丈夫だよ。バザックさん、昨日お友達ができたんだよ」


 わたしはカードを見せながら言った。

 あれ、バザックさんて偉い人だから敬語で話さなきゃいけなかったっけ?

 まあいいや。


「おお、そりゃ良かったな」


「エドっていう男の子なの。知ってる?」


「知ってるぞ。ガウスの息子だな。いい子だ」


 バザックさんは門番やっているから、町中の人を把握しているのかな。すごいね。


「ガウスって人がエドの出稼ぎに行っているお父さんなんだね。鉱山だっけ」


「詳しいな」


「うん、ララと、お母さんのエルザにも会ったからね。うちを教えてもらったんだよ、今日も会いに行くよ」


「そうか……」


 ちょっと表情が暗くなったのは、エルザの病気のことを考えたからかな。


「じゃあまた後でね。今日もエドと薬草採取に行くと思うから」


「ああ、後でな」


「あっ、これあげるよ、」


 わたしはアームを使ってボックスからあるものを取り出して、バザックさんに渡した。


「わたしの故郷のお菓子だよ。美味しいから食べてね、じゃあね」


 アームをひらひらすると、エドのうちに向かった。


 今朝はね、お土産を持ってきたんだよ。

 朝食後に「持ち運べるおやつが欲しいなあ」と呟いたら、たまごサブレが出てきたんだ。

 もちろん、わたしのお味見のためにサブレを一枚と香り高い紅茶をさりげなくテーブルに用意してくれたよ! 

 バターのきいたたまごサブレは甘くてさくさくで、ほんのり色づいたふちが香ばしくて美味しかった。

 よく出来たたまごだよ。わたしのハートはたまごにくぎづけだよ。

 この世界にはビニール袋なんてないから、サブレをそのままたまごボックスに突っ込んじゃったけど。大丈夫だとは思うけどね。


「おはよう、リカだよ」


「リカお姉ちゃんだ!」


 家の外から声をかけると、エドが飛び出してきた。

 勢い余ってたまごの殻にぶつかって、鼻を押さえている。


「いたた……」


「大丈夫? あわてんぼだね。たまごの殻は硬いから気をつけなよ、鼻血出ちゃうよ」


「うん……」


 せっかくかわいい顔をしてるんだから、鼻をつぶしちゃ駄目だよ。


「あのさ、お母さんがさ、すごく元気なの。お姉ちゃんの薬が効いたんじゃないかと思うの。薬草と毒消し草を飲むよりずっといいんだよ」


 鼻を押さえながらも、エドは嬉しそうに言った。


「そうなんだ、良かったよ」


 重病人に卵酒飲ますとかどうかと思ったけど、効いたなら良かった。


「お邪魔していい?」


「どうぞ、入って。お母さん、お姉ちゃん、リカお姉ちゃんが来てくれたよ」


 小さな家にお邪魔する。

 ワンルームのたまごハウスくらいの広さしかないよ。

 部屋の隅のベッドで、エルザが起きていた。


「おはよう、エルザさん。顔色がいいね」


「来てくれてありがとう、リカさん。おはよう」


「リカさん、おはようございます。今、お母さんは果物を少し食べたところなんですよ」


 エプロンをつけたララが言った。小さなお母さんなんだね。


「薬は飲んだの?」


「まだこれからです」


 エルザさんは、ちょっと眉をひそめて言った。

 あれ、まずそうだもんね。


「じゃあさ、良かったらまたわたしの薬を飲んでみる?」


「いいんですか?」


 表情がぱああっと明るくなった。

 かわいいね、エルザさん。卵酒が美味しかったんだね。


「エド、薬草と毒消し草をもらえる?」


「はい、お願いします!」


 わたしはたまごアームで二種類の草を受け取り、強く念じて言った。


「エルザの病気が治って元気になる薬を『調合』!」


 たまごアームの先が光った。

 器を握っていた。


「……え? 薬?」


 丼である。

 わたしはじっと丼の中の黄色っぽい物を見つめる。


 『鑑定』の表示が出たので触れる。



『すごい卵粥』



 ……もう突っ込まないし、驚かないよ。

 でもさあ。

 これってどうよ?


 わたしは『すごい卵粥』の文字を長押しした。



『すごい卵粥』〈あらゆる病気を治し、元気な人をより元気にするすごい卵粥。鰹と昆布の出汁が効いていてとても美味しい。




 へえ、健康な人もいけるんだ。

 ……美味しそうだな。

 後でわたしもたまごに頼んで出してもらおう。


「さあ、エド、スプーンは?」


 わたしはエドが持ってきたスプーンをエルザに渡すと、丼を持たせた。


「熱いから気をつけて。ベッドじゃ食べにくいかな」


「大丈夫です、いただきます……ふわあっ、」


 一口食べたエルザが変な声を出した。


「美味しい! とても美味しいです!」


「良かった。それは卵粥っていって、食べやすくて栄養がたっぷりな、病人に最適な食べ物なんだよ。わたしの故郷では、風邪をひいたときなんかにも食べるね」


「ありがとう、とろとろのたまごに深みのある不思議な味がして、美味しいです」


 ふうふうぱくぱくと食べている。

 食が進んでるね。良かった、見ているこっちも元気になりそうだよ。

 さすが『すごい卵粥』だけあるね。


 あ、子どもたちが羨ましそうに見ている。

 あれはお母さんのお薬なんだから欲しがっちゃいけないと思いながら見ているね。

 エルザが視線に気づいちゃったよ。


「エルザ、それはエルザの薬だから全部食べて! エド、薬草と毒消し草はまだあるよね」


 取って来いをされた犬のように、エドがピュッて動いたよ。ちゃんとスプーンを二本持ってきてるところがいいね。期待で目がキラキラしてる。お姉ちゃんはそんな瞳に弱いんだ。


 二本のたまごアームに草を握る。


「ララとエドが元気になる薬を『調合』!」 


 ふたつ出た。


 ふたりの子どもに丼を渡すと、はふはふしながら無言で食べ始めた。

 よしよし、いっぱい食べて大きく育つが良い!






「エルザ、今日は寝てなよ」


 卵粥を食べたら元気が出てきたというエルザは、台所に立とうとした。

 確かに立ち上がった足はしっかりしているし顔色もいいけれど、昨日は危うくお星様になりそうだったんだよ? もう少し慎重にいこうよ。


「急に動けるようになって、しっかりしなくちゃって焦るのはわかるけどさ。今日のところはララに任せて休んで、完全回復を目指した方がいいと思うよ」


「でも、いつもララに無理をさせてしまっているから」


「ララはできる子だよ、甘やかすなら自分が治ってからでも遅くないよ。ね、ララ?」


「うん、わたしはお母さんにちゃんと治って欲しいよ」


「……」


「こんないい子に育てたのはエルザなんだから、引け目を感じることないって。……おとなしく休むなら、明日も薬を作ってあげるけど」


 動きを止めたエルザは、わたしの顔をじっと見てからベッドにもぞもぞ入った。

 おいおい。


「じゃあ、エルザのことはララに任せたからね。ちゃんと寝かせておいてね。わたしの勘だと、明日からは少し活動を始めて良さそうだから。わたしたちは薬草の採取に行ってくるよ。エルザも大丈夫そうだしもう薬草はそんなにいらないから、採った薬草は売って来よう」


 そうすれば、いくらかエドの家にお金が入る。

 美味しいもののひとつも買えるだろう。


 わたしとエドは家を出て町の門に向かおうとし、大事なことを思い出した。

 お土産渡してないじゃん!


 不審な顔のエドをひっぱって家に戻る。


「ララ、お皿を貸して」


 たまごアームをたまごボックスに突っ込んで、たまごサブレを掴みだした。

 結構な量を持ってきたので、大きなお皿にいっぱい乗せる。


「後でおやつに食べてよ。……どうしたの?」


 三人の目が、たまごサブレにくぎづけである。

 まったく、みんな食いしんぼさんだな!


 わたしはエドとララに一枚ずつ渡した。


「わかった、食べていいよ。食後のデザートがわりね」


 ふたりはリスのようにサブレを両手で持ち、端っこからかじりだした。


「おいし……」


「おいし……」


 金髪頭がふたつ、涙目になっている。


「リカお姉ちゃん、これ美味しいね」


 涙目で笑うエド、マジ天使。


「みんなで仲良く分けて食べるんだよ……エルザは? 食べられそう?」


 こくこく頷いているので、一枚渡してみた。

 かじって涙目になっていた。

 これだけ喜ばれると、お土産に持ってきた甲斐があるよ。


 よし、今度こそ出発だ!





 町の門ではバザックさんに、さっき一枚渡したたまごサブレについて根掘り葉掘り聞かれるはめになったのだった。


 美味しくて良かったね。





 たまご索敵を使いつつ、わたしはエドとおしゃべりしながら薬草と毒消し草を摘んだ。今日はワイルドウルフもワイルドベアも現れない。ただ、ワイルドターキーというでかい鳥が近くまで来た。臆病な鳥だから襲ってこないとエドが教えてくれたのだが、食べると美味しいと言うのでたまごアタックで倒してしまっておいた。エルザにお肉を食べさせておこうと思ったのだ。


 エドの話だと、そろそろお父さんのガウスがうちに帰って来るらしい。

 エルザにお金がかからなくなるから、ガウスの働き方も変わるだろう。

 そこまで見届ければいいかな。


 エドには、この町の事とか(ビルテンっていう名前の町だったよ、ようやく知ったよ!)馬車で一週間の所に王都があるとか、お金の価値とか(だいたい1ゴル10円でいいみたい)この国はエンドルクという国だとか、常識を教えてもらったので助かった。


 そんな感じでのんびり草摘みをしてその日は終わり、翌日もエルザと子どもたちに卵粥を食べさせて、やっぱりエドと草摘みに行き、まだ日が高いうちにギルドの引き取り所でお金に変えて、ちょっとふたりで町をぶらつこうか、なんて話していた時に。


 事件は起こった。

次回、いよいよたまごが冒険者らしい活躍をしますよ。

新たな成長が見られる……かも!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ