表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
勇者召喚編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/89

勇者召還編 ミランディアの魔物

「さて、これからの予定ですが」


 鎧を身につけたお兄ちゃんが言った。


「川を下って集落を探す、以上でしょ」


 全裸のたまごが言った。


 朝食の片付けを済ませ(たまごに「片しといて」って頼んで現れた空間に突っ込んだだけ)毛布も片付け(「洗っといて」とクリーンボックスに突っ込んだだけ)あとは結界を解いて出発だ! という状況だ。


「んじゃ、行こ」


 わたしは『たまごの結界解除』と唱えて、川下へと向かった。


「リカさん、待ちなさい!」


「わあ!」


 たまごアームをつかまれて、かっくんとなるたまごだよ。


「なにするの! たまごに首があったら、むちうちになるところだよ」


 わたしは文句を言ったが、お兄ちゃんはアームを離してくれない。

 そして、なにかを言いたげに見つめてくる。


 はっ、これはもしかすると……!?


「お兄ちゃんはたまごと手をつないで」


「行きたいわけではありませんよ、もちろん! リカさん、行動する前にきちんと話を聞きましょうか!」


 力強く宣言すると、ライルお兄ちゃんは後ろでたまごアームを結んでしまった。アームがどうなってるのかわからないので、わたしは解くことができなくて、後ろでもぞもぞさせながら「ひどいやお兄ちゃん!」と文句を言う。

 ほっぺたを膨らませたいところだが、残念ながらたまごにはほっぺたがないのだ。


「あなたの行動の方向性は決してまちがっていません。しかし、リカさんのことをよく知る僕に、念のために説明してください。今、どうやって川を下ろうと考えましたか?」


 わたしは胸をそらせて言った。


「たまごは地面から浮いてるし、水面でも浮いてるの。だから、たまごアームでお兄ちゃんをつかんで、水面を川下へびゅーんって飛んでっちゃおうと考えたんだよ! そうしたら、すごく早く確実に着くからね」


「……そんなことだろうと……」


お兄ちゃんは、額に手を当ててうつむいた。


「あ、もちろんお兄ちゃんには、あらかじめ酔い止めのために『すごいたまごアイス』を食べてもらおうと……ああっ、薬草と毒消し草がないから作れなかったんだった!」


 たまごの『調合』には、材料が必要なんだよ。

 この世界には、薬草や毒消し草があるのかな?

 あるなら早くゲットしたいな。


「ごめんごめん、お兄ちゃんが酔わないように気をつけて飛ぶからさ、さあ行こう! アームをほどいて!」


 しかし、ライルお兄ちゃんは重々しく「ダメです」と言った。


「どうして!? たまご酔いが辛いのはわかるけど、ちょっとくらい我慢しなよ」


「いえ、たまご酔いも由々しき問題ですが、僕が言いたいのはそのことではありません」


 うわーん、解きかけたアームをきゅっと締められちゃったよ!


「昨日僕が話したことを覚えていますか? この世界へ僕たちを召還者した者の所に、直接転移しなくて幸いだった、という話を」


「もちろん!」


 今聞いて思い出したんだけどね、てへ。


「僕はこの国のことを充分に観察してから、僕たちを招いた人々に接触したいと言いましたよね」


「はい、言いました」


 直立不動でいいお返事をする。


「この国にどんな生き物がいるか、どんな魔物がいるか、調べながら行きたいのに、びゅーんと飛んで行ってどうするんですか?」


「あ」


「しかも、あなたの勢いを見ると、この国の人に接触したとたん、『勇者のたまごだよ! この国に入り込んだ魔物を倒しにきたよ!』なんて自己紹介するつもりだったのではないですか?」


「あ」


 物真似が上手だね。

 そう思ったけど、言えなかった。


「……やはり図星ですね」


 ため息をつかれちゃったよ!


「さ、さすがはお兄ちゃん、愛するたまごの心の中までお見通しなんだね!」


「たまご取り扱い主任者なので」


「愛じゃないの? 単なるスキルなの?」


「スルーで」


 卒のない笑顔でスルーされちゃったよ!


「とにかく、あなたはうっかりと余計なことを喋る可能性があるので、ここの人々に接触するときには、僕の話に合わせるようにしてもらいたいのですが」


「はい!」


「まず、勇者として召喚されたことは口外しません。異世界から来たこともなるべく伏せます。いよいよ告げるときには、『そういえばそんな夢を見たような気がする』といった感じのぼかした表現にしたいと考えています」


「はい!」


「僕たちは旅の冒険者です。遠いところからやってきたので、この国のことをまだ良くわかってない、みんなと交流を深めつつ知識を身につけてていきたい、というスタンスで行きましょう。神のかの字も出さないように」


「はい!」


「まずは、魔物と戦いながら自分の力を確認し、この世界についての情報を集めていきましょう」


「はい!」


 お兄ちゃんはすごいな。さすがは大人で手練れの冒険者だよ。いろんなことをきちんと考えている。

 そうか……たまごに守られたわたしと違って、ライルお兄ちゃんは強いとはいえ生身の人間なんだ。わたしとは危険度が桁違いなんだ。ゲーム感覚でいたら、命を落としてしまう可能性もあるんだ。


 わたしは前に、神に約束をさせた。エンドルクの国のお気に入りの人たちに『幸運ごつごうしゅぎ』を与えることを。大切な人たちがそう簡単に死んだりしないように、守って欲しいと頼んだ。

 それがこの世界でも有効なのかはわからない。

 だから、絶対防御力を持つたまごのわたしが、体を張ってお兄ちゃんの命を守らなくちゃ。

 お兄ちゃんはわたしが守る。

 たとえ……どんな犠牲が出るとしても。


「……リカさん?」


「大丈夫、わたしはお兄ちゃんの妹分の、素直なたまごだよ。ちゃんとお兄ちゃんの言うとおりにするよ!」


 わたしは殊更ことさら明るく言った。


 危ない危ない。たまごの中の仄暗ほのぐらい気持ちがお兄ちゃんにバレたら大変だ。


「大丈夫、お兄ちゃんはたまごパーティーのリーダーだよ。そして、たまごはリーダーを全力で守るから、たまごの殻の船に乗った気持ちでいてね」


「なんとも不安定な船ですね」


「もう!」


 わたしがすねたらお兄ちゃんは苦笑したけれど、「ありがとうございます、二次被害が恐ろしいので、お気持ちだけいただいておきます」とたまごのてっぺんを撫でてくれた。





 ライルお兄ちゃんとわたしは、歩いて川沿いに進んで行った。たまご索敵で検索したら、そっちの方向にちゃんと村があったのだ。


 お兄ちゃんは歩きながら木や草や、空を観察していたけれど、ここの植物はやはりエンドルクのものとは違っているようで、薬草や毒消し草を見つけることができなかった。そして、たまごの能力はエンドルク仕様のようで、ミランディアではなんとか魔物は鑑定できたけれど、植物までは網羅していないようだ。


 まあ、魔物が索敵・鑑定できるのは助かるけどね!


 と、言うわけで。


「お兄ちゃん、右手前方に魔物がいるよ。3匹、トカゲに似た奴で硬いうろこ、魔法使わず、中程度のレベル! ここはたまごが体当たりで」


「僕が行きます。体当たりは中止、後方の守りをよろしく」


 ミスリルの剣を抜き、片手で構えながら、お兄ちゃんは軽いフットワークで獲物に近づいた。回り込むと、少し離れた所にいた1匹に斬りかかり、あっさりと首をはねた。

 トカゲもどき(リザラスク、という魔物で、あっさりとした柔らかい肉が美味しいらしいよ)は驚いたことに後ろ脚で立ち上がり、前脚から20センチくらいありそうな鉤爪を出してお兄ちゃんに襲いかかる。

 

「あぶな……いと思ったら」


 お兄ちゃんは手首を返すようにして、長い剣を目にも止まらぬ早さで回転させた。二匹リザラスクの前脚が、手首から落ちた。

 そのまま横に剣を払うと、首も飛んでおっこった。


「うわ、強い! 早い!」


「さすがはミスリルの剣ですね。軽くて腕の一部のように振るえるのに、この斬れ味です。しかも」


 お兄ちゃんが剣を下に振ると、トカゲもどきの体液が全部落ちた。


「防染力もあって、手入れもいりません」


 ミスリル、すげーな!


 しかし、これは剣がいいだけではないと思うよ。さすがはランクAになっただけあるね、たいした腕前だよ。硬いうろこの魔物を、バターを斬るよりも簡単に、さっくりと斬っちゃってさ……。


「リカさん、この魔物はどうしますか?」


「あ、肉が美味しいって出てるから、高く売れるんじゃないかな? わたしが持って行くよ」


「そうですか。無一文なので、少し稼いでおきたいですね。積極的に魔物を探して、倒しながら進みましょう」


「うん……」


 わたしはリザラスクを三体しまうと、いそいそとお兄ちゃんのところに近づいた。


「どうしました?」


「うん、稼げる旦那さまって素敵」


「……ゼノは元気にやってますよ。確か、大物を倒して勲章と金一封を賜っていたような記憶が……」


「たまごをゼノに丸投げするのはやめてよ!」


「エドもなかなか剣の才能があって」


「年齢一桁の少年にも投げるなんて、お兄ちゃんの鬼畜!」


 ライルお兄ちゃんは、ははは、と楽しそうに笑うと「さあ、今日中に村につきましょうね」と言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ