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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
勇者召喚編

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勇者召喚編 泉の秘密を探ろう

「さあ、ここが地底湖へと続く洞窟の、入り口……だよ……ヤバーこわー……」


 わたしは、ビビるあまりに少し語尾が弱々しくなりながら言った。

 風の吹きすさぶ、痩せた土地であまり植物も生えていない崖の上をしばらく進むと、そこにはぽっかりと開いた黒い口があった。

 たまごの地図によると、目的の場所を目指すにはどうやらこの中に入っていかなければならないらしい。しかし。


「……ええと、やっぱり帰ろうか」


「たまご!」


 すかさずカーボンさんが突っ込む。

 道中でひどい目にあったリックのパパは、たまごに対する遠慮がお空の彼方に飛んで行ってしまったようで、ゼノを思い起こさせる素晴らしく鋭い突っ込みをしてくれた。


「ここまでの俺の努力を無にするな! ……いや、そうではなく、村のみんなのため、水量の減った泉の秘密を探るためにここまで来たんだろう? なんでここで諦めるんだ」


 今、村より自分のことが頭にあったね。


「だって……暗いんだもん」


 もじもじするたまごだよ。


「は?」


「だからー、たまごは、お化け屋敷は嫌いなの! 言っておくけど、お化けが怖いんじゃないからね。暗いところで『わっ』とか脅かされるのがすごく嫌いなの。ここは、絶対に暗がりから魔物が『わっ』て出てくるよ、間違いないよ」


 くるっと回れ右をして引き返そうとするたまごのアームを、ライルお兄ちゃんがつかんでぐんっと引っ張った。


「いやあん、お兄ちゃんたらだいたーん」


「リカさん、逃げないでくださいね」


 ちっ、ごまかされなかったようだ。

 笑顔のお兄ちゃんに、わたしは「だってだってー」と可愛らしく訴える。


「たまごは行きたくない気分なの。じゃあ、あとはふたりにお任せね! ここでたまごハウスになって待ってるから、行ってらっしゃーい」


 お兄ちゃんの手を振りほどいてぶんぶん振るアームを、動体視力も優れているらしいライルお兄ちゃんがあっさり捕まえた。


「あなたは伝説の水龍との対決に加わらない気ですか? 鱗をむしった本人が? ……リカさん、そんなことで泉の調査を放り出したらダメですよね。あなたはなんでしたっけ。魔物を残虐に殺すだけが取り柄の『虐殺たまご』?」


「ちっ、違うよ! わたしはみんなのアイドル、『愛のたまご戦士』だよ! 清く正しく可愛らしい、愛されるたまごなんだから、そんな変な呼び名で呼ばないでよ!」


 わたしはたまごアームをぶんぶん振り回しながら抗議した。


「……虐殺たまご……?」


「違うの!」


 顔をひきつらせるカーボンさんに、がつんと言う。

 たまごの剣幕に驚いた彼は「そうだ、聞かなかったことにしよう。たまごなんだから仕方がないんだ、たまごなんだから」とぶつぶつ呟いてから空を見上げ「今日はいい天気だな!」と爽やかに汗を拭った。


「わたしはみんなのために働く、いいたまごなんだよ。……ああもう、わかったよ。みんなのためにがんばって、泉の調査をするよ、もうもう! さすがはたまご取り扱い主任者だね、たまごを操るのが上手いね!」


 すねるわたしに、やり手のギルド職員は「お誉めにあずかり光栄です」と言った。


「さすがはリカさんです。それじゃあ、僕が手をつないで行ってあげましょう」


「……え? 今、なんて言ったの?」


 お兄ちゃんが、自ら、このたまごと手をつなぐって言ったの?


「怖いなら、僕が手をつないで行くと言ったんですよ。魔物が出てしまえば、もう怖くないでしょうから手を離します。あとは煮るなり焼くなり……おっと、そうではなく、ひと思いに優しさをもって、魔物を倒しましょうか」


 な、なんていうツンデレのデレ!

 ライルお兄ちゃん最大のデレが炸裂した今、たまごはお兄ちゃんの思うがままだよ!


「うん、たまご、がんばる!  そして、魔物はひと思いに倒すよ。さあさあ、出発するよ! カーボンさん、早く早くー」


 右のたまごアームをお兄ちゃんに握ってもらったわたしはあっさりと手のひらを返し、カーボンさんを急かしながら暗い洞窟の入り口に足を進めた。

 カーボンさんは、「たまご取り扱い主任者だと?  ライルはものすごいスキルを持った冒険者だったんだな、いや、すっかりお見逸れした」と首を振りながら着いてきた。


「そうだ、お兄ちゃん、真っ暗だけど大丈夫?」


わたしには、オートで発動する暗視野スクリーン(ゾンビ映画みたいに見えるので、好きじゃないよ)があるけど、ふたりはどうするんだろう。


「カーボンさんは松明とか持ってるの?」


「一応、簡易の照明魔道具を持ってきてあるが、あまり長時間はもたないぞ」


「心配無用です。簡単な灯りなら出せますから」


 お兄ちゃんはそう言うと、ミスリルの剣を鞘から抜いて上に掲げた。すると、その先が光り出した。


「わあ、すごい! それは魔法なの?」


「基本的な生活魔法のひとつです。ミスリルの剣は魔力の伝導がいいのみならず、増幅効果もありますからね。僅かな魔力の消費で灯りをともしておけます」


 さすがはランクAのウルトラスーパー冒険者だね、お兄ちゃん、かっこいい!

 カーボンさんも、これには感心したようだ。「たまご使いで魔法使いの剣士とは、ますますもってお見逸れした!」としきりに感心してるけど……『たまご使い』ってなにさ?




 緩やかに下る道を進むと、段々洞窟内が広くなってきた。そして、なんだか壁がキラキラしているところがある。

 天井からは、鉱物の結晶のようなものが下がっているんだけど、その中にも光っている物がある。

 洞窟内には蝙蝠のような飛ぶ魔物だか生き物だかがいるけれど、特に攻撃してくるわけでもないので放っておく。


「ねえ、あの飛んでるのがとまると、石が光ってない?」


 そう、蝙蝠もどきが結晶にとまると、そこが光るのだ。


 わたしはたまごアームを伸ばすと、先端を硬くして、天井からぶら下がる結晶を軽く叩いた。


 こーん。


「おおっ!」


 いい音が響き、結晶が光を発した。暗い中で綺麗なブルーに発色している。

 そして、発光はかなりの長時間続いている。


「刺激を与えると光るようですね」


「うん、面白いね」


 もうひとつ、今度は強めに叩いてみる。

 かーん、といって、さっきより明るいピンクに光った。

 さらに、叩く。

 きーん。今度は金色だ。

 どんどん石を叩くと、様々な色に光る。


「ねえ、これを叩きながら行けば、灯りは要らないんじゃない?」


 かーんこーんきーんこーんかーんかーん。

 いろんな色が混ざって、洞窟内がいい感じに明るくなった。

 そして、綺麗な響きも加わるから面白いね。


 かんこんきんこんこんここんこかん

 けけけんきんけんきききんかかかん

 こけんこけんこけんかんきかんこん

 きんかかかかかんかんこんかけこん


「うわああああああ眩しい! 眩しいぞ!」


「リカさん、叩きすぎです!」


 リズムに乗って、いい感じに結晶を叩き『OH YEAR!』な気分でノッてたら、ふたりからクレームが来てしまった。顔の前に手でひさしを作ったライルお兄ちゃんとカーボンさんに「めっ!」と叱られて、しょぼんとするたまごだよ。


 と、その時。


「お兄ちゃん、あっちの方でなんか眩しがってるものがいるよ」


 わたしはアームをしゅるりと伸ばすと、黒いものが多数のたうち回ってるところの天井を、けこかんかこきんここんここんと、調子よく叩いた。

 石が発光して、そこに照らされたものは。


「あれは、アンデッドの群れじゃないか!? 俺たちを待ち伏せして襲うつもりだったんだな」


 なんだかゾンビっぽいものがたくさん、『GOAAAAAAAAAAAAAAAA』とかなんとなくアメリカンな叫び声をあげているよ!


「強烈な光を浴びて、苦しんでいますね」


「奴らに襲われたら、毒も持っているし、大変なことになるところだった」


「うわー、腐った系の魔物だね!」


 深緑色と青のまだらで、気持ち悪い魔物たちだ。そして、奥からどんどん仲間がやってくるよ。


「リカさんはここにいて、時々石を叩いてください」


「よし、行くぞ!」


 ライルお兄ちゃんとカーボンさんが剣を抜いてゾンビの群れに向かっていき、光を浴びて弱まった魔物たちをすごいスピードで葬っていく。


「がんばれー、オーイエー!」


 かこかん、きこかん、ここんかこん!


 わたしはお兄ちゃんの指示通りに石を打ち鳴らした。

 その時、ポーン、とたまごからのお知らせが来た。


『リズムマスター』を覚えました


 なんの役に立つのかわからないスキルが身についちゃったよ、オーイエー!

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